レストア王子も反省はする。
沢木の友人登場。
瑠璃がB級グルメフェスタでバクバクと食べて、周囲の人から色んなものをお供えされている頃…王子はというと…
部屋の中で、ひりひりする耳をさすりながら、「有沢瑠璃をレストアさせるぞプラン」を性懲りもなく考えていた。
新入社員紹介の時にいきなりレストアさせろと言ったのは…、さすがに失敗だったかもしれない、と俺様沢木にしては珍しく反省していた。失礼とは微塵も思っていないようだが。
それというのも、現在、沢木の部屋で自分の部屋のようにくつろいでいる友人・福田満のせいである。
彼にこっぴどく注意されたのだった。
沢木の耳がひりひりするのは、福田の仕業である。
「よっしー、だめじゃないか。新人の、しかも成績優秀で入ってきたばかりの有沢さんにあんなこと言っちゃあさ。せめて会社に慣れるまで待つべきだったと僕は思うよ?」
同じ会社だが部署は違う、友人の福田満がいきなり家にやってくるなり、迎えてきた沢木の耳をぐいぐい引っ張りながら、玄関先で延々と説教されてしまった。
頼みの鉄二は、ほほえましいものを見る目で二人をそっと見ている。
助ける気は全くないようだ。
むしろもっとやれ!と嬉々としている。
沢木と福田は大学時代に自然と仲良くなった。キャラが被らないせいか?気が合うようで、俺様気質の沢木を程よく調教、もというまく扱っている。
良き友人でありながらも、悪いところはしっかり指摘してくれる貴重な存在である。
にっこり笑いながら、容赦なく沢木自慢の美貌に平気で制裁を加えてくるので、さすがの俺様沢木も福田の言うことに耳を貸すようになった。
逆らえない雰囲気は鉄二に似ているかもしれない。
たまたま中期出張で、新人社員たちの紹介時にいなかった福田が出張から帰ってきて、沢木が一人の新人社員に付きまとっていることを聞いたのだ。
その時の一字一句を、レストア王子ファンからもれなく聞いた福田は、急いで沢木の家に行き反論も聞かず、耳を掴みあげたのだ。
「だいたいさ、有沢さんのことをまったく知らないんでしょ? いつもならさ、きちんとリサーチしてから申し込むじゃない。どうしたのさ、焦るなんてレストア王子のお前らしくないよ」
そう、いつもの沢木ならかなり念入りに調べるのだ。レストアしても綺麗になる可能性がない・もしくは沢木が期待するほど綺麗にならないとなれば、レストアする意味がないのだから。
100%のレストア成功の裏には、意外にも地道なリサーチの上に成り立っていた。
「一目見ただけで、びびっと来たんだ! あいつはこの俺にレストアされるために、この会社に来たんだって、…福ちゃん、痛い痛い痛い!」
耳を楽しそうにさらにぐいぐい引っ張りながら、福田は心底呆れていた。
「なに馬鹿なこと言ってんのさ…まぁ、確かに彼女は顔は結構かわいいのに、体型が残念とは思うけど…、なんか臨月近い妊婦さんみたいだよね」
何気に福田もかなり失礼なことを言っているが、事実なので仕方が無い。
「そう思うだろ! 福ちゃん。顔は割とかわいいし手足は細い。で、胴体だけナスビみたく丸いんだぜ? バランス悪すぎるにも程があんだろ。なんとかしてあいつを綺麗にしたいんだ、俺は!」
ようやく耳を離した福田をキッとにらみつけて、沢木が喚く。
「よっしー、まだ僕は有沢さんと話したことは無いから分からないけど、情報を集めただけでも、有沢さんは手ごわいと思うよ。まずは仕事の先輩としてきちんとしないとね。もしかしたら、話もしてもらえなくなるかもよ?」
グッと押し黙ってしまった沢木、心当たりがあり過ぎなのだから当たり前である。
「連休明け、口を聞いてくれないかもしれない…」
あの俺様何様ナルシストの沢木が、ナメクジに塩をかけたように凹んでいる。
珍しい物をみた福田は、目が点になってしまった。
「へえ、反省してるんだ、珍しいこともあるもんだ」
沢木は今まで、女性に対してここまで心を乱すことはなかった。
あるとするなら、沢木の母が熱を出して寝込んだり、沢木の母の顔に大きな吹き出物が出来たり…とにかく沢木が女性で唯一心を乱すのは、母の美月だけだったはずだ。
それなのに、有沢瑠璃を見て「レストアさせろ」としつこく詰め寄る沢木のこの行動は、かなりの異常事態なのである。
もしかしたら、沢木の初恋かもしれないと福田は気付いた。
しかも本人には恋の自覚なし、である。
どちらにしても、まだほんの芽生えたばかりかもしれない友人の初恋?を応援しようと福田は思った。
福田が俺様沢木と友人をやっていけるのは、いろんな出来事を楽しめる性格からかもしれない。
腹黒いとも言う。
「とにかくさ、まず一つ目、仕事の先輩としての役目は果たすこと。二つ目はレストアうんぬんの話は、しばらくしないこと。まずは彼女の信頼を得ないと難しいよ?」
福田が出張でいなかった間、野放しだった沢木はとにかく有沢瑠璃にしつこく「レストアさせろ~レストアさせろ~」と呪文のように言ってたらしい。
他にもいろいろ注意されたのだが、沢木は耳がひりひりと痛むので、「はいはい」と聞き流していた。
そんなことは長い付き合いでわかっている福田は、ニヤリと黒い笑みを浮かべこう告げた。
「ちゃんと分かったのか確認しようか? まさかレストア王子が、数少な~い友人の有り難いアドバイスを聞いてない、なんてことはないよねぇ?」
プライドは売るほど高い沢木はかなりムッとしたものの、福田のアドバイスをきちんと復唱した。
聞き流していても、きっちり記憶する癖は、福田の友人をやる以上必須事項だった。
もし、福田の問いに答えられなかったら制裁という名の、恐ろしい仕返しが待っている。
「つまんないの、覚えてなかったら眉毛片方だけ半分剃って、公家にしてやろうと思ったのにさ」
「いや、それは勘弁してくれ。有沢には連休明け、謝罪する。よしっ、まずは信頼回復からだ。ありがとう福ちゃん、そうだ、夕飯食べていけ。今日はうまいシシ肉が手に入ったんだ。鉄じいに準備させてるから、遠慮しなくていいぜ」
凹んでいたが、すぐに俺様復活。
彼のいいところはいちいち根に持たないことかもしれない。
反省はしたが、瑠璃のレストアを諦めたわけではない。
今までは猪突猛進な攻め方だったが、連休明けからは瑠璃を観察・分析し、それがどんな結果になろうとも絶対にレストアしてやると、珍しく長期戦を覚悟したのだ。
なにせ、今までの女性とは全く違うタイプ。
美形の沢木の顔を見て頬を染めないし、聞けば腰が砕けると評判のエロボイスもスル―する瑠璃。
沢木に対して、物凄く冷たい視線を送る瑠璃を見て、俄然やる気が芽生えてきたのだった。
瑠璃にとっては、先輩女性社員のように普通にリアクションを取っていれば、ここまで執着されなかったかもしれない。
ご愁傷様としか言いようがないが、沢木にロックオンされてしまった以上彼女の苦難はこれからも続くようである。
反省はするが、懲りない男、沢木美人。
新しい攻略は連休明けから、開始。
わきあいあいと三人で猪鍋を食べながら、夜は更けていくのだった。
沢木の友人 福田満。大学の同期生。一見爽やかな外見だが、腹黒い性格。沢木とはウマが合う。
シシ鍋、コラーゲンたっぷり。美味。
時系列はだいたい同じ日です。連休初日。
並列で書くの難しい…