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第3章 王宮茶会※ その1

ここから15年前の回想シーンに入ります。おそらく最初の数話はコメディ要素が含まれています。

 時は遡ること、キレ教歴128年5月の半ば

 その年は、南の方に位置するリンデン王国にしては、珍しく春の訪れが遅かった。

 しかし、暦の上で行事などは動いていくため、身に纏うもの以外に影響は見られなかった。

 王家主催の行事についてもまた然りだった。


「では、初夏の王宮茶会の開会の口上()アウグスト、お前に一任するぞ」

 国王は、手元にあった書類を確認しながら、そう言った。現在、今年の社交シーズンを迎えるにあたっての王家と大貴族の役割分担やそれに伴う負担について、関係者で話し合いがもたれていた。

「今年ではなく、今年でしょう、フランツ国王陛下」

 アウグスト・ハイレンドン――デトン公爵はこめかみを押さえつつ、言い返した。

「そろそろ私もいい年なんですから、他の公爵家の若造――ベレッサ公やデューブル公にその役目を丸投げしたいんだが」

 彼は、国王とほぼ年が違わないせいか、このような身内(と極一部の臣下)しかいない場ではかなり砕けた物言いとなっていた。そのアウグストに名指しされた2公は、非常に震えあがっていた。

「君ねえ、イェルクもカールも震え上がっているじゃないか」

 国王はちらっと2人の方を見つつ言った。

「フランツ、もし私がここでポックリ逝ったらどうするんだ。イェルマークは軍人だろ?このデレク公爵(王の代理)を継がせるのは駄目だ。その代りにベレッサ公やデューブル公ならこの国を任せていけるぞ?」

 期待の眼を2人に向ければ、さらに2人は震え上がった。彼らは、35歳と40歳とかなりいい年齢(・・・・・・・)なのだが、国のトップ2からしてみればかなり伸びしろのある年だったので、期待されているのを光栄に思う反面、プレッシャーをかけられて縮れこまざるを得なかった。


「お主ら、いい加減にせんかい!」


 国王と宰相が次代へプレッシャーをかけている最中、会議室にひと際、バチンという大きな音と共に、凛とした声が張り上げられた。その声に対し、すぐに、

「申し訳ありませんでした、母上」

「申し訳ございません、王太后殿下」

 2人の男は頭を下げた。

 そう、2人を黙らせたのは、他でもない王太后――国王の母親であり御年52歳のルイーゼ・ハイレンドンだった。彼女は、茶髪の髪を持っていてかなり気の強そうな顔立ちをしていた。

「まだアウグストは引退するには早過ぎる。しかも、なぜに自分の子供をこの魑魅魍魎の中で育てていかないのだ?ベレッサやデューブル(そこの2人)は、爵位こそ十分だが、他国の王家を黙らせられる血脈がちぃと(・・・)足りん」

 パタパタと扇ぎつつ、王太后は涼しげに言った。2人は『血脈が足りない』と言われたことに青筋を立てることなく、むしろ全くもってその通りでございます、と言わんばかりに頷いていた。

「あの剣術馬鹿には宰相服を着させるよりも、軍服を着させた方がましです」

 アウグストは剣術馬鹿と己の息子を罵った。

「そうであったな、其方の息子は。先日一回手合わせしたんだが、なかなか強いのう」

 王太后は扇を剣に見立てて空を切ってみた。


「何やっているんですかぁ、ルイーゼ様ぁ」

「そうですよ、母上も一応王族ですし、何よりお年を考えてくださいぃ」

 今まで口論していた2人はどこやら。真っ青になって、王太后を諫めた。他の重臣も顔を真っ青にしていた。彼女の背後では、ほら言わんこっちゃい、と女官が肩をすくめていた。

「大丈夫よ、私の出身を知っておろう?」

 どこ吹く風、と王太后は、どこまでも涼しげな顔だった。


「《大地の送り子》ロンデンブルク伯爵家ぞ」


 その後、「分かっていますよ、そんなことは。母上、お願いですから王族としての自覚を持ってくださいよ」「嫁いできて間もない娘でもあるまいに、分かっておるわ」とか、「剣術馬鹿をつまみ出せ、王族とは言えども婦女に剣を向けるとは。だが、王太后様もお年の割にかなりお強いのだな、ぜひ私も「止めてくれないか、公爵」…駄目か」などと言った、魑魅魍魎とした王宮の会議は混沌で幕を閉じた。

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