第3話 盗賊だ!
馬車は山に向かって走っていく。馬車はかなり揺れるが、俺は生まれてこの方、乗り物で酔ったことは無い。
思い返してみれば唯一洸大に勝っていたことかもしれない。
勝っているのがそんな事だけとかショボ過ぎるけどね。
そういえばこの旅には3人の護衛(という名の旅仲間)がいる。
歳は皆自分より少し年上の20歳程。
女性2人に男性1人、全員貴族の出っぽい。もしかして、あわよくばとりいって王族に近付こうっていう魂胆か?それにしても異世界召喚物にでてくる貴族もそうだけどなんでこんなにも美形ばかりなんだろう。地球にいったら即モデル採用だよ、まったく。
「あの、土屋様は魔王に匹敵する基本値をお持ちと聞いたのですが本当なのですか?」
ロガリオのやつ...喋りやがったか...?いや、あれだけ大きい声で叫んでたんだ。誰かが聞いてても不思議じゃないか...はぁ、脇役でちまちま生きたかったんだが...
「えぇ、ただ魔法にはまだ慣れてなくてぜんぜん威力とかはないんですけどね」
自嘲気味に笑ってみせる。こんなところで調子に乗ってもいいことないし。むしろ目立って大変なことになるし。
「ま、魔法覚えたての勇者は毎回そんな事言うらしいぜ。そんな事言ってても2週間もすれば敵無しの強さになっちまうけどな。ハハハッ」
隣に座っている護衛(男)が笑いながら話す。
そういえば名前を聞いていなかったか...
「すいませんが、みなさんの名前を教えてもらえませんか?本当は出発前に聞こうと思っていたのですが...」
嘘だ。出発前はこの先に出てくる魔物の事しか考えてなかった。
異世界ファンタジーと言ったら魔物狩りにちょっとだけ興味がある。
「じゃあ、まず私から。メイティ・ド・リビンズと申します。リビンズ公爵家の長女で火属性が得意です。雷属性魔法も普通に使えますわ。メイティって気軽に呼んでくださいな。」
か、かわいい。それに公爵か...公爵!?
公爵って貴族の中でもトップじゃなかったか...?
「次は私ね。私はリネード・フォン・シュルツ。シュルツ侯爵家の次女で水魔法が得意なの。流石にあの水谷様程ではないけれど、治癒魔法も使えますので、宜しくお願いしますね!」
あざといなぁ。どっちもなんか企んでそうな顔してるんだよね...
まぁ、好意を向けられて悪い気はしないし、手は出さない方向で。
「最後は俺だ!エルバート・ディア・エルノス!エルノス男爵家長男だ。生まれつき力が強くてな。先日行われたコロシアムの決闘大会でも優勝した。剣と盾で前衛をやる!勇者との連携の参考になれればいいと思っている。よろしく頼む!」
おぉ、なんか凄い奴。男爵だけど一番頼りになりそうだな。
話し方もメイティやリネと違って親密さを感じる。
「ちょっとエルバートさん?その話し方は土屋様に失礼ではありませんか?」
「そうですわよ。土の勇者様相手にそんな話し方では、失礼ですわ。」
「いや、リネさん、メイティさん。僕はもっと普通に喋ってくれた方が話しやすい...かな?あと、勇者じゃないよ!?」
そうだ、俺は勇者ではない。断じて。
「わかりましたわ。なるべく普通の話し方に近づけるよう善処します......わ。」
「あぁ、無理にタメ口にしたりとかはしなくていいからね?自分のペースで...『止まれ!盗賊だ!有り金と荷物全部下ろしてもらおうか!?』......は?」
馬車の外からかなり大きい声で『盗賊だ!』とか聞こえたぞ...
ちょっと拝見......
おおぅ、ざっと見た感じ20人ぐらいに囲まれてるな...
「いい機会ですわ。土の魔道士様が悪い盗賊を倒したとなればこれから行くガルム土国でも良い噂がいっぱい広がるでしょう!」
いや、根も葉もない噂が広がっても困るんだけどね...
「よし、手を出してはいけない相手に手を出したことを後悔させてやろうぜ!」
「はい!」
ーーー
「初めまして、盗賊の皆様方。僕の名前は土屋 俊太。この度の勇者召喚でおまけで召喚された土の魔道士です。証拠はこちらの"ガイアの杖"。ここで引くのなら深追いはしません。さぁ、戦うかどうか決めてください」
ふふふ、盗賊共め、呆気に取られているな。ちなみにガイアの杖は最初に王様に渡されたあの杖の正式名称だ。火野の杖は"アポロンの杖"、水谷のは"ネプチューンの杖"らしい。ネプチューンの杖とか...海割れそう。
それはさておき、こういう時は逆上して襲いかかってくると相場が決まっている。
「ふ、ふざけんな!ハッタリかましてんじゃねぇ!それに本物だとしてもつい最近召喚されたばかりの勇者のおまけ如きが平均レベル30の俺達に勝てるとでも思ったか!?その杖奪って売っ払えば一生遊んで暮らせるぜ!全員こいつをぶっ殺しちまえ!」
やっぱりか。まず杖売ったらその時点で捕まるだろうに......さすが盗賊。例に漏れずアホだな。
とりあえず馬車の中で読んだC級の魔法を1発打ってみよう。
「なら、容赦はしない!
『地よ!我が呼び声に応え、仮初の命を持って我を守護せよ!』
"土魔人精製!"」
呪文を詠唱し始めると、あたりの動きが鈍くなる。思考速度が上がっているのか?でも、なのに詠唱は普通の速度で言えるからなんか不思議だね。
とりあえずイメージ!ドラ〇エのゴーレムだ。アレをイメージ。
材質はこの辺の岩で。
よし、いける。ここで魔力を込める!
「はぁ!」
ボコボコボコボコボコッ
「うわぁああああっ!じ、地面が!地面が剥がれる!!?」
「に、逃げろ!あれはやばい!こんなのかてるわけがない!」
「ぜ、全員退避!」
10mくらいの超巨大なサイズのゴーレムができた。まんまド〇クエのゴーレムだ。大きさ以外。
考えてみれば自分の土属性の適正はチートレベルだった。イメージも元の世界で何度もも見てるから、より鮮明になってるし。
このサイズになっても不思議じゃないか。
ただ盗賊が逃げるのはいただけないなぁ。人を殺す覚悟があるなら、ゴーレムに握りつぶされても文句は言えないよね?
「ゴーレム!あいつらを捕らえろ!」
ゴーレムが動く。その手の大きさは1.5m程。
ただ、動きが遅すぎて盗賊は散り散りに逃げていく。
ゴーレムの手が空を切って地面をえぐる...かと思いきや、ゴーレムの手が地面に触れ、地面が波打ち、盗賊の足が救われる。
スドン!ゴーレムが足を思い切り地面に落とすだけで地震が起き、盗賊が吹き飛ぶ。
まぁ、このぐらいで勘弁してやるか。
『地よ!大地の鎖の力で敵を捉えよ!"アースバインド"』
C級魔法2つめ、束縛系の魔法。
これで盗賊を全員地面にくくりつけた。とても固く普通の人間じゃまず破壊はできない。全員順番に回収するとしますか。
とりあえず...魔法のいい練習台になってくれた盗賊には感謝だね!
「俺(私)達の出番は?」
あ、忘れてた
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