最終章 明かされる真実と大縁談 その1
とある日、ユーリアは早朝に公爵のもとを訪れていた。
「姫、どうされたかな」
公爵は滅多にそんなことをしないユーリアに驚いていた。
「例の王宮茶会の件ですが――」
彼女は口ごもった。
「どうした?」
「せっかく公爵様やマルゴ様には申し訳ないのですが、当日王宮の警備に当たれと殿下から連絡がきまして、そちらに行かなくてはならなくなりました」
公爵は目を見開いた。
「殿下ももしかしたら独自に『情報』を手に入れたのやもしれないな」
「『情報』ですか?」
ユーリアは何のことかさっぱりわからなかった。
「ああ、君の両親の件とハインリヒとの件について、『大きな借り』があると前に言ったことは覚えているかね?」
「ええ」
「その『借り』を返す時が来たようだ」
「はい?」
「私はもちろん調査しておった。だが、グスタフは君のことを『ユーリア・ロンデンブルク』本人だと知らずにここへ送り込んできた。それは『諸刃の剣』、なのは想像つくだろう」
公爵は一言一言自分自身にかみしめるように言った。公爵がその『大きな借り』を今でも忘れていないのが、ユーリアにはよく分かった。
「15年前、そして『2年前』の私たちを殿下はなぞっているようで怖いんだ」
『2年前』とは、おそらくはハインリヒの暗殺事件の事をさすのだろうとユーリアにも分かった。
「でも、君には王立騎士として防衛手段もある。もちろん伯爵としての姿を見れないのはとても残念だ。だが、君が死なないことの方が重要だ」
そう言うと、公爵はユーリアを抱いた。それは、父が娘に対してするようなそれだった。
「君は、グスタフ殿下のことが好きだろう?君は気づいているのかわからないが、あの殿下は君のことが好きだ。この件が片付いたら、ハインリヒとの結婚についても真実を明かそう」
彼女の髪をすっと撫でた。公爵は抱いていたのを離して、
「心配はない。あとは私たちが何とかする。君は王立騎士として務めを果たせ」
ユーリアはその日から、王立騎士団へ戻ることとした。
「団長、ただいま戻りました」
彼女は久しぶりに騎士団の制服を着用して、騎士団長のもとへ向かった。赤毛の彼は実際の年よりも若く見えるが、すでに50歳を超えているという。
「おう、イェルク。久しぶりだな」
「…はい、お久しぶりです」
団長とはグスタフに引き抜かれるまではほぼ毎日会っていたものの、引き抜かれてからはたまにしか会わなくなっていた。
「結構、王太子殿下に使われているみたいだな」
「(言いようによっては『使われている』な)はい。使われていますね」
今まで二重スパイ状態になっていたとは言い難かった。
「新入りのくせして、羨ましいよ」
ガハハ、と団長は笑った。
「王宮茶会でわた――僕はどちらかの警護に当たると聞きましたが」
思わず『私』と言いかけて訂正した。
「おうよ。これが配置図と配置表。イェルクは王太子殿下とデトン公爵の護衛だ」
イェルクの名前が書かれた部分を指さしながら団長は答えた。なるほど、とユーリアは思った。前回は王宮の門での身分確認にあたっていたが、今回はそうもいかないらしい。
「なあ、イェルク。お前はどこの『出身』なんだ?」
今まであまり隠せてなかっただけあって、その問いに素直に疑問を感じてしまった。
「へ?」
「へ?じゃない。お前綺麗な発音しているだろう?だから、志願票には南方領出身と書かれていたが、本当は王都出身じゃないのか?」
団長は盛大に勘違いしていることに気づいたが、あえて何も言わなかった。
「ええ、『正確に言えば南方出身』というだけです。育ってきたのは王都なので」
とのように、ごまかしておいた。
「そうか」
それ以上団長は何も言わなくなった。





