Fate will not be changed.
『ミアの髪が羨ましいな。』
隣に座る、少女が、ポツンと呟いた。
『わたしの髪は、おばあちゃんみたいなんだもん』
拗ねたように、自分の髪をつかむ、少女に、あのときの幼いオレは、何も言えなかった…
××××
「……リアーナ・ラ・タクフィール!お前との婚約を破棄させてもらう‼」
きれいな白銀の髪の少女を前に、オレ、ヴィレイン・ウィ・アルレリオンは、高らかに宣言した。
え……オレは何をいってるんだ?
目の前の少女は、ひとつも瞳を揺るがせず、じっとオレを見つめていた。
その間も、オレであって、オレでない声が会場に響く。
「お前は、実妹であるミアーリア・ラ・タクフィールに、数多くの嫌がらせを行っただろう⁉」
違う。彼女はしてない。彼女がしてないのを知っているのに…何をいってるんだ⁉オレは……!
彼女は、妹を大切にしてるのに。
「お止めください‼レイン様!姉は悪くないのです。私が、わたしが…」
その時、隣にもう一人女がいることを知った。
赤茶の少女らしい髪色のツインテールの少女。
コレハダレダ?
「ミア、かばわなくていいんだ。確かに君は、嫌がらせを受けていたのだから!その犯人が、君の姉だと……いいや、姉と呼ぶことすらしなくてもいいぐらいの‼あれが、実妹にやる仕打ちか⁉」
オレハナニヲイッテイル?
「いぇ……確かに、色々と嫌がらせがありましたが、それがお姉さまの仕業だとは……」
その時見てしまった。
しおらしくそういう、彼女の口許に、一瞬笑みが浮かんだことに。
まさに、姉がはめられたことに喜んでいるかのように
「……………………分かりました。」
オレが、オレと女の茶番を繰り広げていたとき、小さいが輪とした声が聞こえた。
「それが貴方の解答なのですね。」
「そうだ!」
違う!違うんだ!
本当に伝えたい言葉は、喉に張り付いて出ず、言いたくない言葉が、口から飛び出る。
彼女は、一瞬悲しげにか貌を揺らした。
が、一瞬で笑みを張り付け、膝まついた。
「わたくしは、国に、強いては、いずれ王となられる貴方に従うのみ。見に余るお言葉と共に、身を引きましょう。」
そう言って立ち上がると、すたすたと歩き去っていった。
背中に揺れる白銀の髪。
彼女が振り返ることはなかった。
もう二度と
もう二度と、合うこともできない……
その日の晩、彼女が自分の屋敷から、姿を消したと報せが来た。
たった一人で、出奔したみたいである。
その次の日。
彼女に忠誠を誓っていた、騎士も姿を消したらしい。
どれも、あの女が伝えてきたのである。
「お姉さまは、あの騎士のことだけを信頼していたのですよ。」
そう告げられたときは、心が引き裂かれそうになった。
しかし、考えてみればそうであった。
皇太子の婚約者で、息の抜けない日々を送っていた彼女にとって、幼い頃からいる騎士に信頼を示すのは当然のことであろう。
最初っから、彼女の瞳は、オレに向けられていなかったのだから。
××××
数年数十年と月日が流れ
オレは、王となり、結婚し、子をなした。
あのときいた、女とは、一緒になることはなかった。
あとから、いろいろな事実が発覚したためであった。
やはり、彼女は冤罪であった。
新たな婚約者となった娘は、彼女の親友で、あった瞬間に殴られたが、今ではよい夫婦関係を築けていると思う。
そして、あの日の記憶も薄れそうになったとき、また、報せが来た。
「リアーナ・ラ・タクフィールが見つかりました。」
市井の町で、騎士と二人で暮らしているらしい。
「どうしますか?」
と、幼い頃からの側近が問うてきた。
「一目でいいから会いたい」
そう言うと、側近は、すぐさま城に召喚しようとした。
それを必死にとめ、お忍びで彼女を見に行った。
妻は、行きたがっていたが、置いていくことにした。
彼女は……幸せそうだった。
小さな花屋を開いて、楽しそうに客と話して、かつての貴族の顔は何処にもなかった。
あの騎士が、静かに後ろに控え、彼女を見守っていた。
ふと、彼女が振り向き、騎士に何か言った。
騎士は、さらに笑みを深くして、彼女の髪を撫でた。
彼女は、照れ臭そうに、貌を赤らめながら、俯いた。
近くを通ったものに聞くと、二十年ほど前から、あの場所で花屋を開いてる若夫婦と教えてくれた。
奥さんは、三十路に入るのに、若々しくて、旦那さんも、昔騎士紛いなことをしていたらしい。とまで教えてくれた。
更々と騎士の手で揺れる白銀の髪……
伸ばしても、触れることができなかった、あの髪。
『ミアの髪が羨ましいな。わたしの髪は、おばあちゃんみたいなんだもん。』
そういった彼女に……一言でも返せば、運命は変わっていたのだろうか?
オレは、あの日の彼女みたいに、後ろを向き、城に戻った。
______Fate will not be changed.
(運命が変わることはない。)
キャラクター紹介
ヴィレイン・ウィ・アルレリオン……王国の皇太子。後の王。
リアーナ・ラ・タクフィール……悪役とされ、国から出奔した後、花屋を営む。
ミアーリア・ラ・タクフィール……リアーナの妹。ヴィレインの后の座に座ろうとするが、様々なことから断念した。
騎士……リアーナに幼少期から側にいた青年。
本名は、アルホォンス・ラーザ。後に花屋の主人兼リアーナの夫になる。
妻……リアーナの親友だった女性。
ヴィレインを支えている。
本名は、レティシア・ウル・アガルイン。
こんな感じです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。