プロローグ
500年前。その日、世界にとって喜ばしく記念すべきことが起こった。
100年と続いた魔王の脅威に人族が勝ったのだ。
凄まじい殺気と轟音、玉座の間では激しい戦闘が繰り広げられていた。いや、激しい戦闘の末、玉座の間とは言えないほどその空間は崩れていた。
しかし、戦闘の痕跡とは裏腹に窓があったと思われる場所からは蔓がのび、高価なものであっただろう装飾品には劣化した跡が見られる。
キィイン__________
魔王の闇より作られし魔剣と勇者の剣である聖剣エクスカリバーが火花を散らして交じり合う。両者の距離が両者の額に薄らと浮かぶ汗が見えるほど近くなる。
エクスカリバーの聖なる光に魔王は忌々しいと顔を歪ませた。すぐさま小競り合いに終止符をうち、勇者から距離を取ると隙を与えず魔法を放った。力に耐え切れず勇者は吹っ飛んだ。
「勇者!貴様の力はそんなものか!」
顔を歪ませながらも魔を統べる王の声に相応しい堂々たる声が響き渡り、勇者たちを圧迫する。
「シリウス!しっかり!」
勇者に魔法使いが駆け寄り治癒魔法をかける。
ぐらつく体を剣で支え、魔王は何かを呟いた。
「はぁああああ!!」
しかし、言い終わる間も無く剣士が素早く魔王へ剣を振りかざす。
「ちっ、」
不意を突かれた魔王はとっさにマントで剣士の視界を覆い、魔剣を地面から抜き去る。
「貴様では相手にならんわ!」
一振りで終わらせるつもりで振りかざしたその剣は剣士によって止められてしまう。
「なっ、」
「見くびるなぁぁあああ」
闇を含ませたその攻撃は、どうやら剣士の魔法によって力が半減されていたようだ。半減されたと言っても、人が耐えられるような威力ではない。反動で地面は歪み、皮膚が裂ける。
魔王はそんな剣士を鼻で笑い力任せに剣士を吹っ飛ばした。ゴロゴロと回転しながら嫌な音を立てて地面に体を叩きつけられる。
「がっ、ご…っ!」
「リーベ!」
魔法使いは剣士の名前を叫んだ。剣士は痛みに耐えるように体を丸める。意識はあるようだ。
このままではいけないと魔法使いは立ち上がり魔王と対峙する。
「っ…」
震える手を前にかざし、戦闘態勢に入る。しかし、その瞳は揺れていた。激闘の末、高位の魔法を使い過ぎた彼女の魔力はもうほとんど残っていないのだ。魔法使いは自分の無力さに負ける恐怖を感じ唇を噛みしめた。
「所詮は小娘か」
魔王は笑い捨てた。その笑いが追い打ちをかけるように魔法使いを責め立てる。
「……落ち着け、セシル。確実に魔王は弱ってる…っ」
「…その通り…ですっ。…セシルならっ…でき…ますっ…」
その時、まだ負けてないと、お前ならやれると、彼らの瞳に言葉に私は背中をおされた。
「っ!」
魔王は息を噛み殺した。
それを境に空気がより重くなった。魔王が更に強い殺気で圧力をかけてきたのだ。人を殺せそうな眼力で勇者たちを見据え、苛立った様子で乱暴に炎の上級魔法を放った。
「させないっ!」
そう言いはなつ魔法使いの瞳に迷いはなかった。炎とは相容れない水の上級魔法を放つ。自分を高めるように声を荒げ魔法使いは一気に威力を強めた。
「ぐっ」
明らかに魔王は押されていた。魔王が顔を歪ませたその時、内部爆発を起こしたかのように口から鮮明な黒い血が飛び散った。一瞬のうちにして威力は削がれ、いきなり抵抗を失った水は炎を飲み込んだ。防ぎきれたと、もう限界だと、魔法使いはその場に崩れた。その瞬間、司令塔を失った水は無残にも降りかかる。しかし、魔法使いがその波に流されることはなかった。
「ありがとな、セシル…っ。あとは、まかせろ」
勇者に支えられた魔法使いは安心して目を閉じた。優しく魔法使いを寝かせると勇者は魔王を見据えた。魔王は倒れておらず、その視線に答えるようにあの眼力で勇者を睨んでいた。しかし、肩で呼吸するほど呼吸が乱れている。
「リーベ!」
「はっ…い!」
剣士に声をかけるのと同時に走り出す。剣士も重たい体に、鞭を打ち魔王へと走り出した。魔王から放たれる魔法を避け、勇者の刃が魔王に届く。魔王の血がまた中を舞う。
明らかにさっきより動きが鈍い。ここぞとばかりに畳み掛けていく。剣士の一撃が魔王の頬をかすめた。魔王は懐がガラ空きになった剣士に魔法を打ち付け吹き飛ばす。
勇者の剣を止めていた魔剣から重みが消える。次の勇者の一手を受け止めようとしたその時、眩しい光が視界を覆った。
勇者が光の魔法を打ち出したのだ。
気づけば魔王は勇者の操るエクスカリバーによって心臓を一突きにされていた。声を上げることなく生き絶えその場に崩れ落ちる。
剣のぶつかり合う音は消え、玉座の間には荒い息遣いだけが響いていた。
「や、やったのか…?」
剣士が呟く。勇者は答えない。
「…おい、どうした…?」
勇者は驚愕な顔をし、剣士を見返した。口を開きかけた瞬間。
ゴゴゴゴゴゴゴォォオオオオオオ____________
激しい揺れと共に轟音が鳴り響いた。
その後のことはよく覚えていない。崩れる城から脱出するのに頭がいっぱいだったんだ。
でも、凄まじい轟音と共に誰かの叫び声が聞こえた気がした。
その日を境に世界は変わっていった。
世界には活気が溢れ、自然は世界に恵みを与え、魔物は静かになった。
そしてその繁栄はのちに500年も続き、
この戦いは世界の誰もが望んだ【約束の日】と呼ばれ、硬く鮮明に歴史に刻まれたのである。
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