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裏切りと拒絶 04




「……ねえ、清美? さすがに、それは酷いんじゃないかな」

 英美里の肩越しに、薫が話しかける。

「いくら昔いろいろあったからってさ。すぐに英美里を疑うのは良くないよ。なんていうか……清美らしくない」


 薫の言葉に、清美はショックを受けた。らしくない、等と言われて心外だった。最も疑わしい人間を事実に基づいて疑っただけ。しかも、本人が違うというのだから、それを受け入れたのに。

 これ以上、何をどうすれば自分らしいのだろう? わけが分からず、清美は混乱した。


 だが原因は分かっている。英美里の二面性だ。英美里が本当は今でも清美と敵対していることを、清美だけが知っている。今もこうして、慰めるような演技をしているのだと分かる。

 でも他人にとってはそうではない。英美里は清美の良き理解者なのだ。


 しかし、だとしても清美は納得出来なかった。自分が理由なく他人を疑うはずが無いのに。どうして信じてくれないんだろう、と。私と薫の間に築いてきた信頼関係は、こんなに簡単に崩れるものなの? と不安になる。


 不安は一度膨れ上がると、際限の無い疑念が生まれる。何を言っても、自分の言葉なんか信じてもらえないかもしれない。たとえ本当のこと――英美里が今まで自分を相手にしてきたことを口にしても、誰も信じてくれないかも。いいや、きっと信じない。

 そう思えば、もはや清美には何の反論も返すことは出来なかった。


 黙りこむ清美に、さらなる追い打ちが飛んでくる。

「……ねえ清美。やっぱり貴方、最近おかしいわ。きっと、あのLTOとかいうゲームをやりすぎているせいよ。ねえ、ゲームなんかやめて、元の優しい清美に戻ってほしいわ。私、その為だったらいくらでも協力するから」

 雪菜が見当違いの助言と協力を申し出る。


 これにやはり、清美は混乱した。

 元通りの、優しい自分を雪菜は求めている。なのに、ゲームをやめろと言う。それはおかしな話だ。何しろ、清美はゲームの中では昔のままだ。誰にでも優しく、救いの手を差し伸べ、愛嬌よく会話し、たとえ騙されても人を恨まない。そんな、聖人君子のようなプレイスタイルで有名プレイヤーとなったのだから。


 昔の自分と会いたいなら、今すぐゲームを――LTOを始めればいいのに。そう清美は考えた。どうして知りもしない世界を平気で否定できるのだろう。見たこと無い私の生活の一部まで、まるで見てきたように知ったかぶるのだろう。


 やっぱり雪菜も……私と過ごした時間に、何の意味も無かったんだね。と、清美の心にある種の諦めのような感情が湧き上がる。薫と雪菜。信頼する、大切な友達二人の裏切りによって、すでに心はボロボロだった。


「清美さん……英美里さんに、謝ってください。こんなに優しくしてくれる人を疑うなんて、最低です!」

 今度は、美緒だった。清美の行為を批判し、英美里をかばう。


 しかし、だったら。清美の心に反論と熱い感情が煙の如く立ち込める。優しくしてくれる人を疑うなんて最低だって、間違ってるって言うなら……美緒だってそうじゃないの? 私は、美緒が喜んでくれるようにいろいろ頑張ったつもりだったよ。でも、全部意味がなかったのかな? そんなの、優しくしたうちに入らなかったのかな。私がやったことなんて……何の価値も無かったのかな。


 清美の心をどす黒い思いの刃が埋め尽くしていく。しかも、他人を責めることができないせいで、全て自分自身を傷つけていく。

 自分のしてきたことに何の意味もなかったから。何の価値も無かったから。だから誰も、私の味方をしてくれないんだ。誰も私を助けてくれないんだ。

 何の価値もないことしかしてあげられなかった私なんか、根拠なく嫌われて、疑われて、否定されて、拒絶されたって仕方ない。


「……ごめんね、みんな」

 清美は自然と言葉を漏らしていた。

「ぜんぶ、私が悪かったの」

 その声は、どこか泣きそうに震えていた。が――仮面を被るのが上手なせいで、幼馴染の二人にさえ気づいてもらえない。


「うん、ちゃんと悪かったって認められるなら、それでいいよ」

「これから、取り戻していけばいいわ」

「英美里さんも協力してくれるはずですから。イジメなんかに負けないで、がんばりましょう、清美さん!」


 大切な友達だったはずの三人から、冷たくて遠い言葉が届く。

 ああ――もうここに、本当に私の居場所なんて無いんだなぁ。

 清美は思った。

 もう、ここに来る必要もないのかな。私なんか居ないほうがきっと……みんなの為になるよね。


 自分の中で勝手に決着を付けた清美は、笑顔で頷く。

「――うん、ありがとうみんな! 私、もう迷わないよ。ちゃんとする。頑張るね♪」

 そうして絞り出した笑顔は、かつての明るく優しい清美の笑顔そのものであった。


「チッ」

 ただ一度だけ、英美里が小さく舌打ちをしたのが、清美の気がかりであった。

 きっと誰にも聞こえていないだろうというほど小さな音を、清美はなぜか聞き逃すことが出来なかった。

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