第5話:決意、そして共闘
5話目です。
着々と第1章も佳境へと入って来ました。
今回も最後まで読んでいってくれると嬉しいです。
12年前ーー辺境の孤児院
『また無茶したのか?』
傷だらけの赤髪の少年とその少年より少し背の高い白髪の少年が孤児院の庭で話している。
『だって街の奴らが先生のことを馬鹿にしてたんだ。戦いから逃げた臆病者だって。』
傷だらけの少年は拳を握りながら話す。
『先生も気にするなって言っていただろ?』
『けどほっとけないだろ?』
白髪の少年は落ち着いた様子で赤髪の少年をなだめる。
『誰がなんて言ったって先生は俺たちを戦いから逃がしてくれた。俺たちがそれを分かってればそれでいい。他の奴らにはどうとでも言わせておけばいいさ。』
『ギルは大人だな。羨ましいよ。』
『お前がガキなんだよ。』
2人は何気ない話を繰り返した後、互いの夢について語り合う。
『俺は大きくなったら絶対に冒険家になるんだ。』
赤髪の少年は嬉々として語る。
『何回も聞いたよ。何年も何年も変わんねぇな。』
『そういうギルは何になりたいのさ?』
『男に生まれたなら目指すものは一つだろ?」
白髪の少年はニヤリと笑う。
『最強になるだっけ?ギルも俺のこと言えないじゃん。ガキっぽい。』
『これだけは譲れないな。』
『夢ってそういうもんだよな。』
そう言って赤髪の少年も笑う。
『おっ、また何か2人で仲良く話し込んでるな?』
優しい声が2人の後ろから聞こえてきた。
『先生!!』
2人は同時に振り向く。
『あっははは、振り向くのも仲良く2人一緒だ。』
『今、ギルと夢にについて話してたんだ。』
赤髪の少年は笑顔でそう返す。
『おいおい、恥ずかしいだろ…?』
白髪の少年は恥ずかしいそうに赤髪を少年を見る。
『いいじゃないか。青春してるな〜。2人共、その夢絶対に叶えろよ。』
『もちろん。』
『当たり前だろ。』
2人はそれぞれ言葉を返す。
『よし、じゃあ中に戻るか。』
そう言って三人は孤児院の中に戻っていく。
この幸せが永遠に続くと疑わず。
現在ーー都郊外の洞窟
「ギル…生きていたのか…」
「お前をずっと探していたよ。裏切り者のお前を。」
2人は互いに見つめ合う。
1人は驚きの表情で、そしてもう1人は憎悪の眼差しで。
「感動の再会ですね。どうですかご感想は?」
エルザは1人微笑んでいた。
「お前が1人のうのうと生きていたことは知っていたよ。あの時、連れ去られた孤児の中にお前はいなかったからな。どうだった?1人だけ逃げて得た人生は。さぞ愉快なものだっただろうな。」
「違う、俺は…」
「言い訳なんて聞きたくないな。」
ギルバードいや、アランはジンの言葉を遮る。
「この身を売られてからもう10年も経つ。俺は教団に救われるまで地獄の日々を送っていたよ。この左目も俺を買い取ったイかれた飼い主にやられたよ。」
そう言ってアランは自分の左目を指す。
「俺の話を聞いてくれ…ギル。」
「その名で呼ぶな!!」
アランは声を荒げる。
「その名はもう捨てた。今の俺はアラン・ウェスカー。アドニス教団の従順なる僕だ。」
「……ッ。」
ジンはなんの言葉もかけることができない。それほどまでにかつての友とジンとの間には深いわだかまりができていたのだった。それでもなんとか言葉を紡ぐ。
「お前もメギドでの戦争にも参加するのか?」
「ああ、俺も聖戦に参加する。」
その言葉にジンは叫ぶ。
「正気か!?あの国には他のみんなや先生たちとの思い出があるだろう?」
「もう先生はいない。みんなも違う国で生きているだろう。死んでいるかもしれんがな。お前が俺のことをそう思っていたように。」
「目を覚ませ!!お前がやろうとしているのはただの意味のない戦争だ。先生もこんなこと望んでないはずだ。」
「お前に何が分かる?裏切り者のお前に。お前は自分の名を捨て、先生の名を語る道を選んだ。しかし、所詮は偽物だ。ゆえに、今のお前は何者でもない。ノーマンだ。」
ノーマン、この世界の古い言葉で『名無し』を意味する。
「名無しか…。なぁ、そんなにおれのことが憎いのか?許せないのか?」
「ああそうだ。今、息の根を止めてやる。名無し。」
アランは剣を振り上げる。
もう、あの頃には戻れないのか?
ジンは歯をくいしばるしかできない。
俺は今まで何をしていたんだ?強くなっても、友の心一つ動かせない。
ジンの心が絶望で満ちていく。真っ白な布に真っ黒なインクが染み込んでいくように。
もういっそ諦めてしまおうか。かつての友に斬られるならば悔いはない。
「先生…俺はどうすれば…」
珍しくそんな弱気な言葉を吐いた時だった。
『諦めるな。』
そんな声が聞こえた気がした。
「『諦めるな』か…」
少年は恩師の言葉を思い出す。
『いいか、人生を長く生きていれば、必ず心を暗く染める絶望に遭遇することがある。』
『なにそれ?よくわかんないよ。』
それは幼き日の自分の言葉。
『そりゃそうだ。お前はまだまだ若いんだからな。じゃあ、もしお前にもこの意味がわかった時のために一つアドバイスをやろう。』
『なに?』
『諦めるな』
『なんだよそれ?結局気持ちかよ。』
『だから、いつかわかる日が来るさ。』
「今ならわかる気がするよ。先生。」
ジンの瞳に光が灯る。
「確かに俺は裏切り者かもしれない。先生の偽物なのかもしれない。名無しなのかもしれない。だが、それでも俺は諦めない。」
ジンは剣を強く握る。
結局、俺には剣しかないのか。まぁこれも俺らしい。
「俺がお前を連れ戻してやる。絶対に!!」
そこにはいつもの無機質なジンにはない、静かに、しかし熱く燃え滾る炎が顔を覗かせていた。
「開き直ったか…名無しめ。いいだろう。そんなに死にたいのなら今すぐ殺してやる。」
そういうとアランは何かの魔法の詠唱を始める。
「I am the shadow《我は影なり。》」
何かまずい。そう判断したジンは距離を置こうとする。
「無駄だ。俺からは逃げられない。潔く死ね。」
アランが魔法を発動しようとしたその時、一陣の光の矢がアランへと飛んでくる。
「ッ!!」
魔法の発動を中止し、かろうじて剣で防ぐ。
「誰だ!!」
その問いかけに帰ってきたのは一つの火の球だった。
「火炎魔導!!」
放たれた火炎はアランのへと直撃する。衝突の衝撃によって周りの岩が砕け、土煙が舞う。
そんな中、一つの人影がその姿を現わす。
「これ、貸し一つだからね。感謝しなさいよ。」
長い黒髪に、幼さの残る顔立ち、そして強い意志を秘めた、青く澄んだ瞳。そしてこの見た目に合わない強気な発言。
新米冒険家リリン・ガーデンだ。
「お前…どうしてここに?」
「『どうしてここに?』じゃないわよ!!
あんたが約束の時間になっても来ないからでしょうが!!こっちはあんたに勝つために地獄の時間を過ごしたっていうのに!!」
どうやらローズの特別授業はかなりきつかったようだ。
リリンはかなり気が立っている様子だ。
「なんでここに俺がいるって分かった?」
そんなリリンの怒りを無視してジンは疑問を投げかける。
「あら?知らないの?私にはノーグレス一の情報屋がサポートについているのよ。」
リリンは誇らしげな顔でそう言う。
「あのアランとエルザって奴、いきなり攻撃しちゃったけど大丈夫かな?」
「そんなに簡単にくたばるような奴らじゃないだろう。 ……ん?」
ジンは頭に湧いた違和感を口にする。
「おいお前、なんであいつらの名前を知っている。いつからここにいた?」
「ギクッ!?
いっ、いや〜ついさっきここについたばかりだけど〜」
「嘘をつけ。さては俺とあいつらの会話を盗み聞きしてたな?
「だってよくわかんない状況だったんだもん。仕方ないじゃない。」
「何が仕方ないだ。言い訳も大概にしろ。」
「何よ!!ピンチになってたところを助けてあげたでしょ!!これでおあいこよ!!」
さっきのかっこいい登場が薄れるほどの逆ギレだ。まぁリリンらしいといえばそうだが…。
「人の過去を盗み聞きして何がおあいこだ。」
「…ッ、それはーー」
リリンが何かを言おうとした瞬間、一刃の暗器が飛んでくる。
「伏せろ!!」
いち早くそれに気づいたジンが、リリンの身体を地面へと下げる。暗器が2人の頭上をかすめてゆく。
「へぶっ、舌噛んじゃった。」
「死ぬよりはマシだろ?」
「話は済んだか?名無し。」
止んだ土煙の中からアランが姿を現わす。どうやら直撃の瞬間にエルザが魔法の障壁を張ったようだ。アランにはなんのダメージもない。
「これってヤバい状況?」
「かもな。」
「何か手はあるの?」
「……この状況で俺たちが取れる手は一つしかないだろ。」
「それしかないようね。」
リリンはしぶしぶ頷く。
「仕方ないから力を貸してあげるわ。」
リリンはジンよりも一歩前へ出る。
「足は引っ張ってくれるなよ。」
ジンも一歩前へと進む。
そして2人は横に並んで立つ。
2人は共闘の道を選んだのだった。
お読みいただきありがとうございます。
これは補足ですが、作中で名無しと言う意味で使われているノーマンと言う単語ですが、あくまでこれは僕の作った造語なので、実際にそう言う言葉はありません。補足でした。
今回も意見、ご感想をお待ちしております。
それでは。