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蒸魔素機関の街 01




 蒸魔素機関の街。それは、帝都リンドバーグの別名でもある。

 実力主義たる帝国は、科学、文化面でも同様である。最先端をゆく技術を求めて、またより先の技術を求めて、全ての者が競い合う。

 そのため、街並みを蒸魔素機関が埋め尽くしている。


 魔素により稼働する機械、魔導器。旧式の魔素を直接利用して稼働するタイプは、出力に限界がある。そのため、高性能化には本体の巨大化を避けられない。

 一方で、蒸魔素機関は近代になり開発された新式の構造である。繊細な構造には不向きであるが、そうした部分を旧式の機関で補えば、コンパクトかつ高出力な魔導器の制作が可能となる。


 よって、性能を競い合う技術者に満ちた帝都リンドバーグは、自然と魔導器、それも蒸魔素機関を搭載したもので溢れかえることになる。

 実際に、馬車から外を覗くベルスレイアたち一行の目には、無数の蒸魔素機関が稼働する様子が確認できた。稼働する蒸魔素機関による、蒸魔素の排出。これによる湯気のような煙が、街のあちこちで吹き出る。

 他の都市、例えばサンクトブルグの王都であれば、一般に普及する魔導器に蒸魔素機関は搭載されていない。故に、街中で蒸魔素を目にすることはありえない。


「わあ、面白い光景ですね!」

 楽しげな声を上げるリーゼロッテ。

「これが、蒸魔素というものなのですか?」

「ええそうよ、リズ」

 リーゼロッテの問いに答えるのは、これもまた楽しげな様子のベルスレイア。


「魔素というものは、大気中に偏在する粒子のようなものなの。これを集め、圧縮すると、通常の魔素を扱うよりも高い出力が得られるようになる。このエネルギーを消費した後の魔素は、通常よりも低位のエネルギー状態を持つの。この魔素を大気中に放出すると、周囲の高いエネルギー状態の魔素と反応し、蒸魔素と呼ばれる煙を発生させるわ」

「へぇ、とっても面白いですね!」

 リーゼロッテの反応が良い為、ベルスレイアは機嫌を良くする。そして、さらに蒸魔素の話を続ける。


「実は、通常の魔法や魔導器でも、蒸魔素と同じ現象は発生しているの。ただ、圧縮しない場合はエネルギーの高低差が小さいから、ほとんど目に見えないのよ」

「確かに……魔法も魔導器も、魔素からエネルギーを貰っているのは同じですもんね。蒸魔素機関だけ特別なのはおかしいですし」

「その通りよ。ちなみに、蒸魔素と同様の原理で発生する現象は他にもあるわ。例えば、強い魔法を行使する時。その人の周囲の魔素は急激にエネルギーが低下する。結果、周囲の魔素とのエネルギー差によって煙が体から立ち込めるような現象が発生する」

「あ、それ知ってます! 魔法を使う時にもやっと立ち込めるオーラのことですよね!」

 リーゼロッテは喜々として答える。


 魔法を使う時は無論、スキルを使用する場合も魔素からエネルギーを得る。この時、急激にエネルギー差が発生する為、蒸魔素と同様のものが発生する。

 ただし、この場合は蒸魔素機関とは異なり、魔法の属性やスキル使用者の適性により、白以外に発色する。

 例えば、ベルスレイアがスキル『覚醒』を発動する場合。周囲に赤いオーラが漂うが、これが正に蒸魔素と同じものである。またベルスレイアの適性により、蒸魔素は白ではなく赤に発色している。


「それにしても、こんなに魔導器技術が発展していれば、期待もできますね」

 会話に入ってきたのは、シルフィア。

「そうね。王都でも見たことのないような魔導器ばかりだもの」

 ベルスレイアは頷いて答える。

 この会話が指すのは、ベルスレイアが帝都を訪れた目的の一つ。己の武器、打槍を強化する手段の模索である。

 街を眺めるだけでも、未知の技術が散見される。ベルスレイアの圧倒的な破壊力に耐えうる打槍の制作に役立つに違いないと思えた。


「でもさぁ。技術でどうにかなる問題じゃない気もするんだけど?」

 文句を付けながら馬車から顔を出したのは、ルルである。

「あんだけの破壊力があるんだから。反動で構造がイカれちゃうのは仕方ないんじゃない?」

「それは私も理解しているわ。けど、あくまでも新技術は新技術。役に立たないということは無いはずよ」

「ま、確かに。調べて損するようなことでもないもんね」

 ルルの出した結論を、ベルスレイアは頷き肯定。


「何にせよ、王都とは違って楽しめそうね」

 つぶやくベルスレイアの瞳には、期待の色が浮かんでいた。

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