ベネット・ルクセンside
普通の悪役令嬢もの、乙女ゲームものとは違います。ご容赦ください。
ベネット・ルクセンside
「貴女みたいな庶民風情が王族に名を連ねる方の隣にいるなんて身の程を弁えなさいな」
「そう……じゃあ私の様な下級貴族が貴方の傍に居ることも許されないわね…」
「そ、そんなこと言ってないじゃない!」
皆さんこんにちは。私はベネット・ルクセン。商才が飛び抜けていて多岐にわたり優秀さを発揮するルクセン子爵の〝何も出来ない無能娘〟と言われればそれはもう私の事、なんて自虐の自己紹介を誰にしているのかしら。隣でギリギリ上品のラインを超えないよう気をつけながら最近王やその周辺の殿方を誑かしていると噂の女の子を叱りつつ私に突っ込まれてあたふたしている方は初雪のように白い肌、極上の黄金の絹糸を集めたような御髪、視線だけで選ばれし者と理解させられる星を散りばめた様に煌めく澄んだ蒼の瞳、小さなお顔に華を添える唇、細くスラリとした長い手足、均整のとれたプロポーション、とまぁ総合して神々に溺愛されたそれはもう大層美しい外見をもつお方。ジルベール・ディオンド様。そう、こんな話し方でもディオンド様は…いえ、ジルは次期公爵家当主、なのよねぇ……。こんな方でも……ええ。
「ちょっとベネ、聞いているの?貴女はいいのよ、ねぇ、ベネ聞いているの!?ベネ!」
……いけないいけない、現実逃避だなんて。何も解決していないじゃないのベネット・ルクセン。…いえ、私が何を解決すればいいのかしら。婚約者を蔑ろにして庶民の女学生に群がる高貴な方々について?まるでハーレムのように美しい高貴な方々を侍らせてなおジルも囲おうとしている女学生について?ジルの個性的な話し方について?
「ベネット、ベネー……ベネー………」
……もう何もかも手遅れじゃないかしら。私のような無能には正しい解決方法も誰も傷つけない解決方法もこの女学生が望むような解決方法も何も、ええ何も思いつかないわ。何も。高貴な方々が人としての理性も、貴族としての誇りも、責任もすべて投げ捨てて選ばれたこの状況も、それに伴った面倒ごとの解決方法も、無能の私が考えても答えが出るわけないじゃない。ねぇ?
あぁ…ジルは可愛いからいいのよ、何も問題ない。そうね、ジルのことのみを考えて生きていくと決めたじゃない。一目惚れをしたその日から、ジルと私が近づく事でディオンド公爵家が力を持ち過ぎると大人が否を出したその日から、これから優秀なルクセン子爵家の娘として生きていくか、ジルと生きるために無能になり下がるかで無能娘と呼ばれることを決めたその日から、あら、私の人生の転機は全て同じ日同じ原因だなんて、なんて素晴らしい運命なんでしょう。そうよね、ジル
「愛しているわ、ジル。」
「私もよ、ベネ!!」
あぁ可愛い。この人と生きるためなら無能と呼ばれる事でさえも愛おしい。
ジルベール・ディオンドsideに続きます