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ロスト・カノンの熾天使  作者: 紗雪
プロローグ
4/47

プロローグ #4

2016/9/4 修正

 

「遅れて申し訳ありません、リーゼ=マーキュリウム=ミスラ王女殿下」

 リーリヤは狭い地下室の中を、リーゼに数歩近づいて挨拶した。

「殿下をお迎えに参りました」

「お迎え? 其方は何を言っているんだ? ……私を連れ戻しに来たのだろう?」

「ご安心を。殿下がこの宮殿から逃げるのなら、そのお手伝いをして差し上げましょうと申しあげているのです」

 リーリヤが言葉の裏に何かしら隠しているとリーゼは感じ取った。彼女がただ自分のために危険を冒すのか、とリーゼは訝しんだ。

「どうして、私がここにいると分かった?」

「アーデルハイト殿下です。私は、ハーデルハイト殿下に頼まれて、殿下が無事にここにいらっしゃるのを見届けに来たのです」

「そうだったのか。……ありがとう、感謝する。アーデルハイトによろしく……」

 不安を残しつつもリーゼはリーリヤに背を向けた。しかし、不安を現実のものにする言葉が彼女の口からこぼれた。

「そうは、いきません」

 振り返った時にはリーリヤの背中から黒い茨が湧き出し、幾重にもリーゼの腕に絡みつき、リーゼの両手両足を拘束した。何重にも巻かれた茨は、いくらリーゼが力を加えようと引きちぎることはできなかった。

 茨の先、棘の生えていない初な先端が、震えるリーゼの頬をそっと撫でた。

「もちろん、このまま貴方を見逃してあなた方姉妹との友情を示すことも、殿下を差し出して国に対する私の忠誠を示すことも出来る」

 リーリヤは笑みを消してリーゼに臨んでいた。

「……貴女は、一体、何をしたいのだ?」

「このミスラ王家の至宝であり秘宝……、“銀の心臓”について何かご存じではありませんか? 私がどうするかは、殿下のお答え次第です」

 彼女に選択権を握られるのは、今のリーゼの身の上では仕方のないことであった。

「……『銀の心臓』? 聞いたことがない……」

「仮にも、国王陛下の第一子である殿下が、ご存じないと言うことはありえませんわ。ミスラ王家の栄華と不可分と言っていい、あの宝玉の在処を……」

 リーゼは首を振った。

「本当に、私は何も知らない。……そんなものがあったとして、そんなものに手を出せば、逆賊の誹りは免れないぞ」

「少なくとも、今逆賊なのは殿下の方です……まあ、そうそう教えられるわけありませんわね、ええ、国の秘宝ですもの……」

 リーリヤはリーゼの体に茨を這わせて拘束しつつも、それ以上言葉は発しなかった。もしリーゼの無実が証明されれば、リーリヤの言動次第で今の二人の立場がひっくり返ることもあり得る。リーリヤはその境界を計っているようにも見えた。

 しばらくの沈黙の後、リーゼが口を開いた。

「なぜ、その、『銀の心臓』なんていうものを探しているのだ……? こんなやり方をするのだから、何かやましいことでもあるのか? そうでないなら、協力出来ることもあるかもしれない」

「殿下には知る必要の無いことです……。ですが……一つだけ、貴方のように、この国を裏切るつもりはありません」

 リーリヤは憎しみのこもったような目を向けつつ言った。

  「私は何もしていない。……だから離してくれないか?」

  互いに出方を窺っていると、リーゼの背中を茨と押さえつけていた壁の感触が突然消えた。

 リーゼはそのまま消えた壁のほうに背中から倒れこんでいった。

 その壁は、リーゼが開けようとしていた隠し扉がある壁だ。これが消えたということは、誰かが隠し扉を開けたのだ。

 リーゼは、背中をその誰かに抱き止められた。

「あら、貴方は……」

 リーリヤが少々驚いてその人物をみていた。リーゼも振り返ってその顔を見た。

「ユリベート、其方か……」

 ユリベートの登場で少なからず安堵したリーゼは、彼に自分の体重を預けてしまった。同時に、リーゼを拘束していた茨は光の粒となって消えていった。

 視界の端に、リーリヤが魔方陣を展開し、中心から赤い光が放たれる光景が映った。ユリベートはリーゼを抱えたまま、手を動かさずに魔法陣を展開し、魔力の盾としてリーリヤの攻撃を防いだ。

 その衝突がやんだところで、リーゼは口を開いた。

「どうしてここに?」

「殿下があまりに遅かったので、不安になって参上した次第です」

 彼の登場をみて、リーリヤの顔に笑みが戻った。

「ユリベート、貴方でしたか……」

  「リーリヤ・ヴィ・ローザンヌ、貴方の役目は、殿下の無事を確認し、この扉を――今私が通って来た――開けるのを補助することのはずです。それが一体、殿下に何をなさるつもりだったのですか」

 リーリヤは首を振った。

「殿下がすぐに答えてくれればよかったのですけれど」

「だから、何も知らないと言っているじゃないか……」 

 事態が良く呑み込めていないユリベートは、リーゼに、早く逃げましょう、と促した。

 その声が耳に入ったリーリヤは、

「いいでしょう、殿下、行ってください。アーデルハイト殿下のためにも、どうかご無事で……」

 と態度を翻した。

 リーゼは彼女のふるまいの変化に戸惑いつつ、

「……ありがとう、アーデルハイトにもそう伝えてくれないか?」

 とリーリヤに言った。リーリヤは頷き、

「ええ、喜んで」

 と応えた。

 リーゼはここから立ち去るべくリーリヤに背を向けた。背後にいるリーリヤが気になっていたが、気を利かせたユリベートがリーゼの背後に、リーリヤとの間に入る形で立った。

 ここから脱出するためには、先ほどユリベートが通って来た、今リーゼの目の前にある魔法の扉を開く必要があった。この魔法の扉の鍵を開けるためにリーリヤが呼ばれたと言うだけあって、、解錠するのにリーゼは意外と手間取ってしまった。 

「私とユリベートの分を、『登録』とするのか?」

「はい」

 と、先ほどその扉を開いたユリベートに教わりつつ解錠作業を進めていた。その間後ろにいるリーリヤの表情は見えなかったが、彼女はただ立ってリーゼ達の方を見ているようだった。

 最終的に扉は開いた。現象としては壁が消えたというのが正しいだろう。

 リーゼとユリベートが扉をくぐった。最後にもう一度だけリーリヤを様子を確認しておこうと振り向いたが、すでに壁が復活し、向こうが見えなくなっていた。

 思えば、先程ユリベートが開けたあと、気が付いた時には扉が閉じていた。

「これでもう、向こうからは誰も追って来ません……。先を急ぎましょう。」

 ユリベートの持ってきた明かりを頼りに、二人は一直線に続く回廊の奥へと進んだ。

「殿下、リーリヤ・ヴィ・ローザンヌ……彼女と一体何があったのですか?」

「リーリヤは、“銀の心臓”の在り処がどうとか、それを探していると言っていた……。其方、何か知っているか?」

 ユリベートは少し首を捻って、

「“銀の心臓”……ですか? ……いえ、そのようなものは耳にしたことがありません」

 と答えた。

「そうか……」

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