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難攻不落の彼女、有沢瑠璃という女、2

瑠璃、連休を満喫。



 瑠璃はゴールデンウィーク初日、B級グルメを一人満喫しながら、入社してから今までを振り返っていた。


 有沢瑠璃は、自他共に認める食いしん坊である。

 とにかく美味しい物が食べたい、瑠璃は食べている間だけが幸せなのだ。

 最近は自分で体重の調整をしながら、お金と時間のある限り食べている。

 大学生の時は男子によく食べ物をもらっていたが、さすがに卒業してからはそんなことはない。

 それに社会人になると、大学時代のようにグルメスポットめぐりをする時間も取れなくなってきた。


 やっとの思いで入社した会社には、俺様ナルシストな変態、もとい先輩がいたのだ。

 初対面で瑠璃に対して失礼なことをいい、その場で断ったのに毎日毎日「レストアしよう、レストアしないか、絶対綺麗になるぜ?」

 仕事そっちのけでそんなことをいうのだ。

 いい加減ぶち切れそうになったが、瑠璃は新人の上、さらに自分の指導教官の立場の沢木に強い態度(毒舌攻撃)は取れなかったのだ。

 ストレスも限界に近付き、まわりに助けを求める視線を何度も向けたが、可哀想な子を見る目で首を横に振られるばかり…。


「沢木くんのレストアを断ったのは、貴女が初めてなのよね」と、社員食堂で違う部署の先輩らしき人から聞いて、瑠璃はいろんな意味で驚いた。

 綺麗になりたいと女性すべてが思っていること、それを実行できるのは自分しかいないと豪語していること、自分に任せればどんな残念な容姿でも美しくレストアできると…瑠璃に冷たくあしらわれて憤慨した沢木は、大きな声で過去にレストアした女性に愚痴っていたらしい。


 その女性も「なぜ綺麗になりたくないのか理解に苦しみますわ…、私、沢木さんを応援してますから! 有沢さんを絶対に美しくしてあげてください!」

 二人の世界で誰も突っ込めなかったらしい。

 親切な先輩社員も「出来の悪いアホなコントを見ているようだったわ」と呆れていた。

 瑠璃の会社での裏事情を教えてくれているのは、あんまりな物言いの沢木に何も言えないであろう瑠璃が、可哀想になったからとのこと。

 でも、表立って瑠璃の味方はできないからごめんね?とも言われてしまった。


 この会社は女性社員が多く締めており、男性社員は少なく…もはや宝物のような扱いである。

 沢木はその中でも一番の美形で、俺様だろうがナルシストだろうが女性社員には貴重な目の保養であり、彼の行動に反発する女性は皆無だそうだ。

 それを聞いた瑠璃は、絶望した。

 自分の味方が少ない、もしくはいないかもしれないという最悪の可能性を知ったからだ。

 憐みの視線は瑠璃が可哀想なのだからではなく、沢木のレストアを受け入れない残念な新人という視線だったのだ。

 入社したばかりなのにすでに居場所がない…と瑠璃は口をもぐもぐさせながら、これからどうしよう…と途方に暮れていた。

 連休に入る前、沢木に健康診断書を突きつけて断固拒否の姿勢を取ったばかりである。

 そのまま逃げるように寮に帰り、用意してあった荷物を持ちB級グルメフェスタに来たのだった。


「沢木先輩、絶対怒ってるよね…。どうしよう…」

 毒舌のどの字も出せないまま逃げるのは悔しいが、現状は会社のほぼ全員が沢木のレストアを応援していると聞き、迂闊なことも言えないのだ。


「うう、ストレスが溜まるなぁ…、でも、入社したばかりで辞めるわけにもいかないし…」

 ものすごい勢いで瑠璃の目の前に置かれた食べ物が、瑠璃の口の中に入っていく。

 いつの間にか瑠璃の周囲には、それを見たくてこっそり自分の食べ物を瑠璃のテーブルに置く人まで現れていた。

 お供え状態である。


 肝心の瑠璃は、ぼんやりと考え事をしていて、食べ物が一向に減っていないのに気付いていない。

 毒舌を使わない時の瑠璃は、ほんわかした雰囲気そのままである。

 はたから見れば、物思いにふける臨月間近の妊婦がおなかの赤ちゃんのために必死に栄養を取っている…という情景であった。

 瑠璃は妊婦でもなんでもないのだが、このグルメフェスタに来ていた人達は「臨月の妊婦を一人で来させるなんてなんてひどい旦那だ…!」とか「あんなにバクバク食べて、きっと怖いお姑さんにいじめられているに違いない、眉間にしわを寄せて…!」とか、妙な同情を一心に受けて、しまいにはお店の人まで売り物をお供えしていた。



 瑠璃本人は気づいていないが、過度のストレスを感じると極度の過食傾向にあり、落ち着くと反動で拒食傾向になるのだ。

 本人は「プチ断食」なんて可愛い名前をつけてはいるが、実際本当に食べれないのだ。

 そんな時は無理はせずに、水分と塩分やサプリメントで生き延びている。

 まだ若いために特に体に異常は出ていないが、これを繰り返していたら沢木がいっていたように、近い将来何かしら病気になるのは間違いないだろう。

 そんな自分の精神状態と体の状態に、気づくはずもなく瑠璃はB級グルメフェスタで食いだめをして、ストレス発散をしていた。

 

 でも、なんかまわりが騒がしい…?とやっとまわりの異常事態に気付き、テーブルの上のてんこ盛りの食べ物を見てひっくり返った。

 しかも、予想以上に食べてしまっていて、おなかも痛いことに気づいて「うう、おなかが…」と瑠璃が言うものだから、会場はパニックになってしまった。


「きゅ、救急車! だれか早く!」

「わかった、すぐ呼ぶ!」

「大丈夫? 予定日はいつなの?」


 …瑠璃は、やっとこの事態の訳を悟った。

 自分が臨月間近の妊婦に間違われていたということに、よくよく周囲を見ると会場のほとんどの人が自分をハラハラした目で見守っている。

 ここで、「ただの食べすぎです」なんてこと言ったら…恥ずかしすぎると悶えた。

 すると、それをもう生まれると勘違いしたおばさんが途端に慌てだした。


「救急車はまだ?」

「もう、来るって、おい、君、大丈夫か?」


 B級グルメフェスタは、とうとう妊婦の出産騒ぎにまで発展してしまった。

 もう、この会場には二度と来れない…と瑠璃はハラハラと涙したのだった。


「ああ、泣かないで、だ、大丈夫。ほら、救急隊の方が来てくれたわ! 気をしっかり持って!」


バタバタとやってきた救急隊員のお兄さんたちに急いで担架に乗せられ、病院に向けて会場を去った。

「元気な子を産めよー!」と会場の声援付きで…



「はい、大丈夫ですよー、しっかり気を持ってくださいね-」


あくまでも妊婦と勘違いしている救急隊のお兄さんたちであるが、胃の痛みも治まり瑠璃はようやく口を開いた。


「あのー、私、妊婦じゃないんですけど。それと、どこでもいいので下ろしてもらえませんか?」


「「え?」」

もうすぐにでも生まれそう!と勘違いしている救急隊のお兄さんは、瑠璃を励ますために握っていた手をポトリと落とした。

 あっけに取られている救急隊のお兄さんたちに瑠璃は詳しく事情を説明した。


「…もう、おなかは痛んでない?」


「んー、少し痛いですが、我慢できない痛みじゃないので大丈夫です。帰って胃薬飲んでおきます。本当にお騒がせしてすみません。とても違うと言い出せない状況だったんです…」

 話していたら、救急隊のお兄さんたちは大爆笑してしまい大変だった。

 とにかく食べすぎは良くないですよ、などといろいろお小言をもらいながら、瑠璃は救急車から下りた。

 最寄りの駅に向かってとことこ歩きながらも、救急隊の人と会場のみんなに迷惑をかけてしまい、とてもいたたまれない瑠璃であった。


「臨月間近の妊婦って…私の体型、そんなにひどいの?」

 さすがに今日の事態で、自分の体型にかなり不安が出てきた瑠璃だった。


 こうして瑠璃の連休初日は、散々な目に合い…過ぎて行った。

瑠璃、ようやく自分の体型の現実に気付く。


ちなみにグルメフェスタ会場は、一気に緊張が解けて売り上げがものすごいことになり、店の人たちは瑠璃に感謝したという。


※救急車をタクシー代わりにしてはいけません。瑠璃の場合、妊婦の緊急事態ということでの搬送でした。間違いだったので、すぐに下車。本当に救急の場合以外、救急車は呼ばないでください。これはあくまでもフィクションです。


次は王子の出番です。脱がないでねー

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