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蒸魔素機関の街 09




 スイングベル商会での交渉――とも言えない一方的な要求を突きつけた後。ベルスレイア達は適当な高級宿にて一泊した。

 翌日。宿にリーゼロッテを残し、冒険者証を持つ三人だけで帝都の外へと出ていた。


「――で、何の為にダンジョンへ向かっているのかしら」

 ベルスレイアは、今回の計画を立てた張本人――ルルに尋ねる。

「ほら、支部長さんが言ってたでしょ? あたしらは実力に関してはSランク並み。でも、冒険者としての経験が足りない。だからEランクから始めるしか無い」

「そうね」

「だったら、冒険者として十分な素質があると、一気に証明してやるのよ。そうすれば、勝手にギルドの方があたし達のランクを上げてくれる」

「それは把握しているわ」


 ベルスレイアも、当然ルルが言うことは理解していた。だからこそ、重要な点は別にある。

「で、ルルは何故ダンジョン探索が最善だと考えたのかしら」

「冒険者ってのは冒険をするのが仕事でしょ? だったら、バカ正直にダンジョンでも制覇してやる方が手っ取り早いかと思ってさ」

「ふふっ。単純だけど、理屈は立っているわね」


 ――ダンジョン。迷宮や遺跡などとも呼ばれる、世界に点在する奇妙な土地の総称。魔素が吹き溜まり、異様な数の魔物が生息する。

 中でも遺跡と呼ばれる、古代文明によって作られた人工的なものは特別である。自然に魔素が吹き溜まり、集まったわけではない。何らかの装置によって、魔素を集めているのだ。

 よって、装置を破壊することでダンジョンも崩壊する。魔素により魔物が異常に増えることも減る。異常繁殖による被害の頻度も下がる。


 よって、遺跡型のダンジョンの破壊はあらゆる冒険者が目標としている。遺跡の破壊は、人々の望む悲願でもある。故に、遺跡破壊者、ダンジョン踏破者は尊敬される。冒険者としては、最高峰の栄誉の一つである。


 また、ダンジョン内には多種多様な資源が存在する。濃厚な魔素が、特殊な魔物の誕生を促す場合がある。薬草の類が育つこともある。鉱物資源もまた同様である。魔素を注入された金属が魔法金属に変化するのだ。

 そして――他ならぬ遺跡型ダンジョンでは、古代の異物、アーティファクトと呼ばれる魔道具が出土する場合もある。

 そうした資源を持ち帰り、ギルドに納品する。これもまた、冒険者としての名を高めるのに十分な実績と言える。


 そうした多種多様な実績を、一度に達成することが可能な場所。それがダンジョンという存在なのだ。

「それに……帝都の近くには有名な遺跡型ダンジョンがある。未だに踏破されていない、超大型ダンジョンさ。そんなものを、あたしたちで踏破したら――どこまでランクを上げてもらえるか、楽しみじゃない?」

「そうね。全くその通りだわ。さすがルル、やっぱりこういうことを考えてもらうのはルルに任せるのか一番ね」

 ベルスレイアは満足気に言いながら、ルルを褒める。得意げな笑みを零すルルは、しかし照れ隠しのように続けて言う。

「まあ、それもこれも昔とった杵柄ってやつのお蔭だよ」


 ルルはかつて、王国貴族に取り入るため多種多様な知識を学んでいた。その中には、地理、歴史に関する知識もあった。帝国の地理、歴史について学べば、自ずと帝都付近に存在し続ける巨大遺跡型ダンジョンについても知ることとなる。

 お蔭で、今回の行動を選択することが出来たのだ。

 ――こうした知識面での助力もまた、ベルスレイアがルルに望むものの一つである。


「で……今回挑むダンジョンというのは、どんなダンジョンなのですか?」

 シルフィアが尋ねる。

「そうだね――正式名称は『帝都北部大遺跡』。冒険者の間では『奈落の遺跡』とか、『最悪の谷』とか言われてるダンジョンだよ」

「そ、それはまた仰々しい名前のダンジョンですね」

 顔を引き攣らせるシルフィア。


「名前もそうだけど、立地も大概だよ。――ほら、そろそろ見えてきた」

 ルルの言葉で、シルフィアは前方に目を凝らす。そして……眉を顰める。

「何も無いじゃないですか。谷があるばかりで」

「だからさぁ。その谷が『遺跡』そのものなんだって」

「は?」


 ルルに言われて、改めてシルフィアは目を凝らす。そして――信じられず、谷へと駆け寄り、覗き込む。


「なに――これ!?」


 大地を裂く、巨大な谷。底さえ見えない深い谷の岸壁に、無数の建造物が張り付いている。それらは見渡す限り横にも縦にも広がり――谷一面を埋め尽くすほどの、広大な範囲を占めていた。


「大陸東部に存在する、底すら見えない世界最大の谷。魔物や魔族の生まれ出る故郷とも言われる『深淵の谷』。その岸壁に作られたのが、通称『奈落の遺跡』『最悪の谷』と呼ばれるこの帝都北部大遺跡だよ」


 ルルの解説を耳にしながらも、シルフィアは目を見開いたまま、驚愕のあまり呆然としていた。想像を絶する巨大遺跡。その有様を見て、気が動転しているのだ。

 一方で――ベルスレイアは満面の笑みを浮かべた。


「素晴らしいわ、ルル。この私が制覇するに、これ以上相応しいダンジョンは無いわね」


 帝都北部大遺跡――史上最悪の未踏破ダンジョンと呼ばれ、歴代のSランク冒険者のパーティさえ踏破出来なかった伝説の遺跡。

 それを前にしてなお、ベルスレイアは一切臆する様子が無かった。

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