第九話『人狩り行こうぜ!』
最近、迷走してきたような気がしましたが、元からでした。
ここはヒィヴァニスィリルィユァ王城の客室の一つ。そこには目覚めの光が窓から注ぎ込まれていました。
そう、朝です。謁見の間での出来事はもう昨日の話です。
あの後俺はうどん饅頭の事もあって疲れてたので、飯食って寝たのです。
「でも、風呂に入らずに寝たのはマズかったな……」
うん、飯食って寝ただけ。昨日は風呂に入ってないのだ。
いや、昨日どころの話ではない。実はこの世界に来てから一回も風呂に入れていない。前に泊まっていた宿には風呂が無かったのだ。
それにしても、体に汚れがまとわり付く感じがして大変気持ち悪い。
思えば、この世界には落下してきたし、ゴリラに殴られて吹っ飛ばされたし、フィリアさんに蹴られて吹っ飛ばされたし、城壁をぶち破って落下したし、殴られてベンチから落ちたし、走ってて汗かいたし、黒い勇者に舐められたし、寝汗もかいた。
………あれ?俺、相当汚くね?
「嗚呼…、風呂に入りたい」
そうだ、風呂に入りたい。とにかく風呂に入りたい。風呂だ、風呂。この世界に風呂という概念があるかどうかはわからないけど、風呂に入りたい。とにかく体が気持ち悪い、風呂に入りたい。
「風呂に入りたい!!」
そう叫んで、ベッドの上で立ち上がり、右手を高く上げる!
ガチャリ。
「……………」
突然、そんな音とともに部屋の扉が開かれた。開けたのは、憂の世話をしに来た侍女であった。
侍女は憂の姿を見るなり、生暖かい目で沈黙してしまった。
「……………」
「……………」
ナニコレ、恥ずかしい。
「お風呂でございましたら、案内致しますよ?」
「………お願いします…」
ヒャッハー!風呂だー!!
というわけで、生暖かい目で見てきた侍女さんに案内されて風呂にやってきたわけです。
いやぁ、無駄に広い。本当に広い。公衆浴場並に広い。
脱衣所が。
「いや、広すぎだろ。脱衣所」
なんで脱衣所が公衆浴場並に広いんだよ。こんだけ広くして何がしたいんだよ。何をするつもりなんだよ。ナニをするつもりなんだよ。
ちなみにさっきの侍女さん曰く、
「王城には、ここの他にもあと3つ程お風呂があり、後宮には6つ程あります。それから、他のお風呂と比べると小さいですが、騎士寮にも2つありますよ」
との事らしい。城ってスゴイね!!そんなに風呂が必要なのか大分疑問だけど。
さて、脱衣所での脱衣も済んだことだし、入浴場での入浴をしに行きますか!ヒャッハー!風呂だー!!待望のお風呂イベントだぞ?喜べよ。
スライド式の扉を開くと、そこはさっきの脱衣所よりも広く、かなり豪華な飾りが施された如何にも『お城のお風呂』な場所だった。湯船には何故か多量の薔薇が撒かれており、謎のセレブっぽさが溢れる趣向になっていた。
そんな湯船に浸かっている黒い甲冑の勇者が一人。
「……………」
「……………」
…………え゛?
豪華な浴場の、薔薇が撒かれた湯船に浸かる、物々しい黒い甲冑の勇者。
…………………。
「ミスマッチ過ぎんだろ!!?」
「ツッコむ所はそこなのか」
待望のお風呂イベントだぞ…?喜ばせろよ…。
「なんでだよ……なんでコイツなんだよ……せめてうどん饅頭がいろよ……」
そう、ぶつぶつ呟きながら湯船に浸かる俺。
あ、そういえば昨日の謁見の間でのアレの後に聞いたんだけど、うどん饅頭ってこの国の王女だったんだって。国王様が『娘の救出~』とか言ってたのはその事。ちなみに、その時うどん饅頭は亀甲縛りをされたままだった。……なんでだ?
「なんだ、私では不満か?女よ」
隣で湯船に浸かる黒い甲冑の勇者は、“男らしい低い声で”そう言ってきた。ていうか、なんだそのfat●/zeroに出てくるマーボー神父みたいな喋り方は。
「あたりまえだろ。誰がそんな物々しい甲冑を着込んだ野郎なんぞと……」
………ん?野郎…?
「……アレ?ここって混浴だったっ…け?」
「いや?女湯だが?」
「ああ、そうだよな……うん…」
沈黙が浴場を包む。
そうだよな……女湯だよな、ここ……。
「ハァ!!?じゃあなんでここに居るんだよ!?」
そう言いながら立ち上がって、黒い勇者と距離を取る俺。
「なんだ?居てはいけないのか?」
「だってアンタ男だろ!?」
「いや、女だが?」
「あ、そうなのか。なら大丈夫だな」
そう言ってさっきと同じところに座る俺。
「……………」
「……………」
………………ふむ。
「いやいやいやいや!マテコラ!どう考えても男だろアンタ!」
「ん?どうしてそう思うんだ?」
「だって“男らしい低い”声をしてるじゃねぇか!!それで女とかありえねぇって!!」
「ああ、実はこのメットのバイザーの所に変声機が入ってるのだ。だからだよ」
なにその高性能な甲冑。
「じゃあ、素の声を出してみろよ」
「む。……まあ構わないが」
そう言って黒い勇者はメットのバイザーを少しだけ開けた。
ドバァ―――ッ!!
その瞬間メットの中から大量のお湯が出てきた。
「…………(゜Д゜)」
「あ…あ……うん、これでいいか?」
バイザーを少し開けたまま黒い勇者が声を出す。その声は確かに女性の物だった。
………が、
「……あ、うん。それはわかったけど……何故メットから大量のお湯が…?」
「ああ、君が来る直前まで潜っていたからな」
「何故!?」
「修行とでも思っていてくれ。決して湯船で足を取られて転び、起き上がるのに四苦八苦していたわけではない」
「いや、絶対してただろ。それじゃあ、なんで今の今までメットからお湯を出さなかったんだ?」
「修行とでも思っていてくれ」
「いや、だから嘘だろ。ていうか、どうやってさっきまで喋ってたんだよ」
「その辺は、まあ………勇者だから、かな?」
「そんな勇者補正あってたまるか!!」
なんだこの非常識な奴は!先の行動と言葉が全く読めないぞ!?なにこれキモイ!!
こいつにはツッコむだけ無駄だ。そう思い、少し落ち着くことにした。それに、浴場だから声が響いてうるさい。周りはコイツだけとは言え、あまり騒がしすぎると後々怒られるかもしれないしな。
「…………」
「…………」
辺りを沈黙が包む。
それにしても、この黒いのが女だったとは……。普段の声は男だし、口調も凛としてるっていうか、男にも捉えられるからな…。全然気付かなかったぜ……。コイツに頬を舐められた時だって、舐める時だけバイザーを開けて、喋る時には閉めてたしな。顔も見えなかったし。
「………女なんだよな?」
「何度も言ってるだろう?女だよ」
黒い勇者は既にバイザーを元に戻していたため、男の声に戻っている。
「その……アレは…どうなんだ…?」
「アレ?」
「アレっていうか……そ、そこ」
「ああ、ここか。君も物好きだな」
「う、うるさいっ」
「まあ、見せてやらんこともない。ホレ」
パカッ
「Oh...中々、良い物をお持ちで…」
「だろう?」
「まさか、あんな所が観音開きになるとはなぁ……」
黒い勇者と一緒に風呂を出た俺は、食堂っぽい所で飯を食べた後に騎士団の訓練場のようなところに来た。
ちなみに、黒い勇者が女だということを知ったのは、俺が初めてなんだそうな。だから、俺と黒い勇者が談笑しながら女湯から出てきた時には、近くに居た侍女さんが絶句してた。
え?観音開き?フフフ…、何のことやら…。
そういえば、この訓練場には勇者も訓練しに来ているらしい。黒い方じゃないぞ?臭い方だ。ああ、これでは体臭が凄い勇者みたいな言い方ではないか。単純に勇者アツシと呼んでやろう。
で、今その勇者アツシ君が騎士団の奴と一対一で模擬戦をしていた。
「どっせい!!」
「ぎゃふん!!」
あ、決着付いた。
結果は勇者アツシ君の圧勝だった。まあ、勇者なんだし当たり前か。
だが…、
「団長!!また勇者君が試合の初っ端から剣を投げ捨てて戦ってきました!!」
「またかアツシ!!何度言わせれば気が済むんだ!!それでは剣の腕が伸びないと言ってるだろう!!」
そう、アツシは何故か剣を使わずに戦ってた。しかも、何度も注意されてたらしい。
ていうか、なんだこの小学校あたりでありそうなやりとり。
「だって、俺が剣を振るうと手から飛んでいくんだもん」
「それを直すために訓練してるんだろう!!しっかりしろ!!」
「はーい」
軽く返事をしながら勇者アツシは端に寄って休憩し始めた。……本当に分かってるのかアイツ。
「まったく、そろそろ真面目にやってほしいんだが……」
「苦労してんなぁ、フィリアさん」
タイミングを計って、肩を落として溜息を付くフィリアさんに近づき話しかける。
「ん?ああ、美少女か。どうしたんだい?こんなところに来て」
「いやぁ、暇でさ。この国の騎士達がどんな訓練してるのかなぁって思って。ていうか美少女言うな」
「そうなのか。まあ、ここは見ての通りだよ。模擬戦して互いを極めたり、素振りなどをして体の基礎を作ってる。魔法を使える奴は威力や精密さを伸ばしてるぞ」
「へー。ところで、勇者アツシ君はどうしたんだ?」
「…ああ、剣を使えと何度も言ってるのに、全然使ってくれなくてな。いい加減直して欲しいんだが……」
フィリアさんも、勇者アツシのことには手を焼いてたようだ。まあ、いくら勇者でもアレは無いよな…。
「この前なんか、団長が何度も言ってるのに直さないからと、腹を立てた騎士の一人がアツシと喧嘩してな。仲裁して鎮めるのも大変だったんだぞ?」
「うわ、マジかよ」
「マジだよ……。もう少しこちらのことも考えてくれればいいんだがなぁ…」
「苦労してんなぁ、フィリアさん…」
いや、マジで。これが上に立つ者の苦労か。
そうやってフィリアさんとしばらく話してると、訓練場の一角から怒声が響いた。
「いい加減にしろ!!いつまでそうやって我々騎士団を愚弄するつもりだ貴様!!」
「だから、どうしても剣が手から離れるんだから仕方ないじゃないか!!」
怒声が聞こえた方を見てみると、なんだかよろしくない空気を出してる二人がいた。ひとりは言わずと知れた勇者アツシだ。
「なんだ、またやらかしたのか?勇者アツシ君は」
「……みたいだな」
フィリアさんも、これには眉間を押さえて困っていた。美人だから様になってるぜ。
勇者アツシと口論になっているのは、アツシより年上らしき赤い髪の男だった。眉間に皺が寄ってて、堅物なイメージがある、あまり良い印象を与えない顔付きだった。
「奴だよ。前にアツシと喧嘩したのは。あの赤髪の男はアンゾルゲ。見ての通りの堅物野郎さ。あまりの堅物さに近寄ろうとする奴はいないな」
「なんだ、ただのぼっちか」
俺の中で、『アンゾルゲ=ぼっち』の公式が作られた。
さて、俺とフィリアさんが話している間にも喧嘩は続いている。なにやらヤバそうな雰囲気だ。
「だから嫌だったのだ!貴様のような俗物な勇者なんぞと共に鍛錬するなど!虫唾が走る!!」
「俺だってお前みたいな低脳な奴なんかと一緒に鍛錬したくねぇよ。だいたい、お前らが呼んだんだからこの世界に来てやったんだろうが!!ほとんど拉致と変わらなかったけどな!!」
「貴様ッ…!!騎士団だけに飽き足らず、王まで愚弄するのか!!」
「お前がそう思うんならそうなんだろう。お前の中ではな」
「キサマァアアアアアアアアアア!!!」
赤髪アンゾルゲが剣を抜いて勇者アツシに襲い掛かった。なんか模造刀じゃなくて真剣っぽい。
ていうか、勇者アツシは何故そのタイミングでその台詞を言ったし。
「そうカリカリすんなよ。カルシウムたんが足りてないんじゃないのか?」
キィン!と金属のぶつかる音が聞こえた。勇者アツシが自慢の聖剣『エクスカリバー』を抜いたのだ。普通の剣相手にそれは無しだろ!!
「ていうかアイツ、何故カルシウムに『たん』をつけたのだ……?」
そう呟いたのは、いつの間にか憂の隣にいた黒い方の勇者だった。
「あれ?いたんだ」
「今来たばかりだ。それにしても苦労してるな、騎士団長殿」
「……その台詞を言われたのは今日で9回目だ」
そんなに言われてたのか、その台詞。
勇者と赤髪の喧嘩はまだ終わらない。……それにしても、誰も止めようとしないな…。
「止めないのか?」
流石にアレはまずいだろうと思い、フィリアさんに聞いてみた。
「…止められると思ってるのか?アンゾルゲの方はともかく、相手はあの勇者だぞ?もう少し体力が尽きてから止めた方がいい」
「なんか、モンスターをハントする様な止め方だな……」
体力が減ってから捕獲する。まさに、あの某ハンターゲームのようだ。まあ、討伐はしないけど。
すると、黒い勇者も会話に入ってきた。
「まあ、ハントするのはハンターの方だがな」
「なるほど、『HUNT●R×HUNTER』か」
「誰が上手いことを言えと言った」
「こやつめ」
「ハハハ」
フィリアさんは話の内容に着いて行けなかったようだ。まあ、地球のゲームや漫画の話なんか分かる筈ないもんな。
ていうか、その理屈じゃ俺も知らない事になってるじゃねぇか!!ヤベェ!!
「それにしても、これでは他の連中が鍛錬できないな」
「……ああ」
良かった、黒い勇者は気にしてないようだ。バレたらバレたで面倒臭いからな。
あと、フィリアさん落ち込み過ぎだろ。どんだけだよ。
この間にも勇者と赤髪の攻防は続いている。
勇者が剣を振り、赤髪がそれを受け流し、赤髪が薙ぎ払うと、勇者がそれをさける。ずっとそんな攻防が続いている。
赤髪の顔は怒りに染まり、半分我を忘れているような状態だ。対する勇者は冷静に見える。しかし、それはあくまでも見えるだけだ。勇者アツシは静かに怒るタイプなのだ。
「…というか、なんでアツシはこうゆう時に限って剣で戦うんだ……。普段からこれならいいのに……」
まったくである。剣を使わずに騎士に勝てるほどの実力を持っているというのに、何故この様な時に限って剣を握って離さないのか。止めるほうは溜まった物ではない。
………はぁ。
なんだこれ。何時までやり続けるつもりだ?俺はこんな喧嘩を見るために、ここに来たんじゃないんだけど?
周りの奴らにも迷惑が掛かってるじゃねぇか。そろそろ気付けよ。あー、つまらん。
仕方ない、ここは俺が止めてみせよう。神様のお墨付きのチートであるこの俺が。
この世界に来てから全くと言っていい程戦闘が無かったからな。実は自分の戦闘能力がどれ程の物か確かめておきたかったんだ。
と言う訳で、彼らには俺の実験に付き合ってもらおう。なぁに、殺しはしないさ。
さぁ、初めての見せ場だ。楽しんでいこうじゃないの。
パソコンが一台壊れました。
パソコン1「パソコンが一台やられたか……」
パソコン2「ククク、奴は四天王の中でも最弱…」
パソコン3「………(壁に寄りかかって腕を組んでる)」
ちなみに、うちにはパソコンが5台あります。




