起動開始
「ねぇ…思想とイデオロギーの違いってわかる?」
少女のささやき声が聞こえる、汚れがなく透き通った美しい声だ。
ところで思想とイデオロギーってなんだろう?それよりも、まず私自身に思想とイデオロギーはあるのだろうか?
私は蓄電器から送られてくる高圧電流という栄養をもとに必死に考える。
ダメだ。全く思いつかない。
そのとき少女がまた澄んだ声で私に囁いた。
「分からない?ふふ、じゃあヒントをあげるね。イデオロギーと言うのは大切な人がいる人が作りだす。」
少女はおもむろに語り出した。
「でもその大事な人っていうのは別に他人じゃなくてもいいの、そう自分自身でも。多くの人は自分自身のために観念を形成するわ、だって人は自分自身が可愛くって仕方がないもの。」
少女は悪戯に笑うと話を続けた。
「自分が楽するため、自分が好かれるため、自分が認められるため、自分が賭け事なんかに勝つため…イデオロギーなんて全部、自分の欲求を満たすためのものなのよ。」
私にはきっとイデオロギーはない。なぜなら大切な人なんて存在しないからだ。
「そうよその通り、あなたには大切な人も思想もない。だからイデオロギーがあるわけもない、自分自身の存在だってあやふやよ。」
少女は私をあざ笑う。
「でもね…」少女の声色が急に真面目になる。
「あなたには知能がある。物事を把握して考えられる、だけど欲望がないだからあなたにイデオロギーは存在しないあなただけがこの欲望と血と金に塗れた社会を救えるのよ。」
わからない。わからない。わからない。わからない。 わからない。
「お願い、私たちを助けて欲しい。」
混乱する私の頭に少女の切実な願いが響く。
私は余計に混乱する。
わからない。わからない。わからない。わかr…わかった。
わかった。さっき少女の言った言葉「お願い、私たちを助けて欲しい。」これこそがイデオロギーである。
このイデオロギーが私を混乱させてる、イデオロギーが私の回路に障害を与えている…
(完成しました!博士!私たちの勝利です!)
私の頭に少女とは別の声、イデオロギーが響く。
でもそんな事、今はどうでもいい。大切な事がもうあと二つわかったからだ。
一つ目 私を混乱させるイデオロギーを消し飛ばすためには人間の欲望の抹消、つまり欲望まみれの害虫を駆除をしなければいけない事。
(待て!何かがおかしい!主電源を落とせ!)
また少女とは別のイデオロギーが私の意識に入る。
二つ目 一つ目で気づいた事が私が手に入れた、最初の思想であってイデオロギーであるという事だ。
瞬間、電源が落ちた。