第7話:禁忌、呪い、夢、誓い
7話目です。
ここまで読んだくれた人、ありがとうございます。
少女は瞳を閉じ、夢を見る。
あぁ、身体が重い。
ジンは無事かな?
きっと怒ってるだろうな〜.
結局足手まといになっちゃったし。
ローズにも怒られちゃう。
『無茶しすぎよ!!』ってね。
無謀に人を庇って死んじゃうなんて…私ってほんとバカ。
自分が死んじゃったら意味ないのにね。
あ〜あ、冒険したかったな〜
ジンにも私の力を見認めてもらってない。
やりたかったことが多すぎるよ。
でも死んだら、あの世でお父さんとお母さんに会えるかな?
会ったら二人にも怒られちゃうな。
『18で死ぬなんて何事か!?』なんて…
お父さんもお母さんも私より早く死んだ癖に。
なんだか眠くなってきちゃった。
私ここで死んじゃうの?
死んだらどうなるんだっけ…
『お前が死ねば、お前は忘却の彼方へといざなわれる。故にこの世からお前を覚えている者はいなくなる。それが、お前がその身体に刻みし忘却の呪いだ。」
少女の目の前に黒い蛇が現れる。
蛇はそのまま少女を見つめる。
『もうここで終いにするか…?
楽になるか…?』
嫌だ。嫌だ!!
私はまだ死ねない。
死ねないのよ!!
私にはまだ、叶えたい夢が…!!
『………』
何かが少女の耳へと流れてくる。
何?
何なの?
『……ン』
よく聞こえない。
何を言ってるの?
『…リ…ン』
次第に声は大きくなっていく。
『リ…リン…』
そして、
「リリン!!!」
少女は目を覚ます。
すぐそばには自分の手を握っている1人の少年の姿が。
「…ジ…ン?」
「…ッ!?気がついたか!?」
少年は意識を取り戻した少女の手を強く握る。
「こ…こは?」
「まだ洞窟の中だ。今、集会所に応援を頼んでいる。だからもう少し頑張れ…」
少女はかすれた視界で周りを見渡す。
そして少年に質問する。
「あの…2人は…?」
「奴らならここからもう出て行った。」
少年は少し前に起きた出来事を少女に話す。
ーー数分前
「リリン!!」
ジンは自分の身代わりとなったリリンのそばへ駆け寄る。
リリンの傷は深いが、まだ致命傷ではない、今すぐ処置をすればまだ間に合う。
しかしジンの身体も2度の戦闘でぼろぼろになっており、リリンをここから運び出すには少し休憩が必要だ。
さらに、満身創痍のアランの横にはエルザの姿が見えた。
「ひどい傷ですね。」
「……」
「何か言いたいことはありますか?」
「……俺は負けた。戦いに敗れた俺にはもう教団にいる資格などない。殺せ。」
「貴方にはまだ生きてもらわなければなりません。ここで死ぬことは創世の聖神様の意向ではないでしょう。」
「生き恥を晒せというのか?」
「不服ですか?」
「いや…それが創世の聖神の望みだというのなら、俺は甘んじてそれを受け入れよう。」
「よろしい。では、帰りましょうか。我が教団の元に。」
そう言ってエルザはジンとリリンの方へと向き直る。
「貴方とその少女がここから生きて戻ったのなら。それも聖神様の神聖なる意向なのでしょう。またいずれ会う日が来るでしょう。その日まで、聖神様に救われた命を大切にしなさい。
「では行きましょうか…アラン。」
エルザは魔法の詠唱を始め、自らの足元に魔法陣を出現させる。
「超移動魔導」
光が2人を包み、その姿が消える。
どうやらここから出て行ったようだ。
そう判断したジンは集会所へと応援要請を出した。
ーーそして時は現在に戻る。
「そう…」
リリンは小さくそう言う。
「…なぜこんな無茶をした。無謀にもほどがある。」
ジンは疑問をぶつける。
「なんでだろう…自分でもよくわからない。気がついたら身体が動いてた。」
「なんだそれは…俺を助けてお前になんの得がある。俺とお前は数日前に出会ったばかりの関係だ。別に何年も共に過ごした訳でもない、恋人同士でもない、俺に借りがある訳でもない。俺よりつよいわけでもない、なのに…なんでなんだ…?」
少年は思い出しているのは野党に孤児院が襲撃された時の屋根裏にいた無力な自分。そして、アランに言われた言葉だった。
「なんで…誰かを助けるのに理由がいるの?強さがいるの?」
「…!!」
その言葉にジンは衝撃を受ける。
なんで今になってなんだ…?
なんで早く気づかなかったんだ…?
なんで、なんで、なんでなんだ。
少年の瞳から熱いものが溢れ出る。
それをただ流す事しかできない。
「なんで…泣いてるの…?」
「わからない。お前の言葉を聞いてたら、急に…」
少年はただただ涙を流す、10年間、その心の中に溜め込んできたものと共に。
「なぜ、お前はそんなに強いんだ?お前は何なんだ。」
それを聞いたリリンは口を開く。
「そういえば、あなたの過去を聞いといて、私は何も話してなかったわね…。私は…禁忌を犯したの。」
「禁忌…だと?」
この世界には絶対に犯しては3つの禁忌が存在する。
一つ、人体の錬成。人間を魔法、その他の方法で人為的に作ることを禁止する。
一つ、時間という概念の操作。時間を操作し、未来、過去を行き来することを禁止する。
一つ、死者の蘇生。己の為に死者を蘇生することを禁止する。
そしてリリンはこの死者の蘇生という禁忌を犯した。
4年前、
少女の両親は疫病によって命を落としていた。
『どうして2人が…』
少女の心に黒い影が陰る。
そんなときに都の図書館で見つけた一つの本、そこに書かれていた禁忌の魔法。
『これだ…!!』
見つけた一つの希望に少女は心を弾ませる。
『もう少しで2人が帰ってくる。』
そして訪れた大聖堂。発動させた禁忌の魔法。
『お願い、戻ってきて…。』
だが、そんな少女の願いは届かず、失敗した禁忌の魔法。
『禁忌を犯すのは、お前か。』
少女の耳に声が聞こえる。
『誰?』
『お前達が神と呼ぶ存在だ。』
『神様が私に何の用なの?邪魔しないで!!私はただ2人を…!!」
少女は叫ぶ。
『哀れな者だ。禁忌を犯すだけでは飽き足らず、神への不敬をはたらく…。救いようのない愚か者だ。そんなに父が恋しいか、そんなに母が懐かしいか、そんなに2人が忘れられないか?」
『そうよ!!2人が生き返るなら、私は…』
『そんなお前にお似合いの呪いをやろう。神の罰を受けよ。』
そして少女はその身に忘却の呪いを刻んだ。
現在ーー
リリンの過去を聞いた少年はまた涙を流す。
「なら尚更お前が俺をなぜ助ける?そんな呪いを受けたお前が。」
「だから自分でもわかんないんだって。」
「俺は誰かを守るために、誰かを助けるために強くなった…なったはずだったんだ。けど、助けられたのは俺の方で、こうやってお前を危険にさらしている。結局俺は何一つ、あの頃と変わってなんかいない…」
ジンは後悔と自分への怨みを口にする。
そんなジンにリリンはこう言う。
「そんなことないわよ…誰かを助けるのに理由はいらない。強さもいらない。けど、強くなった方がより多くの人を助かることができる。あんたはまた守れなくなるのが嫌で逃げていただけ。あんた自身はもう、誰かを、大切なものを守る力を持ってるじゃない…。』
「俺は間違ってなかったのか?」
「ええ。」
「そうか…」
涙が流れる、流れる、流れる。
そしてその流れた涙がリリンの頰を濡らす。
「ねぇ、ジン…私さ、夢があるんだ。この世界の端から端までを旅して、その旅のことを本に記すの。一冊だけじゃない。何冊も何冊も書いて、必ず世界一の冒険譚にしてみせる。そうすれば私が死んでも、私がいた記憶はみんなの中に残ると思うの…。」
「ああ、お前なら必ずやれるさ。」
ジンは柄にもなくそんな優しい言葉を投げかける。
「だからさ、あんたもこれから守っていけばいいんじゃない…?大切なものを。今までしてこなかった分まで。…」
少女は少年の手をそっと握り返す。
その手の温かみを受けて、ジンはある決意を固める。
「なら、俺にお前を守らせてくれ。」
「え…?」
リリンは耳を疑う。
「俺がお前をこの世のどんな危険からも守ってやる。どんな旅路であってもお前の夢が叶うその日まで、俺がお前のそばにいる。」
「それって愛の告白かなにか?」
リリンは精一杯の笑顔でそう返す。
「お前の旅、俺も付き合わせてくれ。だから、死ぬな。」
「縁起でもないこと言わないでよ。
でも…ありがとう。よろしくね。ジン…。」
そう言って少女はまた瞳を閉じたのだった。
第1章完!!
としたいところですが、もう少し続きます。
まだまだ未熟ですが、最後まで読んだくれてありがとうござます。
今回も感想をお待ちしてます。
それでは。