3話 職人の想い
それから2日後
鍛冶職人の『伊予の誉』(いよのほまれ)さんが来店した。
『私』の店の近くで鍛冶屋を開いている女性プレイヤーだ。
ご近所付き合いとしてではなく、同じ職人仲間としてゲーム内で飲みに行ったりしているのだ。
そんな誉さんが愚痴を言いに来た。
『ガクさんのところに最近月猫というくのいちのプレイヤー来なかったかい?』
『来ましたね。何も買わずに出ていってしまいましたが。』
『やっぱりかい。うちの店に来て暗器が欲しいので良いものを見せてほしいってね。』
『うちが叩いたもので最高傑作を見せたのよ。』
『これがほしいと。今使ってる武器を頭金にして買いたいって言ってきたんだけど…』
『いい武器なのに、状態が悪く打ち直せば強いものだからそのままのほうがいいって伝えたんですか』
と誉さんに訪ねた。
『ガクさん。さすがだね。』
『彼女にそれを伝えたら、あのクソケミスタのガクっていうやつと同じことを言うのですね』
『って言ってきたのよ。すごく腹がたったんだけどとりあえず話を聞いてみたのよ。』
『売れないって言われたから文句を言って出てきたと』
『でもどの店に言っても売ってくれないの。って言ってたわ。』
『流石に腹が経ったから、どこの店言っても買えなかった理由ちゃんと考えたら?』
『って言ったら激昂して帰っちゃったのよ。』
『彼女、武具は消耗品だって言ったので売れないと言ったんですが、あの人いろんなところでそれを職人に言い放っているんですね。』
すると扉が開きベルが鳴る。
するとくのいちの『月猫』さんが来店した。
彼女はすごくバツが悪そうに入って来て
『誉』さんがいるのを見てすこし驚いた表情をしていた。
『こんにちは。あー。伊予の誉さんもいらっしゃったのですね。』
『NPCのドワーフに怒られてしまいました。武器を大切にしないやつになんて売らねーってね』
NPCなのに怒るってAI積んでるのか?
そういえばこのゲームのNPC普通に井戸端会議してるな。
『それでですねー。あのー。えっとー。』
すごく歯切れ悪くモジモジしている。
『どうしたんですか?私達は職人です。注文がないと答えることも何もできないです。』
『この骨喰を打ち直してほしいのです。アイテムロールからの付き合いでして。』
『どこいっても売ってもらえず。自分の師匠に武器を打ち直してもらうならどこがいいか聞いたらココだと。』
『そうですか。わかりました。あなたが今後メンテナスしてくれることを願って今日はお代は結構ですよ。』
『えっ!お金は払います。』
『いりません。その代わりうちの店でメンテナスさせてくださいね。』
そう言って『私』は【骨喰】を持ってたたら場へむかう。
これで月猫さんが改心してメンテナスしに来てくれることを望んで
ちょっとしたプレゼントしてあげるかな。
【骨喰】に少し特別な【玉鋼】を食わせる。
【骨喰】は対象の耐久力を下げる能力をもつ。
しかし、鍛冶職人のハンマーは少し特別で、特殊な加護が付いており耐久度が減ることはない。
叩き上げていくと白い光の中に【骨喰】と【玉鋼】が合わさり完成した。
【暗器 骨喰+】
アルケミストの能力により高純度な【光の玉鋼】と混ぜ合わせ強化済み。
光属性付与。
アンデット系モンスターに斬撃が当てれる。
黒く地味だった【骨喰】が黒光りしているがどこか気品のあふれる武器となった。
【光の玉鋼】はアルケミストの錬金能力で高純度の鉱光石から取った【光石】と高純度の【玉鋼】を錬金して作ったもの。
【暗器 光の玉鋼】はこの素材を使って作られたものである。
【暗器 骨喰+】を持って売り場の方に戻る。
そして、月猫さんに商品を受け渡した。
『耐久度あげてますので、少々のことでは壊れなくなったと思います。』
『えっ!これ!』
『光の玉鋼はアルケミストにしか作れない素材なんですが』
『月猫さんが武器を大切にしていただけることがわかりましたので私からのプレゼントです。』
『え、でも。』
『気にしないでください。』
『あの時は本当にすみませんでした。』
『お代は本当にいいんですか?』
『今日はなしで構わないですよ。』
『ただ、1つだけ約束してください。』
『このことはナイショにしてください。』
『アルケミストはあくまでもクソ職業という認識化で置いてて欲しいです。』
『そうじゃないと商売敵が増えますからね。』
『知っててもなる人は限りなく少ないと思うがな』と誉さんが苦笑していた。