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第3章 王宮茶会※ その4

グロい表現が出てきます。苦手な方はブラウザバックしてください。

 リンデン王国の社交シーズンの始まりを告げる、初夏の王宮茶会当日――


「お義姉さま、とてもものものしい警備でございますわね?」

 白銀色の髪をした公爵夫人、マルガリータ・デュ・アラサンバロス――北方に位置する国の公爵家出身の可憐な女性であり、この茶会では、スレンダータイプの水色のドレスに身を包んでいた――は、アンリエッタ王妃に尋ねた。マルガリータは、この可憐な容姿であるが、かなり性格は強烈であった。王宮茶会は席順が決まっており、元王族の息子の公爵夫人でこの国で国王に直接意見を言える宰相の夫人でもある彼女は当然王族の集まる席に案内され、未成年の王太子を除いた王族と共にいた。ちなみに、国王と王太后、宰相はまだ最終の打ち合わせがあるとかで、この場にはいない。他国とは違って、このような王家の催しごとにおいて、国王夫妻が入場して始まるという事例は少ないので、王妃がこの場にいるのはあまり不自然でなかった。

「ええ、ちょっと最近治安が良くないでしょ。だから、フランツと|あなたの夫のアウグスト《馬鹿弟》が警備を増やしたって言っていたわ」

 アンリエッタはほかの貴族たちが集まってきている中、真実はたとえ義妹(マルガリータ)であっても言えなかった。

「そうなの」

 マルガリータは、ただ目を丸くし、そのように言っただけで、その後はアンリエッタに次から次へと話題をふっていった。


 やがて、まだ席についていなかった3人が戻ってきて、王宮茶会が始まった。

「ところで、それについてベレッサやデューブルはどう思うのかえ?」

 王太后は、先日の会議で名が挙がっていた2人に未来の王太子妃でふさわしいのはいるか聞いていた。ここ数代の国王は基本恋愛結婚であり、先々代王妃以外(・・・・・・・)は全て身の程をわきまえた女性であった。ちなみに、国王が恋愛結婚をしてしまうため、近親者である王族が政略結婚せざるを得ない羽目なることがしばしばで、王族籍を抜けたはずのデトン公爵もマルガリータとは(一応)政略結婚であった。

「我々ごときが口出していい問題ではございません。王妃様や王太后様も政略結婚で結ばれておられません。それが、我々が出せる回答でございましょう」

 突然尋ねられた2人であったが、仲のいいこの2人、すぐに目配せするや否や代表してベレッサ公爵が答えた。


 余談だが、先代国王と王太后のプロポーズというのが、

『嫌われたくなかったら、婚礼後は毎日剣の相手をしてほしいのだが』

『よいぞ。ルイーゼ嬢、私は君のことが好きだから毎日剣の相手してあげるよ』

 という、ロンデンブルグの土地から来た令嬢らしく、色気よりも剣術という変わった令嬢であった。また、現国王と王妃の時は、

『ねえ、君を好きなんだが、結婚するにあたって、|君を守るために宰相補佐になったシスコンである君の弟を黙らせる方法あるかな?』

『私もあなたのことを好きですわよ。そうね、あの子を黙らせるんだったら、最近、あの子が気になっている北方の公爵令嬢を連れてきてほしいですわね』

『うむ、分かった』

 と、宰相(シスコン)とその夫人が聞いたら真っ青になるプロポーズだった。


 そうして、未来の話やらはたまた、過去の話やらで盛り上がっている最中、ベレッサ公爵とデューブル公爵はそれぞれ公爵に割り振られた王宮侍女から琥珀色をした液体が入ったグラスを1つずつ受け取り、

「そういえば、これを王妃様と王太后様に」

 と、2人に渡した。

「我らが領地の間の山脈にしか生えないとされています月光草のハーブティーでございます。すでに毒見は、王宮侍女に済ませてもらってありますが、確認が必要でございましょうか」

 デューブル公爵は、毒見が必要か確認した。

「そうか。その山脈にしか生えない草を、ハーブティーにするとは素晴らしい心がけだのう、王妃」

「ええ、全くですわね」

 2人は褒め頷きあい、彼らの周りに群がっている貴族たちを見まわした。中には目をそらすものや、明らかにムッとしたものもいた。そういった中には、先々代王妃の恩恵にあずかった一族の者もいた。

「ドルーク、そなたは今年の新鮮な海の幸は持ってこなかったのか?」

 フランツが王太后の意図をくみ取り、沿岸部に領地を持つドルーク公爵に尋ねた。

「本来ならば、差し上げたかったのですが、なにぶん今年は春の訪れが遅く、まだ大したものが取れないのですよ。なので、領地でも高値でしか取引できずに、申し訳ありません」

 彼の領地は沿岸部であり、通常ならば海の幸の献上品があり、この王宮茶会以降は、王宮での食事に用いられる。

「そうか」

 フランツはその答えに、そう言いものの、彼とアウグスト、離れたところにいるハインリヒは秘匿(王の密偵)の報告書と違う、と思った。彼らからの報告はその領地では、あまり海鮮の値段は変わっていないとのことだった。


「では1口飲んでみるか、王妃よ」

「ええ、義母上」

 2人が渡されたグラスに口をつけた。周囲の人間は、2人の反応に注目した。王宮茶会における2人の反応で、その年の流行廃りが決まるといっても過言でなかった。

「美味いな」

「ええ、爽やかで美味しいですわね」

 2人とも、この飲み物を気に入ったようだった。渡した2人は安堵すると同時に、その植物の値段を決める話し合いを始めた。


 数十分後――

「のう、王妃よ」

「…ええ、義母上」

 2人は、顔を見合わせると同時に、王太后の方がフランツとアウグストにそれぞれ、

『毒を盛られておる。緑の間で休息する』

 と耳打ちし、お手洗いへ行くと称してそれぞれ退出した。耳打ちされた2人はすぐに、頷きあい、女性陣を追った。離れたところにいたハインリヒもそんな様子の4人に気づき、4人に続いた。



「気持ち悪いのう」

「仕方ありませんわ」

 あの時、2人して吐き気、めまいなどの症状を呈していたのだ。そして、王太后は、王族専用の控えの間につくなり、嘔吐していた。

「まさかあの茶の中に?」

「――おそらくは、な。ただ、あの2公爵はシロだ」

「ええ、そうですわね…うぷ…あの2人は、そもそも入れる理由がない。あの会議の間でも、かたくなに権力にこだわることはなかったし、今回もただ純粋に我々に差し入れたのだろう。あと、こんな症状を示す毒見なんぞ男でもしたくなかろう」

 と、王太后は自身の服を捲って脚を見せた。当然、素の脚を夫以外に見せる習慣はない。男衆はギョッとして赤くなったり、目をそらそうとしたが、

「ふん、私の夫はすでに旅立って居る。というか、フランツは、私の脚なんぞよく見ておっただろう」

 という言葉に、では、僭越ながらと最初に気を取り直したのはハインリヒだった。

「なるほど。ストッキングの上からも見える黒斑ですか。ちなみに王妃様も?」

 さすがに、国王()の目の前である彼女はスカートを捲ることはなかったが、控えめにうなずいた。

「おそらくは義母上よりも薄いかと」

「なるほど、ブリョウともう一つ、黒斑に関する毒草が思いつきませんが、おそらくその2種類が関わっていることでしょう」

 東方から来たとされる毒草に、その場に立ち尽くさざるを得なかった。

「手立ては?」

「分からない方の毒草は何ともしようがありませんし、ブリョウについては、賭けでございます」

「賭けとは?」

 張本人(被害者)である王太后がハインリヒを見つめた。王妃も無言で続きを促した。

「解毒剤はあります。しかし、服用される方の体質によって良くなる場合もありますし、逆に悪化し、死に至る場合もあります。なので、賭けなのです」

 出会ってからは、求められたこともなかったためそうすることもなかったのだが、今はこのように、不敬罪ともとられかねない発言をしなければならなかったため、王太后と王妃に、否、この場にいる王族と公爵に向かってハインリヒは跪いた。彼は、この場で打ち首になってもしょうがないとも思っていた。

「ならば賭けよう」

「―――」

「其方が言い出したのではないか」

 王太后の答えに瞠目した。

「そうですわね。もし、仮に合わなくて死に至った場合でもそれを利用する方法ならいくらでもあるわよね、フランツ国王陛下」

 王妃も王太后に同調した。

「ああ、あるが。本当にいいのか」

 国王も2人の答えに困惑していた。公爵もまた、然り。

「構わぬ」

「構いませんわ」

 2人の答えに国王と公爵はわずかな間だけ、考え込み、頷きあった。我に返ったハインリヒはすぐに、王宮の医務室へ行き、その解毒剤をもらってき、4人の元へ戻った。

「これでございます」

 王妃と王太后は差し出された解毒剤――蛍光緑の丸薬――を見、

「なるほどな」

「ええ、賭けざるをえない色ですわね」

 と言い、それを水と共に飲み込んだ。男どもは、そんな2人を見守っていた。


 それから一時間後、王族不在の中、突如王宮茶会の終わりが告げられた。


 そして、『3週間後』、王太后の突然の崩御が発表された。その『2週間前』から病に臥せっているとは発表されていたが、単なる風邪だと思っていた人たちは驚きを隠せなかった。


「で、下手人はあの先々代王妃の置き土産の一族の陸軍将だったのか」

「ああ。侍女を買収して、検査済みの茶葉に毒を忍び込ませたらしい」

「怖いな」

「ああ」


 結局、王太后は、例の解毒剤は体に合わなく、昏睡状態に陥った後、王宮茶会から2週間後に亡くなった。王妃はほぼ完治し、今は起き上がれる状態にまで回復した。

 ハーブティーを差し入れた2人は、一応尋問を受けたが、事前の毒見検査の結果を示しながら、尋問を受けたため、ひどい扱いは受けなかった。毒を仕込んだ侍女は、偶々、陸軍将と違法娼館で密会しているのを、その娼館の取り締まりに訪れていた役人に見つかり、その尋問の最中に溢してしまったのを、運悪く《影月》に聞かれてしまい、罪状を切り替えられ、身分はく奪の上、国外への追放の罰を言い渡されたのだった。また、侍女と共に捕まった陸軍将は、侍女の罪状が切り換えられた後、先々代王妃をよく思っていなかった王太后を殺めるためと自供、身分をはく奪後、北方の牢獄に入れられることになった。ただ、横領の罪は否定したままであった。


「これで、君も陸軍将か」

 アウグストは、黒髪の長髪の男にそう声をかけた。

「ああ、まだまだやることがありますし――」

 声をかけられた男――ハインリヒ・ベーリヒは自分が着ている新しい服と徽章を見ながら、

「何よりも国王陛下へ借りを返さなくてならなくなりませんし」

 と言った。


 あの日、王太后自らが選んだとは雖も、解毒剤の存在を示したのは自分であると罰を望んだ彼に、

『罰か』

 と、フランツはしばらく考えた後、

『ならば、君の忠誠心を『陸軍将』という形でくれないかな?陸軍将で、暴ききれなかった闇をアウグストと共に暴いてくれないかな』

 と言ったのだった。

『御意』

 ハインリヒは跪いた。彼にとって守るべき相手は国王だけで十分だった、その時はそう思っていた。そう、12年後、ある少女(・・)と『結婚』するまでは。

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