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白銀の国 ―極北のクヌート―  作者: 生吹
エピローグ
55/57

海の向こうから来た少女

 それから数年の月日が流れた。

 重たい雲の中から散る雪が、少女のオレンジ色の髪の上に降り積もる。積もった雪はやがて髪の主の体温に溶かされては消えていく。彼女はとある町の石畳の上に横たわり、その目を閉じようとしていた。

「やだ。あんた、いったいどうしたのよ!」

 通りがかりの女が悲鳴のような声を上げ、少女を勢いよく抱き起した。

「うーん……」

 少女は面倒くさそうに瞼を持ち上げ、澄んだ青い目で女の方を見た。

「こんなところで寝たら死ぬわよ! どこから来たの? 名前は?」

「ハンナ……」

 少女は答えた。それと同時に腹も鳴った。

「お腹すいた……」

「えっ?」



 温かく燃える暖炉の前で、ハンナは羊の燻製とスープを頬張った。

「――それじゃあ、あなたはすっと一人で凍った海の上を歩いてきたっていうの? そのクヌートっていう人を追って?」

「そうだよ」

「でも、それって何年も前の話なんでしょう?」

「ええ。もう十年くらいになるかな。ある時突然出て行ってしまったの。色々良くしてくれた人だから、私いつか後を追いかけようって決めてて」

「無茶よ。だって……何の手がかりもないのに」

「あるよ」

 ハンナはそう言うとポケットから小瓶を取り出した。

「何よそれ。見たことない植物……」

 女が尋ねる。

「私もよくわかんない。でも彼を一番見つけやすいのは私なんだって、ルミが」

「なんだかよくわからないけど、あんた変な子ね……」

 考えるのが面倒になった女は適当にそう言ってテーブルに肘をつく。

「ごはん食べさせてくれて本当にありがとう。早速で申し訳ないんだけど、もう行かなきゃ。お礼は必ずするから!」

「何言ってんのよ、こんな雪の日に。もっといなさいよ」

「大丈夫! 私は結構頑丈だから。そうだこれあげる!」

 ハンナはそう言うと、女に先ほど見せたものとは別の小瓶を手渡した。

「何よ、これ?」

「持っていると悪いものを遠ざけるよ。それじゃあ、またね」

 ハンナは家のドアを開け、勢い良く雪の中に飛び出していった。

「えっ、ちょっと!」

 女はハンナのあとを追おうとしたが、彼女はあっという間に白銀の世界へ消えていった。


続編も書けたらいいなぁ……

その場合こちらの続きからではなく新規作成する予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読ませていただきました。いやー、凄い名作でした。胸を抉るようなシーン、描写が沢山あって、だんだん読むのが辛くなってきたりもしましたが、それだけにラストあたりでのオーロラや朝日の美しい描写、…
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