表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/44

未来への一歩 前編


 ******

 

 駅からバスを乗り継ぎ、海人と慧はある場所に来ていた。


「悪いな、海人。付き合わせて」


「いいさ、オレも挨拶に来たかったしな」


 二人は脇道から小さな石段を上がっていく。海人の手にはコンビニの袋が、慧の手には花束が下げられていた。 

 石段を一番上まで登りきると、昼の木漏れ日に照らされて佇む墓石達が出迎える。

 先を歩く慧がゆっくりと首を巡らす。そして、一つの墓石の前で足を止めた。その顔に、穏やかな笑みが浮かぶ。


「ようやく来れたよ、晃史」


 墓石へ優しく語りかける彼女を見ながら、海人はここへ至るまでの怒涛の数日を思い返す。

 あの後、二人は慧の実家へ向かうと、戻る挨拶だけして、すぐに電車に飛び乗った。

 電車に揺られている間、二人は会わなかった三日間の話をした。彼女が家族に口止めしていたせいで、光星の元へ連絡がいかなかったこともその時にわかった。


 きちんと謝りたい。そう言う慧に従い、海人達はまず、光星に会いに行くことにした。

 海人が慧の元へ行く前に一度連絡はしていたものの、やはり心配していたらしく、出向かえた光星は慧を強く抱きしめた。


『このまま帰って来ぇへんかったら、どないしよう思ってたわ! ほんまに、無事でよかった。もう、こんな風に行方眩ませるんは、勘弁やで。この三日間、心配でなんも手につかへんかったんやからな』


 その言葉通りに、辺りには整理しなければいけない写真が乱雑に放置されていた。慧が心配過ぎて、本当に手がつかなかったのだろう。

 光星から身を離した慧が、潔く頭を下げる。


『ご心配をおかけして、申し訳ありませんでした。二度とこんなことがないようにします』


 噛みしめるように反省する慧に、光星が苦笑して首を振る。


『違うで、慧ちゃん。心配かけるんが悪いんやない。ほんまに悪いんは、キミが誰にも頼らずに、一人で苦しんだことや。言うたやろ? もっと周りを頼ってみぃって。近くにいながら、まったく頼られへんのは周りの方が寂しいわ。なぁ、海人君もそう思うやろ?』


『そうですね……』


 その気持ちは海人にもよくわかる。

 近くにいながら、見ていることしか出来ないのは、苦しいことだった。

 しかしそれを知ったからこそ、見つけた気持ちがある。


『けど、今回のことがあったから、オレは自分の心を知って、慧も気づいたんです。だからきっと、今回の件はオレ達に必要なことだったんですよ』


 それがなければ、きっと慧と海人は遠くて近い親友のままだった。沈黙する感情に表面上は平和を保たれるかもしれない。

 しかしそれは、いつか脆く崩れるものでしかなかったはずだ。


『なるほど、結果よければ全てよし、やな!』


 そう言って、朗らかに笑った光星は、今は日本にいない。

 実は本当は一日前にはエジプトに出発する予定だったらしく。慧が戻ったのを見届けると慌ただしく旅立って行ったのだ。


『海外行きの話な、あれ嘘やから。君にもええはっぱやったやろ? 慧ちゃんをちゃんと捕まえとくんやで?』


 彼女がいない所で海人にそっと耳打ちして。


 翌日には大学で待ち構えていた怜奈に捕まり、事情の説明を迫られた。 

 勝手に教えるわけにはいかないだろうと、慧を呼び出し二人でこれまでのことを話すと、なんと、泣かれてしまったのだ。


『どうして、もっと早く話してくれなかったのよーっ! アタシだってあんた達の友達じゃない。せめて、心配くらいさせなさいよねー』


 海人と慧は慌てて謝った。傷つけるつもりはなく、ただ伝えるだけの余裕がなかったのだと説明するも、怜奈は化粧が崩れるのも構わずにボロボロ涙を零した。

 玲奈にしてみれば、友達だと思っていたのに、二人から相談もされなかったのだ。それが悔しかったのだろう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ