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蒸魔素機関の街 02




 ベルスレイア達一行を乗せた馬車は、冒険者ギルドへと向かった。これは、ベルスレイアの望みによるものである。傭兵と冒険者を比較した時、冒険者の方が仕事の幅が広い。その関係で、新しい打槍の素材を集めるのに都合が良い。また、バラエティに富んだ仕事内容は飽きも来ない。片手間の遊び感覚でこなすには程よいと言えた。


「これが冒険者ギルドですかぁ」

 馬車から降りた四人は一様に、冒険者ギルド帝都支店の様相を眺める。中でも、一人だけ声を上げるほどリーゼロッテは興奮していた。こうしたごく普通の景色でさえ、リーゼロッテには新鮮で、興味深いものだった。


 冒険者ギルドは、ごく普通のレンガ積みの壁で出来た事務所が正面に。その奥には石積みの巨大な建物が併設されていた。これは冒険者の昇格試験の会場や、大型の魔物の素材解体等に使う施設である。

「あの後ろの大きな建物は何でしょう?」

 リーゼロッテがベルスレイアに尋ねる。

「魔物の解体か、冒険者資格の試験に使うんじゃないかしら?」

「なるほど! さすがベル、博識ですね!」

 リーゼロッテは些細なことでベルスレイアを褒め称える。なお、ベルスレイアの知識はゲーム時代のLTOの設定が元である。


「さあ、入りましょう」

 ベルスレイアが先導し、リーゼロッテ、シルフィア、ルルの順で続く。

 冒険者ギルドの扉を開くと、同時に視線が集まる。見慣れない女性四人組。集まったまま、視線は四人の行く先を追っていく。

 そして、ベルスレイアはギルドの受付窓口へと歩み寄る。


 この時点で、ギルドにたまたま居合わせた冒険者達は不穏なものを感じ取る。通常、冒険者というのは腕っぷしの強さが求められる。だが、入ってきた女性四人は見るからに装備の質が良く、新品同然。荒事に慣れているようには見えない。

 そんな者が、ギルドの受付に何の用があるのか。新人だとしても、何らかの依頼の持ち込みだとしても、厄介事に繋がる可能性が高い。

 そのため、誰もが本能的にベルスレイア達四人に注目していた。


「ようこそ、冒険者ギルド帝都リンドバーグ支部へ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

 受付嬢が、決まった定型句でベルスレイアに呼びかける。ちょうど、これはLTOの冒険者ギルドの受付嬢が喋る科白と同じであった。

 思わぬ部分にゲームとの共通点を見出しながらも、ベルスレイアは本題を切り出す。


「冒険者として登録したいのだけれど。この子を除いて、三人分お願いできるかしら?」

 ベルスレイアはリーゼロッテの肩を抱き寄せながら言う。受付嬢はこれに頷き、書類を三人分取り出す。

「では、こちらの用紙に登録情報をご記入頂けますか?」

「ええ。書くものを頂けるかしら?」

「はい、こちらをお使い下さい」

 三人分、魔導ペンと呼ばれるものを取り出し、受付嬢はカウンターの上に置く。ベルスレイア、シルフィア、ルルがこれを手に取り、用紙の記入を始める。


 なお、魔導ペンとは魔導器製のペンであり、ベルスレイアの前世の感覚で言えば、消せるボールペンである。ペンの頭部のゴム部分で文字を擦ると透明になるインクを使っている。また、魔素を流すとインクが焼き付き、ゴムで擦っても消せず、水に濡れても滲まない。書類作成に便利な一品である。

 実はベルスレイアも収納魔法の中に最高級品質の魔導ペンを所有している。が、取り出す様子を見せると収納魔法の所持者だと知られてしまう。実力を隠す意味でも、高品質なペンを見せずに素性を隠す意味でも、この場で取り出すべきではない。


 やがて三人がそれぞれ記入を終え、受付へと用紙を返却。受付嬢は三枚の用紙を順に確認し、記入の漏れや間違いが無いか確認していく。

 と言っても、必要なのは名前と能力の自己申告のみである。傭兵や冒険者は、元より素性の怪しい者が多い。故に、最初にわざわざ書面で細かいことは確認しない。日頃の仕事ぶりから評価し、その情報を元に個人の性質を判断する。

 よって、ここで確かめられるのは明らかな嘘を記入していないかどうか程度である。


 だが、受付嬢は表情を歪め、苦言を呈する。

「……あの、ステータスの自己申告についてなのですが」

「何かしら?」

「この申告通りのステータスをお持ちでしたら、Sランク冒険者にも匹敵する実力をお持ちだということになるのですが」

「あら、そうなの? なら私たち、Sランク冒険者として登録できるのかしら」

 ベルスレイアはニコニコと、笑みを浮かべたままとぼける。受付嬢はハァ、と一度溜息を吐く。そして、代案を提言する。


「では、実力の方を確認したいので、飛び級登録試験を受けて頂きます。準備が出来たらお呼びしますので、どこかのお席でお待ち下さい」

「分かったわ。待っていてあげるから早くなさい」

 あからさまに上から目線の物言いに、受付嬢は眉を僅かに顰める。が、冒険者には変わり者も多く、この程度の偏屈な人間相手には慣れている。特に何も言うこと無く、奥へと引いていく。

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