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最終章 明かされる真実と大縁談 その3

 王宮茶会はその日からちょうど一週間後に開かれる。ユーリアは自分自身も何らかの対策を講じなければならないが、グスタフの仕事を手伝わねばならなかった。通常『護衛騎士』は肉体労働が主だが、王太子付きになってからしばらくした時に、彼の机上に散らかっていた書類を見たユーリアが、文官のユーグリットが投げた仕事であったそれをさくっと終わらせてしまったことから、正体が『伯爵』であるのを明かしてはいないものの、しばしば手伝っており、王宮茶会の準備にも駆り出されることになっていた。


「で、私は手伝ってもよいのですか」

 彼女は、グスタフの執務室の一角で作業しているユーグレットに尋ねていた。先ほどの一件で、ユーグレットが嫌がるようであれば、彼女はグスタフが何と言おうとも手伝わない気でいた。尋ねられたユーグレットも、また、先ほどの一件があったせいか疲れた目をユーリアに向けたが、

「ええ、手伝っていただきたいです。あなたの職務遂行能力は下手すると殿下より高いですから」

 彼は自分が使っている一角の一部をユーリアに明け渡した。

「おい、ユーグレット。今のは聞き捨てならないぞ」

 書類の山から顔を出したグスタフがユーグレットに文句を言ったが、彼はどこ吹く風での顔をしていた。

「ユーリアさんの職務遂行能力があなたより早いのは事実ではありませんか。いつぞやには視察の日程調整しようとしてほかの書類溜めまくっていたのに、ユーリアさんが来てくださったおかげで一気に量が減ったではありませんか」

「うっ、それは」

「あなたが色ボケしてなければ、こんな面倒な事態にはなりませんでしたのに」

「――――」

 グスタフの顔面は真っ青になっていたが、ユーリアもそこでフォローを入れられるほどの猛者ではないので、藪蛇ならないように黙っていた。もちろん、空けてもらったスペースを使って書類を進めていた。今、彼女が作成しているのは王宮茶会の出席者名簿だった。貴族全員が出席するため、茶会の席順は、爵位順、領地順に並べるのだが、ユーリアは王立騎士(イェルク)として出席するため、ロンデンブルク女伯爵(貴族)としては欠席にしなければならない。彼女は自分で出席者リストを作成するのをいいことに、自らを『領地付近の流れる川が氾濫したことによる修繕工事のための陣頭指揮による欠席』と不自然にならないようにした。



 そして、時は経ち、王宮茶会当日。

 ユーリアは王太子の背後に控えていて、さまざまな貴族を見ながら、『ある人物』を探していた。

「イェルク、どうかしたのか」

 そわそわした状態のユーリアにグスタフやユーグレットは気づき、声をかけた。

「お気になさらず」

 彼女は微笑んで首を振った。

「少し休んでくるがいい」

 グスタフは、近くにいた騎士団長に声をかけ、代わりの騎士を呼び寄せ、ユーリアに休憩を命じた。少し憮然とした彼女だったが、すぐに気持ちを切り替えて、はい、と言い彼の前から去り、控室に向かった。



「で、十五年前の真相とは何でしょうか、『こうしゃく』様?」

 控室に入るなり、彼女は暗闇――否、背後から音もなく近づいてきた人間にそう、問いかけた。


「ふ、ははは」

 突如聞こえてきた狂気的な笑みに彼女は、多少驚いた。

「君は『大叔母』様にはなれないよ?」

 その人物は、黒髪を無造作に書き上げながら言った。

「侯爵様。デトン公爵が到着なされたようですよ。ユーリア・ロンデンブルク伯爵夫人(・・・・)には最後の仕事(・・・・・)をしてもらわねば」

 その黒髪の人物の背後にいたのも聞きなれた声だった。

「公爵様、どうぞこちらへ」

 黒髪の男は、自身がふさぐように立っていた出入り口から退き、ヘーゼルナッツ色の髪の男性を部屋の中に通した。

「どういうことですか、公爵様」

 ユーリアは、丁重に扱われているデトン公爵を見て、疑問だらけだった。本当に、一番近くにいた王立騎士団長(・・・・・・)がこの真相に関わっているのか、あそこまで話してくれたデトン公爵(・・・・・)が本当はあちら側(黒幕)だったのか、そして、何故、あの男は『十五年前のこと』を知っているのか、さまざまな疑問が浮かび上がってきたが、彼女は体格が違う男相手に負け戦を仕掛けることはできなかった。

 デトン公爵はユーリアを見てほほ笑んだ後、黒髪の男と騎士団長に向かって、言った。


「どうもこうも、こういう事だよ。君たちの投了だ、ヨハン・グレッセン君とミシェル・ベレーゼ君」

次回ラストです。

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