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ロスト・カノンの熾天使  作者: 紗雪
プロローグ
1/47

プロローグ #1

本作を読んでいただきありがとうございます。

初投稿作です。

感想等お待ちしております。


2016/10/10 微修正

 寒風が吹きすさぶ寂寥な街は静かに夜を迎えようとしていた。日の長い季節ならば、まだ昼間のような明るさだっただろうが、厚い雪雲と日の沈みの早さもあり、ほとんど夜のように暗くなってしまったが、時間的にはまだ夕方だった。すっかり隠れてしまった太陽の代わりに、街の明かりが空をわずかに明るく照らしていた。


 その街の中心に、明かりで照らされひときわ明るく見える大きな建物がそびえたっていた。それがこのミスラ王国の王宮だった。

 今、そこでは王国の第二王女、アーデルハイト=クロム=ミスラの13歳の誕生日の祝いの会が開かれていた。


 その会場内、賑やかな雰囲気の中で、暗い表情で俯いている少女が居た。腰に届きそうなほど長く明るい栗色の髪を結わずにそのまま下ろしているその少女の名は、リーゼ=マーキュリウム=ミスラ。王国の第一王女だった。


「どうかしましたか、リーゼ王女。気分でも悪いのですか?」

 リーゼにそう声を掛けてきたのは、魔術の名家、ローザンヌ家の長女リーリヤだった。彼女はローザンヌ家と言う魔術師の家系の生まれだけあって、このミスラ王国で五指に入るとも言われてる魔術師だ。やはりローザンヌの血を受け継いでいるだけのことはある。容姿も、流れるような黒髪や、黒真珠のような瞳、精巧に作られた人形のような顔立ちと文句なしだった。

「さっきから少し……」

 そう言っているリーゼの顔は青白くなっていた。

「一度お休みになってはどう?」

「そうだな……そうしよう」

「そうですか、お大事に。……ゆっくりお休みになってください」

 リーリヤがそう言ってリーゼを見送ると、リーゼは振り返ることなく待機していた侍従に連れられて会場から出て行った。



 リーゼは侍従に連れられて階段を上った。歩くごとに気分が悪くなっていった。長い廊下を渡り、部屋にたどり着く頃には吐き気さえ催し、目の前がほとんど暗くなっていた。寝室の手前の部屋に控えている衛士が何事かと見ていた。寝室に入ると、まずリーゼはベッドに体を横たわらせた。吐き気がする体をうずくまらせていると、ユリベートと言う名の侍従が水を持ってきてくれた。

「いかがですか」

「……大丈夫、少し気分が悪くなっただけ」

「医者を?」

「……休めば、治る……。まさか毒ではないだろうし」

「やはり、今日は無理してご出席なさらなかったほうがよかったのではありませんか?」

「そういうわけにも……。アーデルハイトが、心配する……。……戻れるかな?」

「少しお休みになって、それから判断しましょう」

「分かった。少し休む……」

 そう言って目を閉じると、リーゼは気づかぬうちに眠ってしまった。



 リーゼはアーデルハイトとは異母姉妹であり、リーゼは姉にあたる。それで王位継承順位はリーゼが上だった。だからだろうか、アーデルハイトの母、現王妃からリーゼは嫌われていた。いや、王妃だけではない。その他の上流貴族からも嫌われていた。

 なぜなら、リーゼの母はミスラ王国にとってそれほど価値のある家の出身ではなく、正妻ではなかったからだ。

 そしてなぜリーゼの母が王の側室になれたのかと言えば、単に国王に気に入られたからだった。そして、子になかなか恵まれなかった現王妃より先に身ごもった。そして生まれたのがリーゼだった。現王妃の子、アーデルハイトが生まれたのはそれから一年と少し後のことだった。

 ミスラの王位継承順位を定めた法の中には、正室、側室から生まれたことを区別する項は無かった。かくしてリーゼは第一王女となった。

 しかし、あるとき、リーゼの母は殺されてしまった。そのとき、一緒にいた兵士や侍従も皆殺されたらしい。その中で生き残ったのは、リーゼただ一人だった。どうして殺されなかったかは知らない。何しろ、リーゼはその時のことを覚えてはいなかったのだ。



 リーゼは目を覚ました。あの馬車に酔ったような気持ち悪さは消えうせていた。

 ゆっくりとベッドから起き上がると、椅子に座っていたユリベートと目が合った。

「今、何時だ?」

 ユリベートは机に置かれた時計を見て確認した。

「6時20分程です。……気分はいかがですか」

「ああ、もう大丈夫」

 リーゼはベッドから離れて立ち上がった。

「では、アーデルハイト王女のところへお戻りになりますか?会は七時までのはずです」

「そうしよう、心配しているだろうし……」

 と言いつつリーゼはため息をついた。

「どうかなさいましたか?」

「今日はあの王妃が何も嫌味を言ってこない。どうも嫌な感じがする。何かあるんじゃないかって」

「それはそれは……珍しいことですね」

「これから言われるかと思うと気落ちするよ」

 リーゼは鏡に向かった。あまりに気分が悪かったため、そのままベッドに寝たものだから、自分ながら綺麗だと思っていた明るい栗色の髪が乱れていた。櫛はそこにあったが、いつも髪を梳かしてくれる侍女

 がなぜか今はいなかった。かといって、男に髪を触らせるというのも嫌だったので、リーゼは仕方なく自分で髪を梳いた。髪は整えることができたが、さすがに着替えるのは諦めるしかない。


「では、行こう」

「分かりました」

 ユリベートが扉を開けようとすると、扉を軽く叩く音がした。リーゼの侍女、アンネだった。アンネが言うには、もう一人の侍女、クララは先程から見当たらないという。本当にどこにいったのだろうか。

 彼女に部屋の留守を頼むと、リーゼとユリベートは寝室から出た。衛士が両側に立って控えていた。


 リーゼの付き人はユリベート一人。召使いはクララとアンネの二人。寝室の隣で控えている衛士は五人。アーデルハイトのそれらの人員と比べると明らかに少なかった。これは王妃が赤字体質の王室財政を改善するために、リーゼ関連の王室費を削減しろと言って騒いだ結果である。


 この決定にリーゼは口を挟むことはできない立場であった。リーゼはなんとも思わず決定を受け入れるだけだった。


 これらの人員が少なくて困るということはリーゼには無かった。どちらかと言うと各々の仕事が増える彼らにとって大きな問題だった。しかし衛士の数、これは問題だ。交代を考えると実質二人なのだ。早く誰かに暗殺されろ、ということだろうか。それなら毒殺の方が早いのではないか、とリーゼは思った。当然、それを警戒して口に入れるもの全てに細心の注意を払ってはいたのだが。


 そして、この後毒の不安は現実のものとなった。

 だが、毒を盛られたのはリーゼではなく、妹、アーデルハイトだった。


 すぐに、その実行犯と、指示した人物は捕らえられた。

  実行したそのものの名は、クララ・ベーレ、リーゼの侍女の一人だった。

 そう、指示役として捕らえられたのは、リーゼ=マーキュリウム=ミスラ、彼女だった。

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