表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

105/180

機械帝国への道のり 03




 ならず者による騎馬兵の集団は壊滅した。

 ベルスレイアが状況を作った後は、一方的な掃討戦。隊商の護衛にも犠牲は出なかった。

「……よかった。皆さん、ご無事でしたか?」

 ベルスレイアは、日頃より一段階高まった声色で優しく呼びかけた。


 ――無論、演技である。

 そもそも、戦闘行為からして演技を含んでいる。ベルスレイアのステータスであれば、息をする間に騎馬兵を全滅させることも可能であった。だが、そんな実力を見せつけては『目立って』しまう。

 帝都で好き勝手するならば、影でこそこそとする方が都合がいい。であれば、表では目立たない方が良い。単純な損得勘定である。


「助かりました。皆さんは?」

 護衛の一人の男が、ベルスレイアに近寄りながら尋ねる。

「通りすがりの旅人です。ベルスレイア、と申します」

 ニコリ、と微笑み、会釈するベルスレイア。愛らしいその仕草に、男はつい顔を赤らめてしまう。

「そ、そうですか。中々に優れた剣術の使い手とお見受けしますが」

「はい。幼き頃から、護衛のシルフィに教わってきましたので」

 ベルスレイアが、視線をシルフィに向ける。シルフィアはこれに応え、一歩近寄ってからお辞儀をする。


「ご紹介に預かりました、シルフィアと申します。お嬢様の護衛を務めさせて頂いております」

「なるほど……貴族様でしょうか?」

「いえ。父の商売が上手くいっているお蔭で、少々恵まれているだけですわ」

「ほう。――スイングベル様!」

 護衛の男は声を張り上げ、馬車の方へと呼びかける。すると、馬車から恰幅の良い男が姿を現す。


「なんですかな?」

「商家のお嬢さんらしい。話すなら、あんたの方が都合がいいかと思ってな」

「ほうほう、それは」

 恰幅の良い男――スイングベルは顎をさすりながらベルスレイアへと近づいてきた。


「ベルスレイアと申します」

「ふむ。初めてお聞きする名前ですが」

「聖王国の方の出身ですので」

「ああ、そうですか。通りで……」

 スイングベルは、ベルスレイアを品定めするように視線を送る。


「……何故、帝都の方に?」

「見識を深める為ですわ。それに――王都は色々と、良くない噂が広がっておりましたので」

「それは初耳ですな」

「ここ最近の話です。なんでも、王家転覆を図る貴族が反乱を企てているのだとか」

 この言葉に、スイングベルはピクリ、と反応する。


「それで王都に居続けるのは危険と判断した父が、私たちを逃してくれたのです」

「ほうほう」

 笑顔を浮かべたまま、スイングベルは言う。

「随分と口が軽いようですな」


 僅かばかり、不穏な空気が漂う。警戒したようにシルフィアが身構え、同時に護衛の男も身構える。

 だが、ベルスレイアは笑みを浮かべたまま手を翳し、シルフィアを制する。

「いいのよ、シルフィ。疑われるのは当然ですわ」

「……はい、お嬢様」

 シルフィアは構えを解き、ベルスレイアに従う。護衛の男もまた、警戒を解く。


「お喋りな商人には、下心が付き物。そうではありませんか?」

「ふむ……では、今回助けていただいたのも?」

「当然、交渉の材料として、ですわ」

「そうですか、ふむぅ……」

 悩むような表情を浮かべるスイングベル。そこに、ベルスレイアは畳み掛けるように言葉を重ねる。


「先程も言った通り、私達は王都から逃げてきました。今後の活動拠点として帝都を選んだわけですが、右も左も分かりません。治安も悪いといいますし。帝都の常識や習慣、知らなければならないことは多々あります。具体的に何を、という話ではありません。私達『四人』が帝都に慣れるまでお付き合いいただけませんか? という話です」

「なるほど。……ん、『四人』ですか? 三人ではなく?」

「ええ。離れた場所に待機してもらっています。今、『彼女』の護衛が迎えに行っておりますわ」

 ベルスレイアは言って、周囲を見渡す。そこには既にルルの姿がない。スイングベルも、状況を理解する。


「……話が逸れましたな。ベルスレイア殿は、要するに帝都での後ろ盾が欲しい、というわけですな?」

「はい、簡単に言ってしまえば、そうですね」

「――いいでしょう。それであれば、我々にとっても良い提案がありますので」

「あら、そうですか?」

「ええ。……どうやら、お仲間もいらっしゃったようです」

 スイングベルが言って、視線を向ける。その方角から、ルルとリーゼロッテが駆け寄ってくる。ベルスレイアも一度視線を向け、すぐに姿勢を直す。


「では、続きは馬車の中でどうでしょうか?」

「ええ、構いませんとも。お嬢さん方を帝都までお送りしましょう」

 こうして、ベルスレイアとスイングベルの交渉は場所を移すこととなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ