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機械帝国への道のり 05




 ベルスレイア達の乗った馬車は、いよいよ帝都を目前とする所まで来ていた。

 帝都へ入るためには、入場門で検査を受けなければならない。そのため、検査待ちの馬車が列を成している。その最後尾に、スイングベル商会の隊が並んだ。

 進行は極めて緩慢である為、傭兵や商隊の者達による歓談が始まる。馬車から降りて、各々が隊を離れない範囲で自由に移動する。

 ベルスレイアもまた、こうした輪に交わる。極端に交流を拒絶すれば、不審に見られる。今はまだ、そういった疑いをかけられるわけにはいかない。


「お、噂の凄腕女じゃねぇか!」

 ベルスレイアが馬車を降り、適当に歓談する集団に近寄ったところで声がかかる。

「こんにちは、皆さん」

 ベルスレイアは笑顔で応対しながら、輪の中へと入っていく。


「何のお話をされていたのですか?」

「そりゃあ、お前さん達の話に決まってるだろ。颯爽と現れ、賊を斬り伏せた凄腕剣士の美少女! 話題にならないわけがねぇ」

「あら、そうなんですか? うふふ、ありがとうございます」

 笑みを浮かべながら、礼を述べるベルスレイア。だが、胸中には苛立ちを抱えていた。

 あの程度の賊に追い込まれる無能共が、気安くこの私に話しかけるなんて罪深いわ。ああ、気分が悪い。


 だが、ベルスレイアは本心を微塵も悟られずに、表情を取り繕う。

「ですが、あの時は間に合ってよかったですわ。あと少し遅れていれば、恐らく護衛の皆さんか、商隊の何方かに被害が出ていたかもしれませんし」

「ああ、そうだな。俺たちもプロだ、あの状況でも、賊を追い返すことは可能だったろう。しかし、犠牲なしとはいかなかったな。仲間の誰かが死んでてもおかしくなかった」

「改めて、ありがとうな、嬢ちゃん!」

 護衛の傭兵たちは、気さくな態度でベルスレイアに感謝の声をかける。ベルスレイアは微笑みを返す。


 しかし頭の中では暴言が荒れ狂っていた。

 ――全く、話にならないわ。あの程度の戦力に囲まれたぐらいで、怪我人が出るなんて冗談以下の話だわ。そもそも、囲まれていたのは賊に追い込まれたという証拠。クズ相手にあそこまで追い込まれたんですもの。本当に状況を切り抜けられたかも怪しいわね。


 そうして、ベルスレイアと傭兵たちの歓談は続く。傭兵たちの発言に苛立ちながらも、ベルスレイアはごく自然な対応を演じ続けた。

 その間に検査待ちの列は進み、スイングベル商会の順番も近づいていた。交流も十分に行ったと見て、ベルスレイアが馬車に戻ろうとした時であった。


「ベル、何をしているんですか?」

 ベルスレイアの耳に、何よりも尊き声が届く。

「あら、リズ! どうしたのかしら?」

 ベルは本心からの笑顔を浮かべ、リーゼロッテに近寄る。そして手を取り、胸に抱えるようにして向かい合う。

「ベルが何をしているのか、気になって見に来てしまいました。いけませんでしたか?」

「まさか。そんなことないわ。リズがやりたいようにすればいいのよ。不都合があれば、私がどうにかしてあげるから」

 演技も何も無く、素の態度でリーゼロッテと言葉をかわすベルスレイア。


 この態度に、傭兵達は驚いた。これまでの会話の中だと、ベルスレイアは愛想の良い令嬢でありながら、落ち着いた態度を崩すことは無かった。しかし、リーゼロッテが姿を見せた途端、興奮した様子で声を上げた。

 対話で得た印象とは全く異なる様子に、誰もが意表を突かれた。

 だが――中には、それ以外の点に気を取られている者もいた。


「おぉ、その嬢ちゃんも仲間かぁ! えらい別嬪じゃねえか、なあ!」

 傭兵たちの中の一人の男が声を上げ、ベルスレイアとリーゼロッテに近づく。そして、自然な態度を装ってリーゼロッテの肩に手を伸ばす。

 これは、単にリーゼロッテという美少女の登場に舞い上がり、気が大きくなったが為の行動である。やましい意味で手を出したわけではなく、軽く肩に手を置くぐらいのつもりであった。


 だが、ベルスレイアは許さない。

「――何をするつもり?」

 次の瞬間には、男の手首を掴み、捻り上げていた。リーゼロッテに向けて伸ばした手は、無様に天を仰ぐ。

「いってぇ! な、なにすんだよっ!?」

 男は抗議の声を上げるが、ベルスレイアに対しては意味を成さない。理由など関係なく、下賎で無能な塵屑が、リーゼロッテに触れようとした。それだけで、十分な罪である。


「私のリズに何をしようとしたのかしら。正直に言わないと、骨を折るわよ?」

「な、何って、肩に触ろうとしただけじゃねぇか!」

「お前が触れていいような相手だとでも思ったのかしら。骨の一つで思い直してくれたらいいのだけれど」

「わ、わかった! もう近づかねぇよ! そっちの嬢ちゃんには手を出さねぇ! だから腕は勘弁してくれぇ!!」

 傭兵の男は、必死に懇願する。それでようやく、ベルスレイアは手を離した。慌てて距離を取る男の方を見ながら――微笑む。


「ご理解いただけたようで助かりますわ。申し訳ありませんが、リズに手を出すような輩は殺さなければなりませんので」

「こ、ころっ!?」

 傭兵の男は驚き、怯えて後ずさる。

「あら、それとも? 死んだほうがマシな思いをしてみたいと?」

「い、いや! 近づかねぇから! なんもする必要はねえ! 勘弁してくれぇ!!」

 ベルスレイアの脅しは確実に効いていた。そして、様子を見ていた周囲の傭兵たちにも同様である。誰もが、ベルスレイアの言葉をしっかりと受け止める。


 こいつは、やばい。

 触れてはいけない逆鱗があるのだと、誰もが理解した。



 なお、この件は尾を引いた。ベルスレイアの想定よりも早く、かつ想定外の形で、傭兵の間で話題となる。目論見通り、一目置かれる結果となった。

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