第2章 身バレと契約 その1
ちょっと短いですが、気分が乗っているときに書きます。
ファル執事長が出て行った後、公爵の居室には持ち主である公爵とユーリアが残っていた。彼はユーリアに対して、部屋に置かれてあるソファに座ることを勧めなかったが(主人が従者に対して、自分が座らないのに座らせるように言わないのは当たり前なのだが)、彼自身もまた座らずに、執務机の正面に立ったままだった。
「まずは初めましてかな、イェルク・デリク君――いや、ユーリア・ロンデンブルク嬢というべきかな」
公爵は、リンデンの王族――ハイレンドン家にしか出ないとされる灰色の眼でユーリアを見つめながら、そう言った。
「どうして、それを…」
ユーリアは普段の無感情の声を捨てて、誰何した。それに対して公爵は、ククッと笑った後、
「まずは、声かな。まあ、少年として背丈も変わらないけど、声変わりしていないといっても少しばかり音域が高いね。あとは、うん。別にこの歳だし、妻もいることだから変な目で見ているわけではないことを強調して言うけれど、その体格は隠しきれてないよ。特に甲冑を脱いだ時は」
と、彼女の胸のあたりを見ながら言った。それに気づいたユーリアは、真っ赤になり、
「わ、私だって、出そうと思って出しているわけじゃありませんっ」
と答えた。その反応に、公爵は再び笑い、
「知っているさ。だけれど、私だったから君に対して、女性として襲うつもりは全くないものの、他の潜入先だったら、襲われる可能性はあったんだよ。だから、もう少し女性の武器を使って潜入なさい」
と言いつつ、目以外は笑っていた。ひとしきり笑った後で、
「後、君がロンデンブルク伯であるのを分かったのは、君の結婚の時に証人として、君の実家に呼ばれているからだよ」
と彼女の正体を見破った理由を述べた。