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第3話 ケンアンジコウ



 ちょっといつもよりは多かったけど「人間の食べる物がどんな物なのか分からんかったのじゃ、だからとりあえずありったけの物を用意してみた。我が勢力の物量を恐れ入るがいい」とか言ってた魔王様に美味しいご飯を用意してもらって、ベッドの上でぐっすり眠って一日目が終了。

 

 翌日僕は魔王様とギューブさんに案内されて、マジュウ小屋という場所にやって来た。マジュウっていうのは、普通の動物よりちょっとだけ変わった動物で、強かったり凄かったり変わってたりする生き物なんだって。そんな生き物の小屋に行ってどうするんだろう。


 そういえば、ポチは大丈夫かな。

 僕が大丈夫だったからポチもきっと大丈夫だと思ってたけど、寂しがったりしてないかな。

 ご飯ちゃんと食べてるといいな。

 ポチは小さいのに食いしん坊だから、散歩した後はたくさん食べるんだ。お腹すかせてないといいけど。


 どこかにいるかもしれないポチの心配をしているとギューブさんが立ち止まった。

 到着みたいだ。


 目の前には大きな小屋が一個。

 柵の向こうには動く生き物がいるみたいだ。


「まずはこのケルベロスの世話をしてもらう。数日前に付近でうろついていたのを確保したものだ。希少種なので、手荒に扱って我々の苦労を無駄にしてくれるなよ」


 ギューブさんが説明してくれてるけど半分くらい耳に入らなかった。だってそこにすごく大きなワンコがいたんだもん。

 ワンコはこちらに気づくと駆け寄って来て、大きくて丸い目をキラキラさせながら、ヘッヘッヘとこっちを眺めてくる。


 何だかポチみたいな子だなあ。


「わあ、すごくおっきなワンコだね。うちのポチよりも大きいや」

「当たり前だ。こいつは地獄の門番と語られる種なのだからな」

「そっか、おそろいだね! うちのポチも家のモンバンなんだ」

「……」


 ギューブさんはどうしてか黙っちゃった。

 具合でも悪いのかな。


「人懐っこいんだねー。僕の事じーっと見つめてくるよ」

「懐いているのではない。餌として認識しているのだ」

「僕の名前は望だよ。よろしくね。えっと名前は……」

「……ポチだ。魔王様がそれがいいと名前を付けられたのでな」


 そうなんだ僕のポチとお揃いだ。

 眼の前にいる方のポチはお腹がすいてるのかグルルルルゥ……と唸っている。


「ご飯食べないのかな?」

「それは空腹ではなく、人間を威嚇している動作だ。まあ、良い。ここにケルベロスの餌と牢屋の鍵を置いておく。私が戻ってくるまで、そいつをちゃんと与えておけ、人間」

「うん、分かったよ」


 できなかったら処分するぞ、と怖い顔で言いながらギューブさんはどこかへ行っちゃう。

 処分するって捨てるって事だよね。

 せっかく用意したご飯なのに、捨てちゃうなんてもったいないよ。

 食べ物はソマツにしちゃいけませんって、お母さんとお父さんによく言われてたもん。

 よし、頑張って餌やりしなくちゃ!







 数時間後。

 執務室、と書かれた部屋の中。

 机に置かれた大量の紙束に、一枚づつハンコを押して言っていた魔王は、欠伸をして手を止めた。


 その近くにいるのは魔王の護衛と補佐をする、ギューブ。

 ギューブは先程相手をした人間の事を考えていたが、すぐに思考の彼方へと忘れ去った。


 どうせ自分の主である魔王の戯れはそう長くは続かない。

 その内玩具に飽きるのなら、その前に早めに処分しまた方が身の為だろう。


「ふむ。……ギューブ、ちゃんとノゾミはポチに餌をやっておるかの? 少し様子を見てやって来るか」


 そんな事を考えていると、先ほどからそわそわしだしていた主が、部屋の外を気にするような素振りで、話しかけて来た。


「なりません。見に行くと言うのならちゃんと執務を終わらせてからにしてください。ただでさえジークフリート家の者達が、貴方の幼さを口実に図にのってきていると言うのに、いつか足元をすくわれて、魔王の座を奪われても知りませんよ」

「む、むぅ……それは分かっておるが。ギューブはケチじゃのう。少しくらい良いではないか」

「その少しを見逃したばかりに、半日遊び回った方はどこのどなただったでしょう」

「うぐ……。こ、今度はちゃんと守る。守れるぞ」


 渋い顔をしながらも、自分の望みを諦めるという選択肢がないらしい主は、大人用に合わせてあった椅子から飛び降りて部屋に出ようとする。


 その襟首を掴んで止めるのはいつもの事だ。

 首が痛まないように、持ちあげる。


「うぐっ、離さぬか無礼者。大体人間どもの事を知る為にノゾミを置いておるのに、会話をしなければいみがないではないか」

「意味など必要ありません。あれは人間なのですよ」


 目の前の主は忘れている事だが、数年前魔王となったこの少女の両親は城に入り込んだ人間に暗殺されているのだ。人間をこのまま置いていたら、何をするか分かったものではない。


「むぅう、なら今あやつはどうしておるのじゃ。どんな様子じゃ」


 興味を優先する事を諦めたらしい主は、大人しくなる。


 解放された少女は、年相応の表情で頬を膨らませ、せめて情報を得ようと話しかけてきたのだった。


「先ほど見て来た時はどうだったのじゃ?」

「魔獣小屋におります。ケルベロスの餌にしようかと放り込んできました。失礼、餌係にしようかと放り込んできたの間違いでした」


 それを聞いた主は、さっと顔色を変えて青くする。

 魔人族の間でも有名な、地獄の番人ケルベロスの気性はかなり洗い。

 今頃本来の餌と共にケルベロスの餌となっている頃だろう。


「なっ、何だと! そんな事をしたらポチに食われてしまうではないか!! あやつを餌係ではなく餌にするつもりか!!」


 再び部屋を飛び出そうとする魔王。その襟首を掴んでギューブは引き留めた。


「ぐえっ」

「お待ちください、魔王様」

「い……いーや、待たぬ……。せっかくの生きた人間が死んでしまったら、観察できんではないか」


 しかし、魔王はギューブを睨みつけて反論した後、部屋の外に出て魔獣小屋の方へと走って行ってしまった。



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