最終章 明かされる真実と大縁談 その5
結果的に、ヨハン・グレッセン侯爵とミシェル・ベレーゼ王立騎士団長はその場で捕縛され、それぞれ国家反逆罪、内通罪および公金横領罪、責ある立場の職務不履行罪、国家反逆罪および公金横領罪でそれぞれ裁かれることとなった。
「まずは15年前だ」
後日、デトン公爵家に招かれたユーリアはアウグストから真相を聞くことができた。
「15年前、ある横領事件が起こった。その事件には君の夫、ハインリヒ・ベーリヒが関わっているとされた。しかし、彼は当然無実だ。国王陛下と共に私は彼をはじめとして、君の大叔母上である亡き王太后殿下や私の姉である王妃殿下を利用して、犯人を突き止めた。その時の王宮茶会において、王太后は公金横領事件に端を発して毒殺された。首謀者は陸軍将であり、彼は毒殺の方は直接的な証拠もあったから、認めたが、公金横領の罪には問うことができなかった。
その事件の時に、ハインリヒは責任をとる形として陸軍将になった。その時に、彼は私たちにこう言ったんだ。『今は守りたいものは国王陛下だけだ』ってね。その彼は、身内贔屓になるかもしれないが、出来た奴だった。地方の一地域のことにまで目を光らせていたな。王都で起こった陰謀事件から、起こるはずのなかった土砂で急きょ道を変更せざるを得なくなった小さな領地の夫婦の事件、でさえもね」
その事件にはユーリアも心当たりがあった。
「その夫婦が亡くなったとき、彼はこう言ったんだ。『おそらくロンデンブルク家の娘が危ない』ってね」
そう言って、アウグストはユーリアを見た。
「彼はその少女を守るために結婚したいって言ったんだ。ただ、その条件として、事件が解決するまで、もしくは、自分が死ぬまでは彼女に一切触れないって言うことを自ら言い出したんだ」
アウグストはユーリアの頭を撫でた。
「だから、彼は結婚式の規模を縮小し、なるべく君を衆人の目にさらさないようにし、触れないながらも守っていこうとしたんだ。しかし、冴えない中年だった彼が、年が離れている少女と結婚し、その彼女が伯爵領を受け継いでいる、という噂はすぐに広まるのだよ。翌年の王家主催の狩りの時期には広まっていたのは知っているだろう?
おそらくあまり出てこないことになる君と比較して、ハインリヒは自分が狙われるだろう、と言った。実際にそうなった。彼は狩りの最中に殺された。馬に薬をかがされた挙句、流れ矢に見せかけて、故意に殺された。確実に仕留めようと思っていたのだろうね。恐らく黒幕はハインリヒに深い恨みもあったんだろうね。ロンデンブルク家だけに恨みがあったなら、君を直接狙えばよかったんだし。まあ、そのおかげでこちらは少し捜査しやすくなったんだけれどね。まあ、何はともあれ、君を出汁にして、しかも不名誉な噂までつけてしまったことを謝りたい」
公爵は頭を下げていた。
ユーリアは少し間をあけた後、かぶりをふって、
「いいえ、私は何もしていません。捜査されていたのは公爵様方でしょう。私の大叔母の王太后様のため、そして、ハインリヒ様のために黒幕を見つけてくださってありがとうございます」
「ああ、今回はひやひやしたぞ」
公爵は少し身震いした。彼は、元騎士団長のミシェルとユーリアが戦っている姿を思い出しているらしい。君もう少しお淑やかになってほしいものだ、と呟いていた。
「無理ですよ、『ロンデンブルクの姫』ですから」
とスマイル満点でユーリアは答えた。その笑顔を見、答えを聞いた瞬間に、公爵は真っ青になっていた。
「姫、トラウマを思い出させないでくれ…」
遠い目をした公爵が言った。ユーリアはその呟きに疑問を感じながら、はい、と素直に言った。
「で、なんであの方たちはロンデンブルグ家を滅ぼそうとしたのですか」
彼女は気を取り直して聞いた。