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第16話

将来さきを見通すことのできる三峰は、

当時から「ロボット工業の発展はあくまで少子化する日本のマンパワーの補助」であって

「兵器開発にならないように」と警鐘を鳴らしていた。


専門職ではない俺にとって、開発など出来るわけもなく、

そんなこと心配するなと、無関係を主張したものだった。

そんな俺の無知を益々心配した様子で、

今や、一般家電とも言えるカーナビも携帯位置情報を活用した電子地図も、

もとを正せば軍事用技術なのだと熱っぽく語っていた三峰の気持ちを

もっと深刻に受け止めるべきだったと今なら言える。


けれど、その当時の俺にしてみれば、

想像もしていなかった技術をもつロボットが存在し、

現に世界規模で売買されていることを知って興奮していたのだろう。

鉄腕アトムも夢では無いと、半ば子どものような気持ちで

尽きない興味に突き動かされるように

クライエントのオーダーに応える技術開発の調整役コーディネーター

ただただ遂行するだけだった。


顧客を獲得できれば、如実に給料が上がる。

こんなにわかりやすい褒賞システムは無いだろう。


ゲームのポイントを稼ぐように、

世界各国にある企業と交渉し、契約を取り付ける。

特許取得にも繋がる技術の売買には、

想像を超える金額が動いた。


俺はこの仕事にのめりこんでいった。


その技術が、この先何に使われるのかを考えるよりも、

目先のターゲットを掴まえることだけを考えていた。

自ら何かを生み出しているわけでもないのに、

巨額の取引を担うことで、

自分が何者なのかを取り違えはじめたのだ。


そう、あの頃の俺は傲慢な人間だった。


「ご乗車ありがとうございました。

 お忘れ物の無いよう、お気をつけください」


降車駅に到着したことを知らせる女声のアナウンスで我にかえった。


いけない。乗り過ごすところだった…


幾度となく振り返ったところで、

俺が犯した罪は変わらない。


三峰

お前は、今、どこで何をしているんだ?

生きて・・・せめて、生きていることだけでも、教えてくれないか・・・




「行ってきます」


千恵美は、ハイヒールのアンクルストラップを留め、

そそくさと外出しようとした。


「どこに行くの?」


慌てたようにパタパタとスリッパの音を立て

母親がエプロン姿のまま、やって来た。

その声には、神経質な響きが含まれている。


「どこって、もう昨日の夜、言ったじゃない。

 友達と、ちょっと出かけてくるって」


「それは聞いたけれど、

 どこに行くのか、場所は言っていなかったでしょ?

 それに、何よ、その格好。

 遊びに行くような服装じゃないでしょう?

 まるで、パーティーに行くみたいな・・・」


母親の鋭さと細かさに、内心で舌を巻きながら、


「たまにはさ、おしゃれしてご飯食べたいねって、

 だから、ホテルのランチに行くのよ。


 それに、インスタに上げるからって、

 ちょっと、いつもよりドレスアップしようって。

 そういうことなの。


 もう時間だから、行くね」


「ちょっと待ちなさい。

 誰と行くの?

 何時に帰るの?」


「大学の友達よ。

 門限までには帰ります。

 

 もう遅刻するから。じゃ」


予測していたとはいえ、

この母とのいつものやりとりに辟易しながら

千恵美は背中で玄関のドアを閉めた。


何でも知らないと気がすまない母の性格は病気じゃないかと思う。

これで、彼氏と旅行だなんて言ったら、

気が狂うんじゃないかとも。


二十歳になっても一人前に扱われないのは

親と同居しているから。

就職するまでの我慢だけれど、就職したらさっさと家を出よう。


千恵美はこころに固く誓い、駅へ向かった。


指定されたホテルは、六本木にある都内でも有数の高級ホテルだった。

大安吉日ともあって、数組が結婚式を行うようだ。

ホテルのロビーは黒いスーツやタキシードの男性と

ピンクやグリーンのパステルカラーの女性が入り混じり、

独特の熱気に包まれていた。


さて、会場は・・・


千恵美は案内状を再度確認するため、

ハンドバックから封筒を取り出した。


2階、コリアンダー


よくわからないけれど、各部屋にハーブの名前をつけているらしい。

とにかく、スタイリッシュだけれど高そうな内装を見ながら、

千恵美は自分の将来の式場として、値踏みしていた。


会場までのアクセスもいいし、

やっぱり、これって相当かかるよね。

旦那さまには、やっぱり稼いでもらわないと・・・


「あいたっ」


「失礼!」


千恵美の肩に男性の肘が当たり、その反動で、バランスを崩した。

慣れないハイヒールは、想像以上に衝撃に弱い。


「大丈夫ですか?」


よろけた彼女の腕をしっかりと掴み、覗いたその顔は、まだ若かった。

千恵美と同じくらいだろうか。


「いえ、すみません。

 つい立ち止まってしまった私も悪いんです」


千恵美は、ゆっくりと姿勢を立て直し、

彼は手をほどいた。


「どちらの会場に行かれますか?」


「コリアンダーです」


「あ、じゃあ、僕と一緒だ。

 よければ、ご一緒しましょう」


こういう場に慣れているかのような落ち着きと

爽やかな笑顔で彼女を誘う。


童顔なだけで、結構、年上なのかな・・・


千恵美は、頷くと、彼と一緒に会場に向かった。


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