第2話:その少女、負けず嫌いにつき
二話目です。
とりあえず第1章は短い文を1、2日毎に投稿しようと思います。
第2章からはどうしよう…
ここはノーグレスの中心にある集会所。
その中から1人の少女の怒鳴り声が聞こえて来た。
「だーかーらージンって剣士の情報を詳しく教えなさいって言ってるのよ!!」
この怒鳴り声の主はリリン・ガーデン、新米冒険家だ。その顔はまさに鬼の形相である。
リリンは先日、ジンという剣士に共に冒険しようと誘ったのだが、OKをもらうどころか言葉という名のナイフで心を滅多刺しにされてしまった。
普通の人間ならば、ジンとはもう関わろうなどとは思わないだろう。
だがこのリリンという少女は違う。彼女は大の負けず嫌いなのである。
8歳の頃には、いじめに来たガキ大将を返り討ちにし、12歳の頃には、いつもテストの点を自慢してくる嫌味なクラスメイトを見返すために三日間徹夜して勉強するほどだ。
そんな彼女にとって先日のことはとても無視できることではない。
この日、集会所が開くのと同時にリリンはジンの情報を教えろと乗り込んで来たのだ。
「いいから早く教えなさい。ローズ!!」
ローズと呼ばれた眼鏡をかけた集会所の受付嬢はそんなリリンを軽くあしらっていた。
「だからそういう個人の情報は他人には教えられないのよ。あなたもわかるでしょ?」
ローズ・メルバはリリンの友人の1人である。集会所の受付嬢という仕事についていることもあり、リリンが冒険家になるために多くのサポートをしてくれていた。
ローズはリリンをなだめながら話を続けた。
「急にジンの情報を教えろなんて一体どうしたの?彼と何かトラブルになったの?彼、そう言うの多いものね。」
「ええそうよ!!盛大にトラブったわよ!!だからあいつの居場所とか教えなさいよ!!」
「大方、あなたが彼を冒険に誘って、彼にぼこぼこに言い返されたのを根に持ってるんでしょう?あなたと彼は相性悪そうだもの。」
「ギクッ」
図星だった。
「そうよ…このままじゃ終われないのよ!!絶対にあいつに私を認めさせてやるんだら!!それでもって用心棒もしてもらうわ!!」
リリンは完全に吹っ切れているようだ。
ここまでくるとむしろ逆ギレに近い。
「呆れるわね。」
ローズはため息をつきながら言った。
「彼は、ジン・マクレインは、集会所の中でもかなりの問題児よ。腕は立つけど、協調性がないってね。依頼を受けては他の人とトラブルを起こしていたわ。」
リリンは先日の出来事を思い出す。
この前のあれはそう言うことだったのね。納得しながら話を続ける。
「とにかくジンについての情報を頂戴。どんなことでもいいの。」
リリンはどうやら引き下がる様子はないようだ。
「はぁ…わかったわ。調べておくわ。」
「えっ本当!?」
「提供できる情報は少ないでしょうけどね。まとめておくから少し外に出てなさい。」
「ありがとうローズ!!さすが私の親友ね!!」
「随分と強引な親友ね。」
ローズの皮肉も聞かぬままリリンは意気揚々と集会所を出て行った。
情報をまとめるまで早くても30分から1時間はかかるだろう。
その間リリンは都を少しぶらぶらすることに決めた。
始まりの都《ノーグレス》は小さな都だ。
人口は10万人にも満たない。
あるのは集会所とこの都のシンボルである大聖堂くらいだ。工業も農業も平均的なレベルで特に突出したところはない。
しかし、少ない住民が協力し合って生活しており、都は平和を保っている。
リリンは8歳の時からこの都にいる。親の仕事の都合上だ。
その両親もリリンが14歳の時に疫病で亡くなってしまった。
リリンに故郷に記憶はあまりなく、このノーグレスが彼女の故郷とも言えるだろう。
「おっリリンちゃんじゃないかどうしたんだい?」
馴染みの八百屋の店主が声をかける。
だがリリンにはその声は聞こえない。店主にも気づかずにスタスタと歩いていく。
「ま〜たいろいろ考え込んでるのかい。」
店主はいつものことのように、歩いていくリリンを見つめた。
そう彼女の頭の中は、どうやってジンに自分を認めさせるかでいっぱいなのだ。だから亭主の声も全く聞こえていない。
「せっかく大好物のリンゴがお買い得なんだけどな。」
「…買います。」
のようでもないようだ。
リリンはどのリンゴがうまそうか吟味する。
そして大量に積まれたリンゴの山から一個のリンゴを見つけた。
「…これだ!!」
リリンの選んだリンゴは他のリンゴよりもよく熟しており、とても赤い。香りも他のものよりもとても甘い。まさしく上物だ。
「ふふふ、美味しそう。」
そう言ってリリンがそのリンゴを買おうと手に取ろうとしたとき、
「オヤジこのリンゴくれ。」
一つの手が上物のリンゴを掴んだ。
「ちょ、ちょっと、それは私が買おうと思って」
リリンはその手の主の方に向き直る。
するとリリンの目に映ったのは見覚えのある赤髪だった。
「あんた…ジン!!」
「お前…この前の新米冒険家か。」
リリンは偶然出会ったことに少し驚いていた。が、
「そんなことより、それは私のリンゴよ!!他のにしなさい。」
「このリンゴは他のに比べて上質だ。悪いが俺が買う。」
ジンは相変わらず無機質に言う。
「そもそもこのリンゴはまだ買われていない。つまり、まだこの店の商品だ。お前のものじゃない。だから俺が買ってもなんの文句もないわけだ。だろオヤジ。」
「ま、まぁそうだけど」
店主はどちらの味方をすればいいか困惑している表情だ。
「これは俺が買う。話は終わりだ。」
「ぐぬぬ…言い返せない…」
これじゃあ前と同じパターンだ。そう思いながらもリリンは何も反論ができない。
そんなとき店主からの助け舟が出る。
「まぁそう言わずに話し合いなよ。リリンちゃんも買おうとしてたんだ。ジャンケンとかでさ。決闘とかでもいいんだぜ。」
店主は場を和ませようとそんな冗談を言う。
そのときリリンが閃いた。
そうよ、決闘に勝てば、ジンに私の実力を認めさせることができるし、リンゴももれなく手に入るわ。
やるしかない!!
「その決闘受けるわ!!」
「えっ!?」
店主は驚いてリリンを見る。
「リリンちゃん相手が誰かわかってんのか?無理に決まってるだろう。」
そう、いくら決闘をするメリットがあったとしても勝たなければ意味がないのだ。
だが、そんな店主の言葉はリリンには聞こえない。
「…分かった。本当にいいんだな。」
「ええ、もちろん!!」
「なら今日の15時に都郊外の平野に来い。そこでケリをつけてやる。もしお前が勝てばリンゴはくれてやる。」
ジンも我が強いのだろう。全く引き下がらない。
「店主、これは返しておく。」
そう言ってジンは店主に向かってリンゴを投げる。
「……」
ジンとリリンは無言でもと来た道を引き返す。
「こいつは大変なことになったな…」
店主だけがぽつんと立っていた。
《ノーグレス東部リリンの家》
冒険家を目指していたリリンはここに1人で住んでいる。
「さてどうしようかな?」
リリンは1人考え込んでいた。
まだ15時には1時間ほど時間がある。
その場の雰囲気から決闘まで申し込んでしまったが、何せ相手は集会所で1、2を争う手練れの剣士である。
リリンは別段弱いわけではない。魔法を使える者は少ないし、攻撃魔法と回復魔法の両方を使えるリリンは、そこいらの傭兵などよりはよほど優秀だ。だが相手がジンである以上さすがに分が悪い。
さらに魔法の使用には、当然ながら魔力を消費する。
それに比べて剣と体術がメインのジンには長期戦も厳しい。
「やっぱり短期決戦しかないよね!!勝負開始と同時に特大のを打ち込んでやるわ!!」
などとお粗末な作戦を立てていると、誰かが家の扉を叩く音が聞こえた。
「誰かしら?」
リリンは扉を開ける。
「あら…人に調べ物をさせておいて『誰?』とはお気楽ね。」
「あっ…ローズ…」
リリンはジンとの勝負のことで頭がいっぱいだったようだ。
すでに集会所を出てから3時間は立つ。
「ご…ごめん…」
そんなリリンの謝罪を聞きながらローズは続ける。
「話は聞いたわ。さぁ、作戦会議を始めましょうか。」
「ああ…女神様。」
一つ、リリンに幸運があるとするとそれは、ノーグレス一の情報屋が親友だったと言うことだ。
「安心しなさい。プライベートで来たから、知ってることは全て教えてあげるわ。どうせ諦めるつもりはないんでしょ。」
「もちろん!!」
ジンとの決闘まであと1時間。ーー
今回もお読みいただき有り難うございます。
やはりまだ文が未熟ですね笑
またご感想を頂けると助かります。