婚約破棄と計画的逃亡及び強奪 24
叫び、ベルスレイアは跳躍する。
同時に――スキル『血の翼』を発動。背中に血色の翼を生み出し、羽ばたかせ、加速する。天高く舞い上がり、ゴーレムの身長よりも遥か高くまで到達する。
「気合、入れていくわよ!」
言いながら、ベルスレイアは打槍を高く掲げ、振り下ろしの構えをとる。
同時に、打槍の蒸魔素機関を可動させる。ガシュゥッ、ガシュッ! と、繰り返し、魔素が打槍の機関部で圧縮される。圧力を増した魔素は高いエネルギーを生み、打ち出し時の打槍の破壊力を高める。
具体的には――チャージ一回につき最終攻撃力が一割上昇。これが、LTO時代はゲームの仕様上三回まで可能であった。
だが、この世界にはそのような制限が無い。限界ギリギリ――打槍が構造的に耐えうる回数まで圧縮を重ねる。
ガシュウ――と、最後の圧縮音。計十回の蒸魔素機関のピストン運動が生み出したのは、最終攻撃力の倍化。
最終攻撃力は数値にして――三千四百。万全時のゴーレムを三度も破壊可能なほどの威力。
スキル同士のシナジーによる、暴力的な一撃。これの前に、たかが合計四百程度のダメージ軽減など、まるで意味を成さない。
「――ぶっ壊して差し上げるわッ!!」
ついに、ベルスレイアの制裁が下された。
極限まで高められた威力を伴う、打槍の一撃。音速を超えて打ち出された杭は、周辺に衝撃波を撒き散らす。これがゴーレムの頭頂部に対する一撃でなければ――地上であれば、周辺を瓦礫の山に変えてしまえるほどの衝撃。
そして――直撃を受けたゴーレムの巨体は、悲惨だった。
最初に、打槍の杭が生み出した鋭い衝撃が身体を突き抜けた。ゴーレムの頭頂部から胴体を貫き、大地まで到達。巨大な柱でも引っこ抜いたような穴が空く。
続いて、衝撃が全身に伝わりゆく。岩の集合体は容易く粉砕され、まるで風船のように膨らむ。原型が崩れ、巨人の姿さえ保てなくなる。
そして最後に――爆砕。過剰すぎるベルスレイアの攻撃力、魔法力がゴーレムという個体を徹底的に破壊する。大地に叩きつけるような方向に、天地のひっくり返った地雷のように。ゴーレムであった瓦礫達を砂粒になるほどの衝撃を伴い、叩きつける。
完膚無きまでに破壊された、ゴーレムだったもの。今は、ただの砂塵。衝撃の余波、そして大地へ叩きつけられた反動で舞い上がる。砂煙が、砂漠の嵐のように周囲を包む。
だがそれも一瞬のこと。ベルスレイアの攻撃の余波は、その砂塵でさえ吹き飛ばす。爆心地は一瞬にして晴れ上がる。砂塵は市街地へ。そして王城方面へ飛び散っていく。
「――あぁ、気持ちよかった。これだから、打槍はやめられないわね」
爆心地に降り立った吸血鬼、ベルスレイアは清々しく言った。
砂塵に巻き込まれながらも、ルル、シルフィア、リーゼロッテはベルスレイアの勇姿を見つめ続けていた。
「……さすが、ベルです!」
何も考えず称賛するリーゼロッテ。
「こ、こんなこと、ありえるのですか?」
眼前で繰り広げられた、非現実的な現象を受け止めきれないシルフィア。
「ありえちゃったんだよ、目の前でね」
シルフィアとは逆に、理解や共感をすっ飛ばして受け入れる他ないルル。
戦闘の余波は、三人にとってはダメージとなるようなものではなかった。ベルスレイアの攻撃がゴーレムを対象としていた。これに加え、その破壊力を余すこと無くゴーレムに伝えた。その甲斐もあり、周囲への被害は最低限で済んでいた。
とはいえ、さすがに爆心地――ゴーレムの立っていた場所についてはその限りではない。大地は陥没し、半径十数メートルにも及ぶクレーターを形成している。中央には、直径一メートルほどの深い穴。
紛れもなく、ベルスレイアの一撃によるものである。
「……さて。これだけやれば、この国もビビって私達に手出ししてこないでしょうね」
ベルスレイアは、満足げに呟く。
「さあ、みんな。行きましょう」
「行くって? どこへですか?」
リーゼロッテがベルスレイアに問う。
「もちろん、外の世界。私達が好き勝手できる、新しい場所へよ」