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裏切りと拒絶 03




 清美は靴を抱え、ずんずんと英美里の居る場所――つまり教室へと向かった。すでに放課後であった為、クラスメイトの半数は立ち去っていたが、それでも人は多い。

 そんな場所に、ズタズタの靴を抱えてくる清美。当然、誰もがギョッとして、視線を向けた。


 清美は英美里の眼の前に立ち、靴を掴んで差し出す。

「ねえ英美里。私、別に自分が嫌がらせを受けるのはいいんだ。それは仕方ないよ。私のせいだもん。仲良く出来なかった私が悪いんだから、嫌われて酷いことをされても仕方ない。そう思って、いくらでも我慢出来るよ。でもね……靴はダメだよ。私だけのものじゃないから。お父さんとお母さんが働いたお金で買ったものだもん。壊されちゃったら、さすがに怒らなきゃいけないよ」


「……清美? 何の話だ?」

「お願い、英美里。私が悪いなら、幾らでも謝るよ。でも、こういうことは止めて欲しい。私のことをズタズタにしてもいい。けど、持ち物はやめて。お父さんとお母さんのお世話になって買ったものだもん。ボロボロにされたら、両親に申し訳が立たないから」


 清美の理屈は飛躍していた。自分自身への嫌がらせよりも、持ち物への破壊行為の方が忌避感が強い。それは自分のダメージは自分の責任だけで済むが、持ち物は親の金に負担をかけることになる。つまり、他人を巻き込んでいることになるのだ。故に清美にとって、優先順位は自分より所持品の方が高い。


「ちょっとまってくれ、清美。わけが分かんねえよ。アタシが、何かしたのか? その……靴をボロボロにした奴が、アタシだって言いたいのか?」

「そうだよ。英美里以外に、こういうことをする人が今は思い浮かばない」


 清美は考える。今、清美のことを好きな人はクラスに一人も居ないと言っていい。しかし、嫌悪するほど嫌っている人も居ないはずだった。

 だというのに、ここまで酷い仕打ちをする人間がいるだろうか? 大した嫌悪感も無く、他人の靴をズタボロにする人間。


 いない。清美は断言できた。善意を信じているからではない。リスクに見合わない行動を、激情も伴わずに実行できる人は居ないのだ。だから、清美は今回の犯行は相当な恨みつらみが重なって起こったものと考えた。


 そして、この条件に最も適合するのは英美里だ。

 英美里は清美の面の皮を剥がして、本性を見たいと思っている。しかし、どれだけ追い詰めても清美は清美であることを止めない。身だしなみが崩れたのは、寝不足なのは疲れとLTOに費やす時間のせい。人と関わる数が減ったのは、その人達が自ら望んだせい。清美自身が、何かを変えたわけではない。


 だから英美里にとって、今の変貌してしまった清美もまた、昔と変わらぬ清美に過ぎない。面の皮の下は、未だに見えない。どれだけ追い込んでも、一瞬チラリと見えるだけ。

 そんなストレスが積もり積もって、ついには癇癪めいた行動に出てしまったのだろう。


 それが、清美の予想した今回の顛末の真相。つまり、清美をさらに追い込むため、英美里がより過激な手段に出ただけに過ぎないというわけだ。


 しかし英美里は、そんな清美の予想を否定する。

「アタシがやるわけねえだろ! なんでアタシが、清美にこんなことするやつと一緒にされなきゃいけねぇんだよ! そんなことより、これやられたのいつだったか分かるか? アタシが犯人見つけて、とっちめてやるから」


 当然、嘘であろう。清美にもそれぐらいは分かる。だが、人を嘘つき呼ばわりはできない。そんなことをするのは、悪い子だから。清美は、疑わしくとも英美里を信じるしかない。


「……そっか。違うって言うなら、それで良いよ。私は英美里を信じるから」

「当たり前だ、バカ。アタシが……お前にこんな酷いこと、するわけねえよ」

 英美里は悲痛な声で主張を漏らしながら、清美を抱きしめる。教室がざわつく。クラスメイトが英美里の人柄に感心して、清美の行為に幻滅する声だった。誰もが一連のやり取りを見たとおりに理解した。いじめを受けた清美。清美を心配する英美里。なのに英美里を疑う清美。


 誰がどう見ても、清美が悪者という状況だった。

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