第4話:少年の夢と蠢く者
4話目です。
ちょっとずつですが投稿にも慣れてきました。
文の方はまだまだですが…
よければ今回も見て言ってください。
洞窟内に緊張が張り詰める。
ジンは毒蜥蜴との距離を瞬時に縮める。そして手にした剣を毒蜥蜴めがけて振り下ろす。
だがジンの渾身の一撃は黄土色の堅牢な鱗に防がれる。
ガキンッ
鋭い音が洞窟内に響き渡る。
ジンの一撃を受け切った毒蜥蜴がその鋭い牙をジンへと向ける。その牙には強力な神経毒が含まれている。かするだけでも動きはかなり鈍くなるだろう。
つまり一撃でも受ければその時点でジンの負けだ。
その毒牙を避けながら一撃、二撃、三撃と次々と攻撃を繰り出してゆく。しかし毒蜥蜴の鱗によって大きなダメージを与えることはできない。
「やっかいな鱗だ…」
予想以上に硬い毒蜥蜴の守りにジンは攻めあぐねる。後ろにまわり込もうにも、毒を持った長い尻尾が邪魔だ。
だが敵の方も攻撃を全て避けるジンに苛立ちが溜まっているようだ。
どちらも相手を睨み合ったまま動かない。次に相手がどう動くのか待っているのだろう。どちらが先に動くか、我慢比べだ。
「シューーー!!」
先に動いたのは毒蜥蜴の方だった。
鋭く尖った爪でジンを切り裂こうと迫っていく。
対するジンは微動だにしない。だがその表情に焦りはない。
黄土色の体が地面を這い、ジンとの距離を縮めてゆく。
しかしジンはまだ動かない。ひたすらに待ちに徹している。
毒蜥蜴とジンとの距離は3mをきった。
2m…まだ動かない。
1m…まだ動かない。
30cm…毒蜥蜴が爪をジンへと向ける。
キィキィィィーーッ
爪がジンへと直撃する刹那、ジンが毒蜥蜴の一撃を剣で受け止める。
そして無防備になっていた顔部を踏み台にする。
ジンの体が黄土色の体の上へと跳躍する。そして、
ザンッ
ジンの剣が毒蜥蜴の尻尾を斬り落とした。
尻尾の部分は胴体に比べて、鱗が柔らかく、数も少ないので剣で容易く切り落とせる。
切断面からは血が流れる。ジンの鮮やかな赤髪と違い、赤黒い色をした血が。しかし尻尾に流れている血液は微量な為すぐに出血は止まる。
ジンは毒蜥蜴へと向き直るとまた剣を構えたまま待ちの体勢に入った。
「まずは尻尾。次は手足をもらう。」
ジンは剣を構えたまま、また待ちの体勢に入る。
どうやら鱗の薄いところから削っていくつもりらしい。
毒蜥蜴は頭に血がのぼっているようだ。まっすぐジンに向かっていく。爪がだめなら次は牙だと言わんばかりに二本の尖った毒牙をジンに向ける。
牙を剣で受け止めてかすりでもするとまずい。そう思ったジンは毒蜥蜴の突撃を横へと避ける。それと同時に手足へ攻撃を試みるがやはり生半可な攻撃では斬り落とすことは叶わない。
毒蜥蜴は止まることはない。再度、ジンに突撃を仕掛ける。だが2回目の突撃もをジンはまたもや華麗に避ける。そしてもう一度手足へ攻撃を行おうとする。が、ジンが攻撃を繰り出すよりも早く毒蜥蜴が素早く身体を回転させてジンにカウンターを返す。
「ぐっ…」
爪は剣で防いだが、勢いを殺すことができずに吹き飛ばされてしまう。かなりのダメージがあったのか。すぐに体勢を立て直すことができない。それを見た毒蜥蜴が3回目の突撃を行う。だか、相手が動かないことに油断が生じたのだろう。繰り出された攻撃はまっすぐ、単調なものだった。
それをジンは逃さない。痛みに耐えながらもなんとか体勢を立て直す。そして全ての力を振り絞って剣を振るう。
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
一閃、毒蜥蜴の腕が宙を舞う。痛みに体勢を崩した瞬間を逃さず、さらにもう一撃、首に向かって渾身の力で叩き込む。
銀色に輝く刀身が毒蜥蜴の頭と胴を切り離す。
「はぁはぁ…」
息を切らしながらジンはその場にすわり込む。身体は極度の酸欠に陥り、全身の細胞が大量の酸素を欲する。
時間にすれば10分近くの短い時間だか、それですら1時間にも2時間にも感じた。すぐそばには先ほどまで命の奪い合いをしていた毒蜥蜴の死体が。
ジンは心の中に確かな充実感を得ていた。
これだけ手強い魔物でも俺は1人で倒せるようになった。もうあの都にいる意味もない。この戦いの疲れが取れ次第、次の都に向かうか…。
「いや、まだか…。」
そう言ってジンはリリンと名乗っていた1人の新米冒険家の少女の顔を思い出す。長い黒髪にまだ幼さの残った顔立ち、そして宝石のように青く澄んだ瞳を持った少女だ。性格はその清楚な見た目に反して豪快そのものだったが。
どうして俺はあんな決闘を受けたんだ?
ジンはそんなことを自分自信に問いかけていた。
いや、理由は分かっている。似ていたんだ、先生に。
『先生』とは、いうまでもなく、ジンのいた孤児院の院長のことである。
顔だとか、背格好とかじゃない。性格だっていつも落ち着いていた先生とは似ても似つかない。けど懐かしさを感じたんだ。あいつの雰囲気に。それにあの眼、瞳の中に何か大きなもの宿したあの眼だ。先生も同じような眼していた。だからあいつのことを無視できなかったんだ。
都であいつに冒険に誘われたとき先生との話を思い出した。
『お前は将来何になりたいんだい?』
『そんなの決まってるじゃん。俺はーー。」
それは昔に恩師と交わしたたわいのない会話。
「俺は…冒険家になりたかったんだ。
けれど、俺は…まだまだ足りない。これじゃあ誰も守れない。」
手強い魔物を1人でも倒せるような力を持っているのにも関わらず、少年はさらに力を渇望する。もう十分に誰かを守る力は持っているはずなのに。
「さて、そろそろ戻るか…。」
ジンはゆっくりと立ち上がる。
「あらあらひどい有様ですね。」
背後から突如声が聞こえる。
驚いて後ろに振り向く。
「誰だ。」
背後にはジンがこの巣に入ってきた入り口がある。
そこには1人の女の姿があった。何かの紋章のついた黒いローブを羽織った銀色の髪の女だ。歳はリリンよりも少し上ぐらいだろうか。女の手には一本の杖が握られており、教会の修道女といった印象を受ける。だか、その瞳には得体の知れない何かがあった。ジンもそんな気配を察してか、腰の剣に手を伸ばす。
「なぜこんな所にいる。何のためだ。」
「ここに住まうと噂の悪しき魔物の討伐に来たのですが、どうやら遅かったようですね。」
「お前が毒蜥蜴の討伐に?何者なんだお前は?」
「挨拶がまだでしたね。私の名前はエルザ・ルーラー、
創世の聖神様の後を継ぎ、この世に秩序をもたらす者です。」
「創世の聖神だと?この世界を作ったとされる神のことか?あんなものはただのおとぎ話だ。寝言は寝て言え。」
「それが真実か嘘か、決めるのはあなた自身です。けれどもこれだけは言えます。信じる者は救われるのです。」
「狂信的な女だ。毒蜥蜴は見ての通り仕留めた。もうここに用はないだろう?」
「ええ、後は火葬だけですね。」
エルザは毒蜥蜴に向かって詠唱を始める。
「せめて安らかに天へと昇りなさい。火炎魔導。」
エルザの手から魔導陣が出現し、そこから一つの炎の弾が飛び出す。毒蜥蜴が激しい炎に包まれる。
「あなたも親と一緒に逝きなさい。」
エルザは燃え盛る炎の中に毒蜥蜴の卵を放り込む。本当にこれがこの卵にとっての幸せだったのだろうか。
「貴方にもよ。」
エルザはジンに向けても詠唱を始める。
「……ッ!!」
反射的に剣を抜き、エルザへ切っ先を向ける。魔法を放った瞬間に斬るそんな意思を剣に乗せて。だか、
「回復魔導」
「!!」
エルザの唱えた魔法によってジンの体力と傷が癒えてゆく。しかしジンは剣をエルザに向けたままだ。鋭い目でエルザを睨みつけながら問いただす。
「なんのつもりだ。なぜ俺に回復魔法をかけた。」
「貴方を癒して差し上げたのです。悪しき魔物によって傷ついたその身体を。」
「…わかった。それには感謝する。俺は先を急ぐ。」
こいつと関わるのは危険だ。早くこの場から去るのが得策だ。
そう思ったジンは剣を納め、エルザがいる入り口の方へ向かっていく。
「貴方、私とともに来ませんか?」
突然のエルザの質問にジンは足を止める。
エルザの方をまっすぐ見ながら得意の無機質な言葉をかける。
「どういうつもりかは知らないが、俺は誰とも共には行動しない。」
「私は、いえ私達は、喧騒の国に近々攻め入ります。」
その言葉にジンの顔つきが変わる。
「……」
「あの国の秩序は乱れすぎています。あれを正すには一から国を作り直すしかありません。」
「それは内乱を鎮めるということか。」
「いいえ、これは聖戦です。この世に素晴らしい秩序をもたらすための必要な戦いなのです。」
「あの国には多くの関係のない国民がいる。それも一緒に殺すつもりか?」
「仕方のないことです。関係がないといっても喧騒の国の民ということには変わりありません。そのような者が新たに作った国にいればいずれまた争いが起こるでしょう。それは避けなければなりません。」
「ばかばかしい。あの国の兵士は手練れだ。お前にそれに戦いを挑むだけの力があるのか?」
「私個人には無くとも、私達《アドニス教団》にはその力があります。」
「アドニス教団?なんだそれは?」
「貴方が教団にその身を捧げるならば、お教えしましょう。」
「……断る。」
ジンはそう宣言し、再びエルザへと剣を向ける。
「あんな国でも俺にとっては故郷だ。思い出がある。それをお前らの好きにはさせない。
「あら?あの国にはもう貴方の守るものなんてないんじゃないですか?ジン・マクレインさん。」
その言葉にジンの表情が険しくなる。
「自分の名を捨て、かつての恩師の名を名乗って生きるのはどういう気持ちですか?」
「お前…どこまで知っている?」
「さぁ…どこまででしょうね。」
「もういい、お前はここで…斬り捨てる!!」
そう言い終わるのが早いか、ジンのはエルザへと向 かって剣を振るった。
キンッ
洞窟に響いたのはエルザの首が斬られる音では無く、金属が衝突する音だった。音も無く現れた一刃がジンの剣を止める。
こいつ…どこから?
その男は気配なく現れた。
エルザと同じ黒い外套を羽織い、左目にはエルザのローブと同じ紋章のついた眼帯をしていた。
「……ッ!?」
その男を見たジンの動きが固まる。
「アラン・ウェスカー、私が護衛をしてもらっている者です。貴方には、ギルバート・レイズと言った方がわかりやすいですか?」
ギルバート・レイズとは、ジンの孤児院時代の親友の名である。
「ギル…」
「久しぶりだな….裏切り者。」
一つの大きな出会いが果たされた瞬間だった。
というわけでどうでしたか?
今回はジンがメインのお話ですね。
僕的には2人共がそれぞれ主人公の立ち位置なのでそう思って読んでいただけると助かります。
今回も感想お待ちしております。
それでは。