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第2章 #13

 イルメラに連れていかれたのは、以前“銀の心臓”について調べるためにやって来た地下室であった。

「“銀の心臓”の力をお使いになったようなので、今一度“銀の心臓”の状態を調べさせてください」

「前にもここで何かを調べていましたが、一体、何を調べているのですか? 」

「“銀の心臓”が健全な状態で保たれているかどうかです。悪意を持つ人間に利用されてはいけませんから」

「それは分かっています……。しかし、私にしてみれば寝ている間に何をされているのか分からないので、気味が悪いというか……、怖いというか……」

「お気持ちは理解できます。しかし、これも王国のためでございます。そのために、陛下はこの仕事を私たちに一任してくださったのです」

 その言葉に納得はしなかったが、何と言おうと解放させる気はなさそうであったので、リーゼは仕方なく彼女の言う調査を受け入れた。

 リーゼは冷たい石の台の上に自ら横になった。その間にイルメラは魔術器具を取り出し、それをリーゼの四肢に取り付けた。そして彼女は眠りの魔術を使用した。

 眠りに落ちてゆく意識の中で、次の目覚めが早いことを願った。



 ヨセフが地下室の扉を開くと、魔力灯と魔法陣の光によって暗いはずの部屋は明るく照らされていた。部屋の中央には木のように連なる魔法陣と向き合っているイルメラと

「……ああ、ヨセフ、リーリヤは何と言っていました?」

「言うことを聞く素振りはなかったよ……。やはりザハールのことは諦めていないようだ……。それより、王女を襲って“銀の心臓”を手に入れるつもりだった、と言い出した」

「まさか」

 イルメラはヨセフを嗤うように言った。全く突拍子もない話で、彼の言ったことを全く信じていないようだった。

「いや、どうも本当らしい。それで、ザハールの治療を認めなければそれを公表するかもしれない、と」

「何てことを……! いいえ、とにかく、殿下に聞いてみないことにはわかりません。でも、本当だということになると……。ローザンヌ家が“銀の心臓”の奪取を企図したとみなされるのは避けなければならないですね」

「その通りだ……。そういえば、殿下が逃亡したあの夜、確かにリーリヤが居なくなっていたような……。それで、イルメラ、“銀の心臓”の方はどうだった?」

「……この前再建した術は壊れていました。“銀の心臓”がこちらの入れた術を拒絶しているようです」

「封じ込めの術が完全に機能していたはずの、“銀の心臓”が自身を守る能力が復活している。そのうえでより強固になっている……。やはり、ハイベルク帝国の術者に細工されていたか……」

 ヨセフはリーゼの体の中から展開された術を触り、注意深く観察していた。

「どうします?また再建するのは、無駄になりそうですが」

「もう少し調べたい。だが、とりあえず国王陛下への報告が先だな。王宮での処置になるかもしれない」

「では、もう殿下は起こしてしまいましょうか」

「ああ……。そうだ、リーリヤのことについて、聞いておいてもらえるだろうか。いいかな?」

「構いませんよ」

「頼む」

 そう返事をするとヨセフは足早に去っていった。

「……さて、起きていただきますよ、殿下」

 イルメラは目を閉じたままのリーゼの顔を見ながら調査用の術を解除していった。



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