4話 『1匹狼』の横暴
その日は常連客が多く忙しい日だった。
あれから月猫さんは定期的に装備のメンテナンスをうちの店に依頼してくれるようになった。
なんでも月猫さんはクランに入っているようでどこのクランも専属の鍛冶職人を欲しがっているようだ。
ただ、月猫さんが
『私もそうでしたが、支援職はあくまでも支援職。私達のために働けばいいと思っているクランが多いようで。』
『お金を払えば来てくれると思っているクランが多いようですね。』
『うちのクラマスは専属の鍛冶職人には興味ないみたいですけど。』
『ただ、専属鍛冶職人の申し出を断って、悪いうわさを流されて被害を受けている店があるらしいです。』
『気をつけてくださいね。』
月猫さんには忠告ありがとうと伝える。
月猫さんは
『いつも完璧ですね。また来ますね。』と言ってルンルンで帰っていた。
月猫さんが帰って30分後に
重戦士風のムキムキのオジサンが店に入ってきた。
武器を見ることなく
真っ直ぐにその足でこちらに近づいてきた。
『あんたがここの店主か?』
『そうですが、何のようでしょうか?』
『俺は【一匹狼】(ロンリーウルフ)のレイ・ライオネルというものだ。これからはレイと呼んでくれ!』
『早速本題に入るが、あなたにクラン専属の鍛冶職人としてうちで働いてほしい。』
『お金の心配をすることはない。』
『一応契約金として200万円、契約中は月々50万円払おう。』
『どうだ、悪い話じゃないだろ?』
『むしろ、いい話だと思うがな一生俺達が面倒みてやるってことだからな。』
この人勝手に話を進めてるよ。
これはゲームだぞ?
自由に楽しむゲームなのになぜ縛られないと駄目なんだ?
『じゃあ契約でいいな。』
『!?』
『ちょっと待ってください。私は何も返事してませんよ?』
『?』
『断る理由が一切見当たらないぞ。』
『しかも、アルケミストじゃあ店もしんどいだろ?』
『素材は俺達攻撃職が取ってくるんだ。』
『Win-Winな関係じゃないか?』
流石にそれは横暴すぎないか?
どこがWin-Winなんだ??
『職人としてそのような話が来るということはある程度認めてもらっていると認識させていただきます。』
『ただ、すみませんがお断りさせていただきます。』
『どれだけ、お金を積まれても私は専属の職人になるつもりはないです。』
『これはあくまでもゲームです。』
『自由度の高いゲームです。』
『考えは人それぞれですが私は今くらいの忙しさが丁度自分に合ってると思います。』
『いいお話を持ってきていただいたのに申し訳ないです。』
きっぱり断らせてもらった。
そういえば【一匹狼】って少数クランだけどランキングには常に上位に載るところだったような。
しかし、この態度ならどこの職人も専属には成りたがらないだろうな。
レイの様子を見てみると顔を赤くしてプルプルと震えている。
『!!』
レイが突然カウンター越しに私の胸ぐらを掴んできた。
『おい!てめぇ俺がどのクランかわかって言ってんのか?』
『わざわざ凄腕のアルケミストがいるからって聞いて来たのにその態度はないだろう?』
『お前ら職人ははいはい言ってればいいんだよ。』
『何、口答えしてるんだ?』
と凄んできた。
『手を離してもらえませんか。』
『私を殴ろうが、押さえつけようが専属の職人にはなりませんので。』
と冷たく言い放つ。
『てめぇ俺を敵に回したことを後悔させてやるからな』
と言って手を離したが私を睨めつけて近くにあった空の木箱を蹴りあげて出ていった。
ふー。
なんだったんだ?
後悔させてやるってどういうことなんだ?
そんなことを考えながらログアウトした。
数日後【アース】をプレイしてる友人から連絡が来た。
『ガクの店、すごい悪評ついてるぞ?』
・店主が粗暴。
・クズ職業のくせにプライドが高い。
・商品も高くて、ぼったくり。
・武器の依頼したら軽くあしらわれた
など
『ガクの名前を入れたら掲示板でボロクソに叩かれてたわ。』
『最近なんかあった?』
最近あったことねー。
『あー!!』
『レイ・ライオネル!』
『おっ!【一匹狼】のクラマスだな。』
友人に事情を説明した。
『あのオッサンいい噂聞かないからな。』
『狩場を独占してるのはあの人らなのに違うクランに狩場の独占はよくないって』
『あと素材をトロールしてる噂あるらしいぞ』
⚠ここでの【トロール】とは、別クランや別パーティがモンスターを倒してドロップしたアイテムを無断に持ち去ることをいいます。
『どうやってるかは不明なんだが。』
『例えば早く走り姿を消す能力をもつ職業があればありえる。』
『黒い噂が多いのか。』
『情報をありがとう。』
とりあえず注意だけしつつだな。
目に余るものがあったら通報も視野に入れないとな。