海の向こうから来た少女
それから数年の月日が流れた。
重たい雲の中から散る雪が、少女のオレンジ色の髪の上に降り積もる。積もった雪はやがて髪の主の体温に溶かされては消えていく。彼女はとある町の石畳の上に横たわり、その目を閉じようとしていた。
「やだ。あんた、いったいどうしたのよ!」
通りがかりの女が悲鳴のような声を上げ、少女を勢いよく抱き起した。
「うーん……」
少女は面倒くさそうに瞼を持ち上げ、澄んだ青い目で女の方を見た。
「こんなところで寝たら死ぬわよ! どこから来たの? 名前は?」
「ハンナ……」
少女は答えた。それと同時に腹も鳴った。
「お腹すいた……」
「えっ?」
温かく燃える暖炉の前で、ハンナは羊の燻製とスープを頬張った。
「――それじゃあ、あなたはすっと一人で凍った海の上を歩いてきたっていうの? そのクヌートっていう人を追って?」
「そうだよ」
「でも、それって何年も前の話なんでしょう?」
「ええ。もう十年くらいになるかな。ある時突然出て行ってしまったの。色々良くしてくれた人だから、私いつか後を追いかけようって決めてて」
「無茶よ。だって……何の手がかりもないのに」
「あるよ」
ハンナはそう言うとポケットから小瓶を取り出した。
「何よそれ。見たことない植物……」
女が尋ねる。
「私もよくわかんない。でも彼を一番見つけやすいのは私なんだって、ルミが」
「なんだかよくわからないけど、あんた変な子ね……」
考えるのが面倒になった女は適当にそう言ってテーブルに肘をつく。
「ごはん食べさせてくれて本当にありがとう。早速で申し訳ないんだけど、もう行かなきゃ。お礼は必ずするから!」
「何言ってんのよ、こんな雪の日に。もっといなさいよ」
「大丈夫! 私は結構頑丈だから。そうだこれあげる!」
ハンナはそう言うと、女に先ほど見せたものとは別の小瓶を手渡した。
「何よ、これ?」
「持っていると悪いものを遠ざけるよ。それじゃあ、またね」
ハンナは家のドアを開け、勢い良く雪の中に飛び出していった。
「えっ、ちょっと!」
女はハンナのあとを追おうとしたが、彼女はあっという間に白銀の世界へ消えていった。
続編も書けたらいいなぁ……
その場合こちらの続きからではなく新規作成する予定です。




