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第2章 身バレと契約 その2

遅くなりました…

「私の結婚式に、ですか――?」


 彼女の結婚式は、現在彼女の治める領地であるロンデンブルクの公邸で行った簡素なものだった。結婚式で、男性客のもてなしは夫が相手したので、女性の招待客をもてなしていた彼女は気づいていなかった。

 結婚相手であるハインリヒが簡素な式にしたいという主張があったため、服喪の期間もあけずに執り行ったためである。もちろん、ユーリア自身は年頃の少女であったので、教会での身の丈に合うくらいの豪華な式を夢見ていた。しかし、一介の伯爵令嬢でしかない18歳の少女は、陸軍将軍という立場であり、28歳も年上である彼の主張に頷かざるを得なかった。もちろん、当時両親が死亡してから間もない頃であり、自分達(特に実の娘であるユーリア)が世間から非常に白い目で見られることになるということも、口に出せなかった。

 しかし、翌年秋に行われた恒例の王家主催の狩猟会で、ハインリヒは命を落とした。『公式的には』流れ矢にあたって落命したと伝えられたが、陸軍将軍である彼が、戦場と比較したら『娯楽』みたいな狩猟会で流れ矢に当たるなど、幼いころからの彼女自身の生活を考えても不可能ではないかと思わざるを得なかった(ちなみに、口さがない人の中には、両親の服喪中に結婚したために起こった呪いだという人もいた)。ただ、捜査は打ち切られている以上、その真相は不明であるため、彼女にもどうしようもなく、ただでさえ、結婚の時期自体に白い目で見られかねない立場であったのと、再婚ということをあまり考えていなかったので、夫が亡くなってからは常に喪服を身に着けるようにしており、今では周りから『喪服の女伯爵』と呼ばれているのを知っていたし、そう呼ばれるように努力した。


「ああ。まさかあの時の小柄な少女がここへ少年の姿で来るとは露にも思わなかったよ」

 公爵は、少し寂しそうに笑った。

「まあ、王太子殿下は何を企んでいるかは大体想像ついておる。この家の中には見られて困るようなものは何もない。君のその領地を治めている手腕で書類などを読み解いてもらって構わん。伝書鳩なども好きに使え。どうせ、あいつへ定期的に報告しなければいけないんだろ?」

 彼は、後ろへなでつけている髪を掻きながら言った。


「ありがとうございます」

 ユーリアは一礼した。


「礼には及ばん。君の両親の件とハインリヒとの件について、償いきれないほどの大きな借りがあるからな」

 公爵は、さらっと爆弾を落とした。

「そ、それは、ど、どういう、意味ですか…?」

 案の定、ユーリアはかなり狼狽えた。


「いずれ真相を話す。まあ、王太子殿下が君をこの家に送り込んできたように、ちょっと私にも目的があって動いている最中だから、ここは、互いに不干渉としよう―――さあ、昼食にしよう。妻も含めて屋敷の者は、君が女伯爵であることを知っているから、一緒のテーブルについてくれるね?」

 彼は『真相』については答えずに、昼食へユーリアをエスコートするために手を差し出し、彼女はそのスマートなしぐさに少し頬を染めながら、その手を受け取った。

「承知いたしました、ご主人様」


 それから、公爵の妻のマルガリータを含めて昼食をとった。


が、ユーリアが公爵に連れられて、食堂に入って挨拶をした瞬間―――


『あなたが、ユーリアちゃん――いいえ、ユーリアさんね。とても可愛いわ。息子はいっぱいいて、むさ苦しいったらありゃしないけれど、娘がいたらこんな可愛らしい子に育つのかしら?ううん、ユーリアさんじゃなきゃダメね。ねえ、ユーリアさん、今からでも家に来ない?養女の手続きなら今からでも取れるわよね、アウグストさん?あ、でも、ユーリアさんって女伯爵だっけ。でも、娘とするだけだから、そんなのは関係ないわ。仮初なんだし、直接お義姉さんにでも頼んでみようかしら?』


 白銀色の半分束ね上げたサファイア色の瞳を持つ彼女は、マシンガントークでユーリアをベタ褒め始めた。

「これ、マルゴ。ユーリア嬢が驚いているじゃないか――ユーリア嬢、うちの妻が申し訳ない。君のことをかなり気に入ったみたいでね」

 公爵はマシンガントークを始めた妻――マルガリータを落ち着かせつつ、ユーリアに謝罪した。

「いえ、お気になさらないでください。まあ、養女の件は後日応相談という事でお願いします」

 ユーリアは差しさわりのない返しをした。



 デザートを食べている時――

「今度の初夏の王宮茶会には参加なさるでしょう?」

 マルゴ――彼女から、そう呼んでほしいといわれたのだ――はそう聞いてきた。


 初夏の王宮茶会――


 春の舞踏会、初夏と晩秋の王宮茶会、秋の狩猟会、冬の新年舞踏会の5大王宮行事は、伯爵以上の成人貴族は服喪、謹慎および大病以外の理由で欠席してはならない行事であった。当然、伯爵家であるロンデンブルグ家もその対象で、ユーリアもこの国の成人とされる13歳の秋以降から参加していて、大病さえ患っていなければ、両親が『事故』で死んだとされる17歳の秋の狩猟会にも参加する予定であった。

「ええ、その予定です」

 そういえば、そんなものもあったな思い出した。

「じゃあ、私にその時のドレスを選ばせて」

マルゴは目を輝かせてそう言った。

「あの、私の通称を知っていますよね?」

 公爵夫人が『喪服の女伯爵』の存在を知らないとは思えなかった。

「知っているわよ。でも、たまにはカラフルなドレスを着てもいいと思わない、ねえアウグストさん?」

 彼女は今にも詰め寄ってきそうな勢いで、選びたがっていることをアピールしていた。

「そうだな。王宮茶会まで1ヶ月半か。それまでに君の案件も私の案件も終わらせて、君が『喪服の女伯爵』と呼ばれるようなことを無くそう」

 公爵はウィンクをした。

「こ、公爵様まで…」

 ユーリアは絶句した。

 しかし、公爵の言った『私の案件』の真の意味には気づかなかった。

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