第三話『三人のおじs……英雄』
「なるほど。つまり美少女は、気が付いたらいつのまにかあの森で倒れていたのね」
「俺の名前は憂だ」
「しかも軽い記憶喪失で、ここがどこかも、どこから来たのかも分からない。
そうだな?美少女」
「俺の名前は憂だ」
「名前を覚えているだけでも良かったなー、美少女」
「俺の名前は憂だ。あ、それ和了」
「マジかよ!!」
カイルが叫んだ。
ここは宿屋の一階にある酒場みたいな所だ。
ゴリラと騎士団隊長を置いていった俺達は、疲れたという理由で近場の町の宿に泊まる事になった。いや、俺はちっとも疲れてないけどね?
そんでもって、その宿の一階の酒場で俺が何故あの森に居たかを、嘘成分99%で麻雀をやりながら教えてあげた。
なんで麻雀があるのかといいうと、なにやら10年くらい前に、世界を救ったとかいう英雄様がどこからか持って来たらしい。
どこから持って来たかはその英雄しか知らないが、その英雄は世界を救った数日後に行方不明になったから、どこの物か知る方法はもうない。
でも、噂ぐらいはあったりする。
それは、英雄の居た国から持って来ただとか、英雄自身が作ったものだとか。
中には異世界から持って来た、なんてのもある。
………異世界ねぇ…。
その英雄サマはここよりずっと遠くの、東の果ての国から来たらしいけど、正確な名前や場所は誰も知らないんだってよ。
………その英雄、俺が元いた世界出身じゃね…?
どこの国かは分からないけど、なんかそうっぽいよな。
まあ、異世界トリップや異世界転生系の話には、同じ世界出身の奴が、前に世界救ってたとかって話は良くあることだしな。
「ていうか、記憶喪失だけど麻雀のルールは覚えてんのな……」
カイルがそんなことを、ボソリと呟いた。
「言っただろ?軽い記憶喪失だって」
「……ああ、そうだったな…」
まあ、昔、友人と遊んだことがあったからな。少しくらいならできる。
ちなみに、今麻雀をしているのは俺とカイルとクラウスさんとリンドさんだ。
クラウスさんは、例の一番最初に撤退宣言をした茶髪でおっさんな騎士さんで、リンドさんは、アホ二人に正義の鉄槌を喰らわせたクリーム色の髪の騎士さんだ。
え?ウェル?麻雀ハブられて、そこで酔い潰れてるよ?
この酒場に居るのは俺達と数人の客や店主だけだ。他の騎士達はどっかに遊びに行っていて、今はここにはいない。
「そういえば、名前や麻雀のルールの他に覚えている事は無い?例えば身内とか。なにかあれば、家を探すのに協力してあげられるんだけど…」
リンドさんがそんなことを聞いてきた。
優しいねぇ、リンドさんは。でも、どう足掻いても家には帰れないんだよ俺……。
まあ、とりあえず質問には答えておかないとな。
「身内か………姉さんがいたな」
もちろん両親もいるけど。
「ほう、お姉さんがいたのか。どんな外見をしているんだ?」
「こんな美少女の姉なんていうからには、そうとう美人なんだろうなー」
今のは、上からクラウスさんとカイルだ。
あー、今の俺とは血は繋がってないけど……、まあ美人ではあったし、一応間違いではないか…?だが、美少女言うな。
「ああ、美人だぞ?出るとこ出ていて締まるとこ締まったな。背中まで伸ばした黒い髪を持っていて……………………ん?」
姉さんの容姿を説明してたら、何故か三人が絶句した。
目をかっ開き、口を開けて、信じられない物を見た顔をしている。
そして一言。
「「「なん……だと……」」」
某オサレな台詞を言った。
「「「……………」」」
「……………」
沈黙が続いていた。
おかしなことを言った覚えはない。だからどうしてこうなったのかは俺にはわからない。
ていうか、その表情怖いんだけど。(゜Д゜)←こんな感じの絵文字がよく合う顔だよ。
なんでその表情維持し続けてんだよ。もうそれ、開いた口が塞がらないってレベルじゃねえよ。歪んだ顔筋が緩まないって言った方がいいよ。
ここにきてようやく、クラウスさんが喋った。
「ほ、本当に、黒髪なのか…?」
「?ああ、黒髪だ」
続いて、リンドさんが表情を変えずに喋る。こわい。
なんかこう……変にリアルな人の顔したロボットが、顔芸しながら口以外の表情筋を動かさずに喋っているみたいだ。めっちゃこわい。
「目は…?目の色は…?」
「もちろん、黒だぞ?」
「「「………………」」」
また黙っちゃったよ。一体なにがどうおかしいんだよ。黒髪黒目がどうしたっていうんだ?
まさかアレか?黒髪黒目がめちゃくちゃ珍しいとか、闇を象徴していて忌み嫌われてるとか、そんなテンプレな設定でもあるのか?
「なあ、黙ってないでそろそろ教えてくれよ。なにがおかしいんだ?変なことでも言ったのか?俺」
質問したおかげで、三人の表情が戻った。
が、まだその表情は穏やかなものではない。
質問にはリンドさんが答えた。
「………この世界に、黒髪黒目の人間は存在しないのよ」
……やっぱりか。
ていうか、『珍しい』じゃなくて『存在しない』と来ましたか。これは予想外。
「でも、三人だけいたわ。……この世界を救った英雄よ」
………マジかよ。
「ていうか、英雄って三人いたのかよ」
「ああ、見たことのない上質な服を着た人達だった」
いつのまにか酔いから復活したウェルが会話に加わってきた。
「一人一人が理不尽な程強いんだ。ドラゴンを瞬殺できるくらいには。………ああ、ドラゴンっていうのは、かったい鱗で覆われた巨大な図体を持っていて、そりゃまたでかい翼を持っていて、口から炎を吐いたりできる奴だ。あの巨大なゴリラの数十倍は強いな」
ウェルが英雄の強さとドラゴンについて丁寧に説明してくれた。
俺が軽い記憶喪失ってのを聞いていたのか?酔い潰れてたのに良く覚えてられたな……。
それにしても、ドラゴンを瞬殺か……。
…………俺にもできるかな…。
「君とお姉さんは英雄の血筋なのかもしれないな……」
クラウスさんが神妙に呟いた。
たしかに、黒髪黒目が英雄以外に存在しなかったこの世界に、英雄と同じ髪色をした奴が居たら、英雄の血筋の可能性はあるな。
自分と、世界を救ったあの英雄と血が繋がってるかもしれないなんて話、この世界の一般的な人間が聞いたら、なんとも夢のある話だと思うだろうな。
しかし、俺は……
「え?ハハハwwwんなわけあるかwww俺と姉さんは極普通の一般人だぞ?wwwそんな世界を救ったとかゆう英雄と関わりがあるわけ無いじゃないかwww冗談もほどほどにしてくれよwww
だいたい、黒髪黒目なんて俺の居た世k…ゲフンゲフン……。とにかく、俺達は英雄とかと関係ないからwwwwマジでwww」
と、笑いながら全否定するのであった。
一瞬、『俺の居た世界』って言いかけたけど、バレてないよな…?
「そ、そうか?確かに、黒髪黒目というだけで関係あると言うのはおかしいのかもしれないが…。さっきも言った通り、この世界に黒髪黒目の者は存在しない。だから関係無いと言い切ってしまうのは、どうかと思うのだが……」
クラウスさんは俺が全否定した事に少々納得出来ていないようであるが、
「いいんじゃねえの?関係無いもんは関係無いんだろ。もしかしたら知らないだけで、黒髪黒目の奴が大量に住む国だってあるのかもしれねえじゃねえか。
それに、こいつは軽い記憶喪失だって言ってたろ?だったら、少し自分の中の姉の人物像が変わっちまってる可能性だってあるだろ」
「む、むう…。まあいいか…。難しいことは考えないに限るしな」
カイルが俺の意見を肯定してくれた為、クラウスさんは考えるのをやめたようだ。
これにはカイルに感謝しないとな。正直、英雄の血筋なんて肩書きいらねえし。
あったらどうせ面倒事に巻き込まれるだろ。んなもん無い方がいい。
それに、英雄と関係がないのは事実だしな。
と、ここでウェルが俺達にあることを聞いてきた。
「ところで、誰かそろそろ麻雀変わってくれね?」
「「「「断る」」」」
ところ変わって宿屋の二階にある部屋。
俺に割り当てられた部屋だ。その部屋にあるベッドに俺はなんかすることもなく座っている。
普通だったら部屋を取るのに金がかかるが、騎士達に払ってもらった。
……いや、俺から頼み込んだ訳じゃないぞ?
いつの間にか一緒に町に行くことになって、いつの間にか宿屋に泊まることになって、いつの間にか部屋が割り当てられていたんだよ。
別に美少女の魅力をフル活用して払ってもらったとか、無いからな?
……それにしても、暇だなぁ…。
暇だ暇。なにもすることが無い。眠くもない。しかし、他の連中は俺とは違って疲れてるだろうからもう寝てしまっているだろう。
いくらなんでも、眠いところを叩き起こしてまで暇つぶしに付き合ってもらう事はできない。する度胸も無い。ホント、どうしたもんかね。
「暇だなぁ………」
何気なくそう呟いた。
別に呟いたところでどうにもならないのだが、自然と声が出てしまった。
そして……
「よし分かった。話をしよう」
「!?」
どこからともなくルイの声がした。一体どこだ…?と辺りを見る俺。
そして、見つけた。
「やあ。元気にしてたか?」
ベッドの下から、俺の足と足の間に頭だけを出しているルイの姿を。
「……………何してるんだ?」
「何って……様子を見に来ただけだが?」
「そうじゃねえよ。なんでベッドの下から、俺の足と足の間に頭だけ出してんだって聞いてんだよ。いろいろと危ねえよその位置」
「いいじゃないか、そんなことは」
「いや、よくねえよ」
ルイは、ベッドから這い出てて、服に付いた埃を払い落としながら立ち上がった。
「で?一体こんな時間に何の用だ?もう皆寝てる時間だぞ?」
その質問にルイは、不適に笑った。
「聞いたぞ?暇なんだってな」
「まあ、暇だけど……。あ、もしかして、なんか暇つぶしになるような物でも持って来たとか?」
期待の眼差しを向ける俺。
「……フッ、私を誰だと思っている」
愚問だな、とでも言いたそうな自信に満ちた顔でそう答えるルイ。
その言葉に、さらに期待の眼差しを輝かせる俺。
「じゃあ、なんか持ってきたのか!?」
「いや?無いぞ?」
「無いのかよ!」
無いのならなんでそんな自信に満ちた顔したんだよ……。今のやりとり絶対意味無いだろ……。期待の眼差しをさらに輝かせた意味も無いよ……。『期待の眼光』と呼んでもいいレベルまで輝かせたとゆうのに……。
「……じゃあ、何しに来たんだよアンタ…」
「ちょっとある事を伝えに来ただけだ。なに、悪い話ではない」
話?なんの話かは分からないけど、まあ暇つぶしにはなるか。
「どんな話だ?」
「ほら、この世界に来る前に君の身体能力がどうのこうの言っていただろう?」
ああ、言ってたな。たしか、X●-70 超音速戦略爆撃機ヴァ●キリー以上の速さで走れるんだったよな?
「あの時は曖昧にしか教えてあげられなかったが、正確な数値がやっと出たからな。
それを教えに来たんだ」
「ほほう、確かに悪い話ではなさそうだな」
「だろう?じゃあ、早速教えよう」
ルイは懐にしまっていた紙を取り出して、それに書かれていることを読み上げた。
「まず、『五万人以上のスーパーサ●ヤ人と戦っても、無傷で帰ってこれる』。それから……」
「待てコラ。五万人以上のスーパーサイ●人と戦っても無傷で帰ってこれるってなんだオイ。化け物じゃねえかそりゃ」
「まあ待て、まだ他にも書かれてるから」
こんな内容のものがまだ続くのかよ……。
「それから、
『彼女の拳は万物を砕く』
『走り幅跳びで世界一周できる』
『足の速さとかなんかはもう測定不可能』
『ナ●ック星人もビックリな再生能力』
『人の持つ魔力の平均が36万………いや、一万四千だ。それが、彼女の場合72ペタあると思っていい』
『ぶっちゃけこの世界で足元に及ぶ奴なんかいない』
『すんごい美少女』
……だそうだ」
……………正直、何を言っているのかさっぱりわからなかった…。
いや、解るには解るんだけど、自分の事とは思えないってゆうか…。
「と、とりあえず、一つずつ説明を頼む」
「『五万人以上のスー●ーサイヤ人と戦っても、無傷で帰ってこれる』。
そのままの意味だ。なんで●ーパーサイヤ人かは知らないな。
というか、無傷で帰ってこれる以前に、こんな戦いしたら銀河系が一つ無くなるな。
『彼女の拳は万物を砕く』。
腕力だけでなんでも壊せると思っていい。流石に実体の無いものは無理だがな。
『走り幅跳びで世界一周が出来る』。
計算上出来る筈だが、木とか建物があってできない。
まあ、この世界にも第一宇宙速度はあるから、一周どころの話じゃ済まないな。
『足の速さとかなんかはもう測定不可能』
スカウターが壊れた。
『ナメッ●星人もビックリな再生能力』
頭が消されようが心臓を潰されようが直ぐに再生する。
『人の持つ魔力の平均が36万………いや、一万四千だ。それが、彼女の場合72ペタあると思っていい』
日本表記で7京2千兆だ。
『ぶっちゃけこの世界で足元に及ぶ奴なんかいない』
お前がナンバーワンだ。
『すんごい美少女』
鏡見ろ。
大体わかったか?」
「ああ、ツッコミ所満載だったけど、大体分かった」
俺は、自分の規格外チートっぷりに呆れるしか無かった。
ていうか、ドラゴン●ール成分多くね?
伝説の英雄はこの話には何の関係も無いのである。
三人のおじさ●もこの話には何の関係も無いのである。