難攻不落の彼女、有沢瑠璃という女。
先に瑠璃を出します。
瑠璃編は少し シリアスです、全裸王子はコミカル担当。
二人の事情をとりあえず、読んで頂けると嬉しいです。
難攻不落の彼女、有沢瑠璃という女。
有沢瑠璃、某大卒(成績優秀)の22歳。160センチ、約60キロのぽっちゃりさん、顔はかわいい系。髪はボブに入社前にカット、染めておらず黒髪。
趣味は美味しい物を食べること。家族は両親、瑠璃、弟一人、生活は楽ではなく大学は奨学金を利用。
バリバリ働いて、家計を少しでも助けたいと思う親孝行娘。というか、有沢家のエンゲル係数のほとんどが瑠璃のせいである。
レストア王子こと沢木曰く「あいつは丸いなすびだ! 絶対に綺麗にしてみせる」と、レストアする気満々で、社内のあちこちで騒いでおり、社長初め社員全員が成り行きを生温かく見守っている。
入社してひと月もたたずに、一気に有名人の瑠璃である。知らぬは本人だけだった。
髪形は入社時にボブにカットにしたままでろくに手入れもしておらず、すでにバサバサである。
せめてブラッシングくらいはしなさいよ!と先輩社員一同そう思っている。
瑠璃は化粧をしたくないのだが、美容関連も多く扱う会社の社員がスッピンなのは基本的にNG。
しぶしぶ薄~く化粧をしている瑠璃だった。
化粧品を買うお金を、本当は美味しい物を食べるために使いたいのだ。
それでも会社の独身寮に入った分、家賃負担が軽いので瑠璃は生活がずいぶん楽になったと思っている。
◆
瑠璃の毒舌が冴えわたってきたのは、小学生の頃からだった。
赤ちゃんのころからコロコロと太っていた瑠璃は、男子のからかいの的になりやすかった。
本来優しい性格で、多少太っていても可愛いし雰囲気も人当たりも良く、密かに男子に人気だった。
でもそこは素直に好きとは言えない男子達。
好きな子にこっちを向いてほしくて、ちょっかいを出す、意地悪するなどとベタなことをするクラスの男子たちに、優しい瑠璃は怒りもせず、ひたすら笑顔で我慢していた。
からかう男子の中でも特にしつこい一人の男子には、いい加減イラッときていた。
そこで瑠璃は、その男子の欠点を的確に、しかし優しい物言いで言い返した、どす黒い笑顔付きで。
言われた男子は真っ青になり、それきりからかうことは無くなった。
男子を毒舌で懲らしめた瑠璃だったがやりすぎたかも?と心配した。
しかし、クラスメイトたちの反応は真逆で「よく言った!」「ほんと、あいつ嫌な奴」「瑠璃ちゃんの代わりに殴ろうと思ってた」など、他の意地悪対象にされていた女子から拍手喝さいを受けてほっとしたのだった。そこで味をしめたといっても過言ではない、でもこれがいつも通用するとも思ってはいなかった。
ただ、使うときと場所を選べば、毒舌は良い武器になる…と瑠璃は子供ながらに学習した。
そして、その毒舌を使うたびに瑠璃は強くなり、彼女をからかう男子はいなくなった。
毒舌を使うようになるに従い、なぜか瑠璃は美味しい物を食べることに物凄くこだわるようになった。
生活がそこまで裕福なわけではないので、贅沢は出来ないがおいしいものを食べるためなら我慢は厭わなかった。
早い話、「これを食べたいなら断食しなさい」と言われても、瑠璃は喜んでするに違いない。
それぐらい固執しているのだった。
一応、食べすぎは体によくないという知識は人並みにあるので、がっつり美味しい物を食べた時はプチ断食をするくらいだ。美味しい物を食べるために空腹を我慢するのはなんてことはない。
そして、美味しい物を食べる⇒太る⇒プチ断食で調整⇒美味しい物を食べる…を繰り返していたら、手足は太くないのに胴体だけぽっちゃりという、摩訶不思議な丸いなすびのような体型になってしまった。
体を輪切りにしたら、脂肪のミルフィーユが見れるかもしれない。
就職活動の時もなかばやけくそでこの体型で笑いを取り、気がついたらこの会社に入社できていた。
レストア王子といい、瑠璃といい、この会社の上層部は個性豊かな人材が好みのようだ。
「痩せたら絶対に可愛いよ」と友人からよく言われるが、瑠璃はまったく気にしていない。
そもそも綺麗になりたいとも思っていない。
「痩せたら~」ということは、いまはどう転んでも可愛くないのだから。
「黙ってればそれなりにいいのに」とも、よく言われる。
これに関しては、瑠璃も苦笑いして同意するしかない。
瑠璃のほんわかした容姿からは想像もできないほど辛辣な言葉がポンポン飛び出し、特に敵だと認識した人には容赦しない。
そのうちだれも瑠璃をバカにしたりする人はいなくなり、いつしか「難攻不落の瑠璃」「毒舌ツンデレ」などと妙なあだ名がつきだした。本人はなんでそういう風に言われるのか理解できなかったのだが…。
人からの敵意には、過去の経験から非常に敏感だが、異性からの好意に全く気がつかない超鈍感。
自分の体型が男子の恋愛対象にはならないと思い込んでいるせいもある。
実は…大学でも瑠璃はかなりモテていたのだが、それすらも「食べ物をくれるすごくイイ人」という認識である。
こんな反応しかしない瑠璃の態度の陰で、何人もの男子学生が涙を飲んできた。
「難攻不落の瑠璃」は恋愛に疎く、どんなに好きだとアピールしてもなびかないので、手に入らないことからついた。
瑠璃は恋愛する時間があるなら、美味しい物を食べに行きたかった。
それくらい徹底しているのである。
美に執念を燃やす王子と、食べることに執念を燃やす瑠璃、向くベクトルは違うけどなんだかんだで似たもの同士である。
後書き 瑠璃サイドが先に出来てしまった…。
王子編、すぐ脱ぐので停滞(笑)
瑠璃、本当は優しい子です。そしてきちんとすればかなりかわいいはず!
難攻不落の理由、少し出しました。
短いけど、いったん切ります