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白銀の国 ―極北のクヌート―  作者: 生吹
6.それぞれの旅路
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レオンとの再会

「で、私にスーヴァ村へ飛べと言うのですね?」

 アウロラは村の子供たちに囲まれ、好き放題されながら言った。すっかり人気者のようだった。子供たちにとっては巨大な羽毛布団のようなもので、背中に乗られたり胸に顔を埋められたりと、とにかく好き放題されている。

「すっかり人気者だな」

「なんと言いますか、この村の子供たちはまったく物怖じしませんね。さっきお尻の羽を一本抜かれましたよ」

 随分度胸のある子供がいたものだとクヌートは思った。

「じゃあ二本目が抜かれる前にここを出るか」

「ええ、助かります」

 青く透き通る空に、真っ白なシロフクロウが翼を広げる。アウロラは風に乗って高く高く上昇した。空気は澄んでおり、ずっと遠くの景色まで見渡すことができる。白銀の世界のずっと向こうに、真っ青な海が見えた。その海を見た時、ふと潮の匂いが記憶の彼方から鼻の奥へ流れ込んでくるような感覚に襲われた。

「海か……」

 クヌートはぽつりと呟いた。

「海がどうかしましたか?」

「いや、大したことじゃない。昔暮らしていた村が、海の近くだったんだ」

「海といえば、これから鯨漁の季節がやってきますね。海の近くの村ということは、やったことあります?」

「ああ。子供の頃から父親には何度も漁に駆り出された。大人になったら鯨で生計を立てるものだと思っていたよ。盗賊が村にやってくるまでは……」

 クヌートの頭の中で、仮死状態にあった記憶の断片が徐々に息を吹き返し始めていた。記憶の表面を覆っていた分厚い氷が解け始めているのだ。それでも、まだ記憶の底には何か重大なものが沈んでいるような気がしてならない。

 彼は何気なく、軍にいた時の記憶を再び呼び起こそうとした。


 ――何も知らない。何もなかった。


 何か手ごたえが掴めそうになると、もう思い出すことなど何もないとでも言うように、別の意識に跳ね除けられる。

「どうかしましたか?」

 何かを感じ取ったアウロラが声を掛ける。

「何も」

 咄嗟にそう答えるよりなかった。自分でも何が起きているのかよくわからないのだ。

「もうすぐ着きますからね。しっかり掴まっていてください」


 それから暫く飛び続けると、鋭利な岩肌を剝き出しにした巨大な山脈が姿を現した。強風のためか、岩肌の表面の雪が風に流されている。まるで山が熱い息を吐いているかのように、白い煙が宙に舞って消える。

 アウロラは一層力強く羽ばたき、高度を上げた。山の真上を通り過ぎると、反対側に小さな村とどこまでも広がる海があった。

「なるほど。これは……徒歩で行くのを止められるわけだ」

「ほら、あれがスーヴァ村です。降りるので、落ちないようにしっかり掴まっていてください」

 アウロラは村の入り口に降り立った。突如降り立った巨大なシロフクロウに村人は驚き、すぐに集まってきた。クヌートは警戒されるものと思っていたが、あろうことか村人たちは皆一様にアウロラに向かって手を合わせ始めた。

「おい、どうなってる?」

 クヌートはこっそりアウロラの耳元で囁いた。

「こちらでは私のような魔獣は神として認識されているのです。見た目こそ似ていますが、彼らはあなたとは違う民族です」

 アウロラはそう言って片目を瞑って見せた。

「クヌートか? 思ったより早かったな!」

 一人の青年が人だかりの中から飛び出してきた。赤い髪、青い目、ハンナとよく似ている。だいぶ成長してはいたが、その姿は間違いなくハンナの兄、レオンだった。

「どういうつもりだ? 何故こんなところにいる? あの手紙は――」

 村の中を歩きながら、クヌートは尋ねた。レオンは既に村の人間に話をつけていたらしく、すぐに村の中へ通された。

「ここはな、ブランカの古郷なんだよ」

 レオンは何食わぬ顔でそう答えた。

「あれから俺は魔女について調べるために腐るほど本を読んだり、老人から話を聴いたりしたよ。ブランカが何も教えてくれないからだ。俺に深入りしてもらいたくなかったんだなきっと。手紙のやり取りの中で、うまいこと生まれ故郷を聞き出したんだ。まあ、死んじゃう前に聞けたのは運が良かったよ」

「ここにいて、何か収穫はあったか?」

「ああ、思ったより多かったよ。まあ、外で立ち話もなんだし、俺が借りてる小屋に入ろう。話はそこでするから」

 レオンはそう言ってクヌートを小屋へ案内した。彼は何か重要な手掛かりを掴んだようだった。




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