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異世界であなたを捕まえる魔法  作者: 伊沢幸子
異世界で理想の彼に出会いました
1/6

老人村で憧れの君に出会いました

初めての投稿です。よろしくお願いいたします。

誤字脱字を修正しました。

 もしもあなたに会えたなら。どうしても掴めない夢のような男性。この10年間、あなたのことを考えるだけで頭は熱くのぼせ上がり、私の魂は地上を離れ、遙か彼方の木星まであっさり到達し、漂流する。いつもなかなか地球の地上に戻ってこれなくなる。

 会社からの帰宅中、いつものように憧れの漫画キャラ『樹君』のことを想って、いつもの街中の道を普通に歩いていたら、いつの間にか周囲が薄暗い森だった。アラサーの28歳で会社ではお局(候補?)になった今でも、『樹君』にのぼせた魂があっさり地球を離脱できる、私、月野春香は、夜が昼に、街中が森の中に、という周囲の変化になかなか気付かなかった。

 

 ノンタ村のこの冬は寒かった。ようやく春の兆しが感じられたが、まだまだ昼間でも冷える。小さな暖炉の前のソファーに座った。冷えた体を温めながら、春香はお茶を飲みつつ、背もたれに寄りかかってグッタリする。

 会社帰りに異世界トリップらしきものになってから早くも半年。親切で愉快で楽しいノンタ村にたどり着いていなかったら、あの時飢え死にしてたと、春香は思っている。山から突然現れた怪しいボロボロ女に、食べ物を分けてくれた親切な村だった。

 ヨーロッパ中世風だった。『魔力』を使用することで、水回りやトイレや灯りに不自由さは感じない。洋風な建物のため、土足生活で靴を脱げないのが少々ストレスになり、掃除には神経質になった気がする。

 どうやって来たのかも分からないので、日本に帰る方法も分からない。両親は既に事故で他界しており兄弟姉妹もいない。春香が失踪したことにより、嘆き悲しむ家族がいないのだけはよかった。

 

 ただ今、おやつの時間。夕飯の仕込み前に村のおばあちゃん達は、春香を居候させてくれているお人好しの老夫婦のこの家によく集っている。男性陣は密かに、このおばあちゃんたちの集まりを『魔女の巣窟』と呼んで近付かない。白髪に始まり、赤青黄緑など、いろんな色の髪をした老婆が集ってしゃべっていると、たしかに恐ろしい光景にも見える。10代だったら我慢できなかったかもしれないが、春香も28歳のお局会社員ともなれば、『聞き流しスルー』技も、『私は見えない空気』技も、多数の女性社員の中で生き残るためにそれなりに身に付いている。

 

「ねえ、知ってる?王都に『勇者様』が現れたんだって。ほら、うちの嫁、城勤めで侍女してるでしょ、『勇者様のお世話してるの~』とか自慢気に手紙寄越したのよ」

「勇者様ねえ、伝説の通り美形とかあんたの嫁は言ってた?」

 皆で持ち寄ったお菓子をボリボリ齧り、噂話に花を咲かせつつお茶を飲む。助かったことに言葉の壁は無く、本当は違うんだろうが春香には日本語にしか聞こえないし、日本語を話しているつもりで通じている。

「美形とは言ってたけど、嫁は趣味がねえ…。あんただって美形を期待してるんでしょ?ハルーカ、お茶、もう一杯どうだい?」


 それぞれのカップにおかわりのお茶を注ぎつつ同じテーブルを囲んでいるおばあちゃん達の会話を聞いていると、日本も異世界も女の噂話は変わらない。お嫁さんの趣味が悪いならその旦那である息子さんは…、などの怖い突っ込みは誰もしなかった。村長の奥さんを怒らせるようなへまはしないのだ。

 

 ちなみにこの村の人たちは、ハルカとは発音出来ず、ハルーカと親しみを込めて呼んでくれている。

 

「こっちに来てくれるかしらねぇ?若い色男なら一度は拝んでみたいわ。ハルーカもそう思うだろ?」

 

 春香を孫のように可愛がって居候させてくれているおばあちゃんが、春香に同意を求めて見つめてくる気持ちは分かる。なぜならこの村には走り回れるような若い男性はほとんどいないからだ。

 春香にしても、せっかく異世界に来たのだからゲームみたいに『職業:勇者』と名乗るのはどんな男性なのか、見てみたい気持ちは一緒だ。イケメンなら尚更良い。

 

 女の夢の話が盛り上がる中、魔獣が現れた事を知らせる村の鐘がまたカンカン鳴り出した。

 バン!と扉を開けて、家主であるおじいちゃんが飛び込んで来た。魔女の巣窟となっていた居間から逃げていたのだが、そうもいかない事態らしい。

 

「ハルーカ、またもや出陣じゃあ!槍を持てい!遅れるでないぞ!」

「…ハ~イ。またか…。おばあちゃん、ちょっと行ってきますね」


 畑から帰ってきたばかりだから、春香は正直嫌だったけどしようがない。おばあちゃんの気を付けるんだよ!の声を背に、いつもの縄を肩に掛けて帯剣し、魔獣が出たと騒ぐ年寄りが指し示す、村はずれの林の方へ向かう。

 

 魔獣は、魔力の塊のような獣で乱暴に暴れ回ったり、火球などの魔法で村を荒らすこともあるらしい。 老人曰く、隣国の魔王の国からやって来ているらしいが、それがこの国一帯に出没しているとなると矛盾を感じる。本当は、どこからきているのかは、誰にも分かっていないらしい。ただ畑を荒らされたり、襲われるのは迷惑なので、出てきたら狩るしかない。

 

 この村は働き盛りの若い人がほとんどいなくて、村にいる中で『走れる世代』は春香ぐらいしかいなかった。最初、『使える』と思ってもらえたから、村に受け入れてもらったような気もしていた。村人の親切さが身に染みている今はそんな風には思ってはいない。それだけにヨロヨロした足腰の年寄り達に仕事を頼まれると、気の毒で見ていられなくなってやってあげていた。


 ただ、なぜか春香の仕事は若い男性がする力仕事が多かった。倒木を運んだり、薪を割ったり、畑を耕したり、魔獣退治だったりだ。料理や縫物や洗濯もできないではないが、ニッコリ笑顔のおばあちゃん達に「ハルーカはしなくていいのよ」と取り上げられる。なぜだろう?おばあちゃん達の作った食事の方が確かに美味しいが、食べられない訳でもないのに。解せぬ。

 

 村人が追い立てた猪に似た黒い魔獣の正面に対峙するように、春香は『もの凄いスピード』で回り込む。その春香を額の一本角で貫く勢いで突っ込んで来た魔獣を紙一重で避け、そのまま輪にした荒縄を後ろ首から頭部に『投げ縄』して捕縛する。もしヒュンヒュン縄輪を回して放り投げて掛けられていたなら、昔の映画にでも出てくるカウボーイである。


 縄から逃れようと暴れる魔獣の魔力に汚染されないように、すぐさま『捕縛魔法』で動けないように抑え込む。春香の実力程度では、殺したりすることはできないが、大人しくさせることはできる。

 

「違う、ハルーカ!剣をこう!こう振って仕留めるんじゃ!何度言ったら分かる、こうじゃあ!」

「いや、こうこう!縄は鋭くこう投げる!投げたら引っ張って…」

「魔法は、こうじゃあ!この構えで、決めじゃ!」


 魔獣を追い込むために遠巻きに取り囲んでいた年寄り連中が近寄って来ては、剣や槍や杖を振る。教えてくれているらしいんだが、さっぱり分からない。端から見ると、バラバラに動く謎の舞のようにも見えて。

 春香は心の中でこれらを『勝利の舞』と名付けている。それでも見よう見真似および必要に駆られて、縄による捕縛技を身に着けていた。ただ、どうしても剣で切り付けたりすることには抵抗があって、縄で捕縛する事しかできない。平和な日本で生まれ育ったため暴力は怖かった。

 捕縛後は、村のおじいちゃん達が仕留め、魔獣の残骸から取れる魔力エネルギーの源の『魔核石』を集めて売ったりと対応してくれる。その『魔核石』、最近結構集まった。

 

 春香は剣術や武道の嗜みがあった訳ではない。こっちの世界に来て、何故か動体視力、短時間限定の素早さ及び腕力が格段に上がっていたのだ。普通の人間にできるレベルではなかった。魔法の呪文の必要もなく、必要時に『気合』で使える。

 

 会社からの帰宅中、いつもの道を普通に『樹君』のことを想って『魂を地球から離脱状態』で歩いていたら、何故か周囲が薄暗い森に変化していた。どう見ても日本の街では無い状況に呆けて立ち止まっていたら、背後からのガサガサ茂みを揺する音と共に、突然見たこともない獣が飛び掛かってきた。それを『見た』途端、スローモーションで全てがで動きだした。素早いはずの獣は、まるでフワフワの風船のようにゆっくり近付いてくる。不思議ではあったが、恐ろしさのあまり『力いっぱい』獣の横っ面を張り飛ばした。

 

 ふいに世界のスピードは元に戻った。獣はギャッとか鳴いてどこかへ飛んで行ってしまった。訳が分からないまま、春香も悲鳴を上げながら『もの凄いスピード』で走って逃げ、気が付いたら山の麓にたどり着き、今現在世話になっている老夫婦に助けてもらったのだった。

 

 この異世界では魔法が使える。初めて老人たちが魔法を使うのを見て、幼い頃からの夢が叶うと思い嬉しかった。誰だって魔法を使えるものなら使ってみたいはずである。そのため、『勝利の舞:魔法編』が恥ずかしいと思いつつも、独りの時にこっそり練習したのだった。

 結局『舞』は必要不可欠なものではなかった。魔法による結果のイメージを強く思い描きながら呪文を唱えるだけで、何とかなることに気付いた時はホッとしたものだった。強くイメージするために気合を入れて「こうじゃ!」があるようだった。

 

「ねえ、おじいちゃん、最近、魔獣が出るのが多くない?今日だけで2回よ。この時期、これが普通なの?」

「いや、そんなことはない。異常じゃあ。こんなのが続けば、おちおち畑仕事もやってられん」


 『勝利の舞:剣技編』が堪えたのか、多少息をハアハアさせている。

 

「そのうち、近所の村と組んで、魔獣討伐についてお上に言わんと。待ち受けてるだけではきりがないからのう」

「魔獣討伐と言えば、都にいる孫の一人が手紙で『聖女』が現れたとか言ってたぞ。ピンク髪の美人さんらしい」

「聖女様か~。昔、ワシのじい様が見たとか、会ったとか、握手したとか言ってたのう。どこまで本当の話か分からんが」


 まるで珍しいパンダを見たみたいな口調だった。おじいちゃん達の噂話は、おばあちゃん達に対抗してか、美人の『聖女様』で盛り上がる。

 

「で、おじいちゃん、勇者とか聖女って何するの?」


 美女を夢見て語っていた老人たちは、春香の質問に一瞬何と答えたものか分からず固まってしまった。何でも知っているはずの年寄りの面子を守るためには、何か言わねばならない。

 

「ほら、あれだ!…魔王とかと、戦うんじゃ!」誰かが口火を切って、男らしさをアピール。

「いや、魔獣とかを浄化するんじゃ、…たぶん。ワシのじいさまがそう言ってたような…?」自信が揺らいできた。

「せ、世界平和を…?」話を無理やり大きくしようとして失敗したらしい。


 何か大きな目的があるに違いないと期待する春香の素朴な質問に答えようとすればするほど、無理が出てきてしまった。結局、老人達も、勇者や聖女の役割をよく知らなかった。

 特に戦争が起きている訳でもないし、いくら魔獣が増えたとはいえ、今のところ討伐や浄化に村人が困るほどでもない。


 違うことで困る年寄りに、救いの手が差し伸べられた。村はずれの林から更に3匹の魔獣が襲い迫ってきたのだ。戦闘モードに切り替わることで年寄りの面子は保たれた。

 魔物が年寄りに飛びかかる前にと、春香も慌てて縄を投げようとした。だが怪我人が出そうな危ういところで、真の救い主が現れた。馬に乗った男が魔法で『氷の矢』を撃ち放ち、あっという間に魔獣を仕留めたのだ。たちまち3匹は体が霧散し、魔核石だけが残る。

 

「ハルーカ、油断するなといつも言っている」


 馬から降りながら、張りのある落ち着いた大人の諫める声が春香の耳に響いてきた。女だけに分かるイケメンの声である。


「お帰りなさい、グレンさん。無事帰ってきてくれて、良かった」

「皆も相変わらず元気そうだな」

 

 グレンはこの村では珍しい若い30歳前後の男性だった。春香と同じ黒髪に、細身でありながら長身の美丈夫。切れ長の涼やかなグレーの瞳のイケメンである。

 彼は村の誰かの親族ではないが、たまに訪れては、村の警備および王都への配達人のような役割を担っていた。王都へは往復で14日ほどかかり、安全な旅とは言い難いため、体力のない年寄りや女性のために一人で請け負っている。そんなことができるのも、グレンの剣術や魔術がずば抜けて優れており、村人から人柄を信用されているからなのだが。先日から、村の財産となりつつある貴重な魔核石を売り、必要物資を入手するため王都へと出かけていた。

 

「おお、グレン!帰ってきたか、魔核石は売れたか?もう村の貯えも無くなるところじゃ」

「数もあったから結構な金額で売れた。皆に頼まれた薬とかも買えた。手紙も預かっている、後で渡す」

「王都はどうじゃったか?勇者様や聖女様が現れたというのは本当か?孫が手紙で…」

「その勇者や聖女のせいで、お祭り騒ぎだ。大掛かりな魔獣討伐やらを近々行うらしいが…」


 久しぶりのグレンの素敵な姿に声に、いつものようにかなりときめいた。普段、干からびつつあるお年寄りに囲まれているだけに、彼が幻想的な霧の立ち込める美しい湖のように感じて、春香の心が潤う。

 だが、周りはそうはならなかった。


「ギャー!ハルーカ!でかいのがもう一匹出た!」

「こっち、来るぞ!皆、走って逃げろ~!ハアハア…!」

「ダメじゃ、足がもつれて。ゼイゼイ…。ハルーカ、何とかせい!」

 

 もはや春香にとって、彼以外の年寄りの話なんてどうでもいい。アラサー28歳の貴重な乙女の時間を邪魔しないでほしい。おばあちゃん達に鍛えられた『聞き流しスルー』技を発揮し、彼の姿だけに心ときめかせる。それでも彼を見つめながら、背後に放り捨てるように『捕縛魔法』を投げる。…やっと静かになった。

 

 グレンは春香の頭上越しに魔獣を何とか仕留めて魔核石を回収する老人達の様子を確かめ、モジモジしながら頬を染めている春香を再び優しく見つめた。


 長身な彼から見下ろされると、自分が小さくか弱い乙女になった気がしてちょっと嬉しい。ここのところ、男前の青年のような生活だったので。

 春香にとって、グレンは「この異世界に来て良かった」の第一位だった。なぜなら、28歳のこの年まで恋人ができなかった理由第一位、春香が熱烈に恋してきた漫画キャラの『いつき君』そのものにグレンは見えるからだ。いや、黒い学ランの似合う永遠の高校生だった爽やかな樹君が、20代の大人の男性に成人したようにしか見えなかった。

 家族がいなくて独りぼっちの春香の慰め、異世界で夢にまでみた憧れの恋しい君に会えたのだ、それ以外に異世界に来た理由なんて考えたくなかった。


 ふと、グレンは荷物をゴソゴソ探って、春香にキラリと光る小さな何かを投げて寄越した。受け止めてみると、それは小さな髪飾りだった。装飾に小さな石も付いている。自分のためだけにこんな女性らしいお土産を買ってきてくれたのかと思うと、嬉しくて春香は天へと舞い上がりそうになった。顔が紅くなっているのは分かっている。

 

「私にこんな素敵なものを…!本当にもらっていいんですか?ありがとうございます。大事にします、大事にします!さっそく着けさせてもらいますね。一生の宝です」

「そんな大した物じゃない、遠慮するな。ハルーカは俺がいない間も頑張ってるからな」


 労わりに満ちた理知的で静かな微笑みに顔が熱くなる。グレンがまさしく春香の『樹君』と同じに思える。彼は漫画の中では主人公ではなく、単純で明るく元気な主人公を表裏に支えるサポートキャラだった。イケメンが主人公を守るために行動する姿が一途で素敵だった。

 

 その夜、グレンが帰ってきたことで村は宴会になった。自給自足が基本のノンタ村だが、年寄り全員に必要な薬や加工品など、王都にしかない物もある。そういった物をグレンが買ってきてくれて、嬉しいらしい。更には出掛けついでの上等な酒に皆満足して盛り上がっている。


 春香もさりげなく『会社員のお近付き技:お酌』などして、グレンの傍に行きたかった。しかし、ここでは50~60年前に乙女だった人達が、グレンを囲い込む形で自慢料理を盛った皿を勧め、分厚い壁となって邪魔していた。ここのおばあちゃん達も、皆、若い美形がお好みなのだ。老人を嫌がらず、優しく接するグレンに可愛くはしゃいでいる。

 

 宴会もお開きになりそうな頃、ふいに、そろそろここを出なければならない、と酒を飲みつつポツリと呟いたグレンに言葉に、賑やかにしゃべっていた年寄り達が押し黙った。春香に至っては一瞬で石になり、見つめるだけで舞い上がっていた天上から海の底へと沈んでいく気分になった。あの髪飾りは旅立つ前のお別れの記念品だったのかもしれない。ますます深海の底へ沈む。


「今回の王都行きで、状況が変わったことを実感した。王や側近達は、魔獣討伐を口実に勇者や聖女を早々に動かすつもりのようだ。大きな戦になるだろう。俺も戦うことになる。さんざん世話になっていて心苦しいが、俺は村に、皆に感謝している。早々にこの村を出るつもりだ」

「まだ、早いと思うが…。冬を越えたばかりじゃ、もっと暖かくなってからでは?勇者や聖女だって、魔獣討伐の前にまず魔獣との戦いに慣れる期間が必要じゃろう?」


 村長は引き止めようとするが、グレンの決心は固い。そんなグレンが春香の傍にきて片膝をつき、春香を見上げた。しっかりと目を合わせて、みんなの前で告げた。自分に付いて来てほしいと。両手を差し出し、春香の返事を待つ。

 

 深海の底から木星軌道まで、一気に春香の心は舞い上がった。あまりの唐突さに心臓は破裂しているかもしれない。椅子から転げ落ちそうなところを、おばあちゃん達が何か言いながら体を支えてくれている。自分は今、死んだのかもしれない、と春香は思った。

 

「死んでも、付いて行きます!」


 そう言って彼の両手を握った。こんなにたくさんの人の前で、嬉しいけど恥ずかしい!とモジモジして彼を見上げる。グレンも満足げに微笑んでいた。気のせいか、グレンの真剣な眼差しが、漫画キャラの爽やか『樹君』ではない、頭から齧りつこうとでもするような捕食の輝きを帯びたような気がした。


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