鈴本清美という少女 01
はじめましての方は、はじめまして。前作『ツルギの剣』からの方は、お久しぶりです。
今回の新連載は、キャッチーな作品を目指して作り込みました。
楽しんで読んでいただければ、幸いです。
なお、タイトルを回収するまではかなり時間を要します。
また、プロローグも長いです。転生するだけでもけっこうかかります。
どうかお付き合い下さい。
「――きよみ~! こっちにパス!」
ある学校の、体育館にて。バスケットボールの跳ねる音。きゅきゅっと靴の擦れる音。その最中に、少女の声が響く。
「おっけ! まかせて!」
そして少女の声に答える者が居た。
艷やかで、夜の闇のように深い黒髪を長く伸ばし、これを高い位置で纏めている少女。目鼻立ちが良く、形も優れている。その為に一目見た者は誰しも同様に、まるで人形のようだと思いを馳せる。
その人形のように愛らしい少女――名は鈴本清美と言う。その清美が、手に持っていたバスケットボールを投げる。カットに入ろうとした少女の股の間を抜き、パスを要求した少女へと通した。
「ナイスパス!」
清美からボールを受け取った少女は一言感謝し、跳躍。
次の瞬間、ボールは少女の手から離れ――ゴール。
僅か数秒間の出来事。清美がパスを回し、少女がスリーポイントの距離からロングシュートを決めた。
これと同時に、ピィっと試合終了の笛が鳴る。
得点を示す電光掲示板からは、清美の側の得点が相手の倍近くなっていることが見て取れた。
「おつかれ、清美! 最後のパス、最高だったよ!」
「ありがと、薫♪」
清美は最後にパスを回した少女――バスケ部員の蓮城薫と言葉を交わす。
「でも、勝てたのは薫のおかげだよぉ」
にへら、と柔らかく微笑む清美。その笑顔に薫だけでなく、他のチームメイトもほだされる。
「ううぅ、またそうやって可愛いことを言う。このこのっ」
薫は清美を抱きしめ、背中に拳をぐりぐり当てる。
「私たち一のA組が勝てたのは、私のシュートだけじゃなくて清美の働きもあってこそだからね?」
言って、薫はコートを見回しながら本日の出来事に思いを馳せる。
この日、清美たちの高校は春の恒例行事としてスポーツ大会を行っていた。
新入生である一年も例外ではない。清美の属するA組も、バスケ、ソフトボール、バレーボールの三種目に人員を出さねばならなかった。
身長が高く、外見や人柄に優れていた清美が、どの種目にもクラスメイトの推薦で出場するように決まったのは必然とも言える話であった。
そして最初の種目、バスケットボール。幼馴染であり清美と同じ中学出身の薫は、揃って活躍してみせた。薫はバスケ部のエースであったから当然でもあるが、清美は違う。特に決まった部に入部しているわけでもない。が、それでも薫に次ぐ活躍を見せた。得点も、三分の一ほどは清美が入れたものだ。また、清美のサポートがあってこそ薫が得点できた場面も多かった。
言わば、一のA組はこの二人だけの力で勝利したのだ。
「薫ちゃんもすごかったけど、清美ちゃんもすごかったね!」
「どうしてバスケ部入んないの? 運動好きじゃないとか?」
チームメイトが、清美に声をかける。清美は曖昧に微笑みながら、受け答える。
「ええっとぉ……私ね、色んな部活で助っ人に呼ばれることが多いから、あんまり特定の部活には入らないようにしてるんだ。いつでも、友達の助けになれるようにって」
「へぇ~、そうなんだ。じゃあ、スポーツなら何でも出来ちゃう感じ?」
「うん、一応ね。あとは剣道や柔道、空手なんかも大丈夫だよ」
「マジ!? 天才じゃん!」
「っていうか清美ちゃん。それだけ凄いのに、部活に入ってないのが友達の為って。天使すぎるでしょ~!」
「あはは。天使ってほどじゃないよ。友達が幸せなら、私だって幸せになれるからね♪ 一緒に頑張って楽しくって、お互いウィンウィンの関係って感じかな?」
「うわ~、まじ天使! というか引くわ!」
「清美ちゃんじゃなかったら許されない発言だよねぇ」
……等と、清美はチームメイトに囲まれたまま会話を繰り返す。
が、それを遮るように薫が言葉を発する。
「清美、そろそろ次はバレーの方が始まるんじゃない?」
「あ、うんっ! 頑張ってくるね、薫♪」
「おうおう。頑張ってきな!」
薫にぽんと背中を叩かれ、清美はコートを離れて行くのであった。