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第7話 ピクニックに行こう



 正気を疑うような主の言葉を聞いた後、その件の人物を執務室に送り届けたギューブは、ある者に声をかけていた。


「魔王様は誑かされてしまったようだ。作戦通りに、あの人間を始末せよ」

「御意」


 主は、人間がどれほど卑怯で汚らわしい存在か知らない。

 ギューブは、その目を覚まさせてやらねばならないと思っていた。


『こんなに難しい玩具の謎を解いてしまうなんてすごいわね。じゃあ、今日から貴方の名前はキューブ……いいえ、ギューブよ。強そうで素敵でしょう? 頭が良いからと言っても、頭でっかちな子にならないようにね』

『君には、やがて生まれてくるだろう僕達の娘を頼みたいんだ。期待してるぞ、頑張ってくれよ」


 今は亡き、この城の主……数年前までに仕えていた者達の為にも。





 ピクニックの日がやって来た。今日もとても気持ちのいいカイセイの日だ。

 マジンゾクの人たちが多く暮らしているこの辺は、キコウが穏やかで晴れの日が多いんだって。


 お日様がさんさんと輝いていてると、心までぽかぽかあったかくなっちゃいそう。


 僕と、マジュウ達、そしてアイリスちゃんとギューブさんはポチの動かすマジュウ車に乗って遠くへお出かけ中。


 ポチだけに仕事を任せるのは可愛そうだから僕は、大きな背中に乗って特等席。

 ゆっくり流れてく景色を見つめてると、ほっぺがふにゃふにゃになっちゃうよ。


「えへへ」


 嬉しいな、とっても嬉しいな。

 すごく嬉しいから自然と笑顔になっちゃう。


「何をニヤニヤしておるのだ、気持ち悪いぞ」


 そうやって一人で笑っていると、後ろに乗ってるアイリスちゃんが聞いてきた。


「だって、アイリスちゃんとのお出かけ、とっても嬉しいんだもん」

「そ、そんなにか。そんなに童とピクニックするのが楽しいか、そ、そうか……。まあ悪い気はせぬな……」


 後ろの方、馬車の中から「魔王様……」とギューブさんが何か言ってるような声が聞こえたけど、アイリスちゃんは気づいていないみたいだ。代わりに僕が聞いてあげれば「人間は黙っていろ」って怒られちゃった。

 この間からずっと怖いままなんだよね。一体どうしちゃったのかな。


「でもそっか、今日はアイリスちゃんと友達なんだね。やったー」

「ふふ、ノゾミは本当におかしな奴じゃのう。今朝から何度目だ?」

「だって、本当に本当に嬉しいんだもん」


 我慢なんてできないよ。

 天気が晴れで、遊びに行けるのも嬉しいけど、その事が一番嬉しいんだ。


 魔王様としては友達になれないけど、お城以外の所なら魔王様でいる必要がないってアイリスちゃんが言ってくれたから、だからピクニックしてる時はずっと友達なんだ。


「僕ね、友達になったらアイリスちゃんに聞きたい事があったんだ!」

「ほう、何じゃ? 今の童は気分が良い。何でも答えてやろう」

「ほんと! やったー。あのね……」


 僕は聞きたかった事を言葉にしようとするんだけど、その瞬間に馬車が止まっちゃった。


「目的地についたようだ。魔王様、こちらに」

「む? もうついてしまったのか。もう少し散歩を楽しみたかったのじゃが、仕方あるまい」


 馬車から出て来たギューブさんが差し出した手を掴んでポチの背中から降りてっちゃう。


 まあ、いっか。

 お城に帰るまでならたっぷり時間もあるし。そのうち聞けるよね。





 気持ちのいい草原で敷物を広げてゆったり。

 魔王城のチュウボウ特性のお昼を食べた後は遊びの時間だ。


 最初はポチを怖がっていたアイリスちゃんだけど、一緒に遊ぶうちにすぐに仲良くなっちゃった。

 

 大きな体のポチが、投げたボールを一生懸命追いかけて拾ってくるのを見た時には「これはこれで可愛いかも知れぬ」って、言ってくれたんだ。


 マジュウ達はとっても個性的な友達ばかりで、一緒に遊ぶには注意しなくちゃいけない事がたくさんあるんだけど、それでもこうやって何のキガネなくのんびり過ごすのはとっても楽しいし気持ち良かった。


 いつもなら反対するギューブさんなんだけど今日は何も言わないから、アイリスちゃんともたくさん遊べちゃう。

 でも、見てるだけのギューブさんはつまらなくないのかな。

「一緒に遊ぼうよ!」って言って誘うんだけど、断られちゃう。


 皆で遊んだほうが楽しいはずなのに、ちょっともったいないな。


 ひとしきり遊んだ後は、疲れて敷物の上でアイリスちゃんは眠っちゃった。ポチと一緒になって、ふかふかしてて温かそう。


「お前に一つ頼みたい事がある」

「えっ」


 僕も眠ろうかなと思っていたら、何とギューブさんに頼まれ事をされちゃった。

 珍しいな。とっても驚いたけど、でもすごく嬉しい。


 いつも教えられたり怒られたりする事ばっかりだったから、嫌われちゃってるのかなって思ってたけど、そうじゃなかったのかもしれない。

 アイリスちゃんと違って、ずっと仲良くなれなかったから寂しかったんだ。


「この先をもう少し行った先に、いい湧き水が出ている泉がある。そこから水を汲んできてくれないか」


 何でも持ってきた水筒の水を不注意でこぼしてしまったんだって、いつもしっかりしているギューブさんらしくないや。


 でも、確かにお水がないと喉が渇いてこまっちゃうよね。


「うん、分かったよ。すぐに取ってくるね」


 よーし、頼りにしてくれたギューブさんの為にも、任された仕事をがんばっちゃうぞー!


 だけど僕の声で、ポチが起きてしまったみたいだ。


「クーン」


 のっそりと起き上がって、一緒についていくって言ってる。


「目的の場所は遠くにある、連れていけ」

「うん」


 ポチたちも喉が渇いてるのかな? だったら手伝ってもらった方がいいかも。

 ポチの背に乗っけてもらって走れば、遠くてもきっとあっという間だよね。



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