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トリップ先配達人  作者: SkyFrider
3/3

日本とトリップ事情

日本。それは高度な技術だけを頼りに世界で生き延び、危うい均衡の中でも平和に生活している国。だったはずなのだが――。


古来より、『神隠し』と呼ばれるものが世界各地には存在する。

ある日突然子供がいなくなり、帰ってこない等の話は殆どの人が知っている。

とはいえ、それが本当かどうかは分からないし、信じていない人のほうがもちろん多かった。そう、多かったのだ。ある時までは。


何ら変わりない生活の中で、まず高校生が何十人か消えた。

それより遅れて、OLがだんだん消えた。

さらに、小学生や主婦まで、少数ではあるが突然いなくなった。


もちろんそれはニュースとなって報道され、『神隠し』の多発として多くの関心を集めた。外国でも似たような場合はいくつかあったが、近年でそれが飛び抜けているのは日本のみ。政府は外国による拉致という方針で調査を始めたが、全く見当違いだった。

更に何年、何日という月日がたってからまた突然現れる者も現れ、彫りの深い美形や明らかに髪と瞳の色、着ている服がおかしい人が目撃されるようになり、ついにはモノが浮いていたなどという常識では考えられないような情報まで寄せられた。


すると、少しずつネットでこう囁かれるようになったのだ。

不確かではあるが、確かにケース、パターンとしては一致する説。


そう――「トリップしたからではないか」という、荒唐無稽な意見が。


爆発的にその説は人々に浸透していき、帰ってきた人・当然消えた人をトリッパーと呼ぶようになった。番組で特集が組まれ、今日いなくなったと思われる人物、帰ってきた人物をリストにして放送するバラエティまで出るように。


だんだんと増えていく消失者や目撃情報、こうした事案についに政府は耐え切れなくなり――。





キレた。





外国にはあくまで否定する姿勢を取りながらも、人間が世界間で消える際に起こる反応を科学的に研究するよう指示を出し、トリップしたことがわかる機械の開発を求めた。

今までの消失者、帰還者を大々的に公表し、どこからか現れる異質な外国人達の調査、有害ではないかの観察も行い、つまりは全面的に「トリップ」という者を認めてしまう姿勢に入ったのだ。

そしてそのトリップラッシュが未だ続いている現在。


日本はカオスである。いやホントに。



私、水速瀬月の家は私が13歳、つまり中学1年生になるまでは極めて珍しいことに誰もトリッパーではなかった。私も高校1年生である兄も若干つまらなそうにしながら学校に通う毎日。もちろん、教室で交わされる会話はトリップのことばかりだ。


「さよーなら」

「さよーおなら」

「ふるーいっ。つーかきもっ」

「そんな事ゆうなって…あ、ごめん召喚かけられたわ」

「いってらー」

「おう。やだなー、勇者の愚痴聞くの疲れんのに――」


騒がしいクラスの中で、一際目立つ女子グループの話題も。


「ねぇ、今日もレミスさん見かけたんだけどぉ」

「レミスって、あの銀髪に青い目の人だよね」

「え、マジで!?いいなー、あたしもう一ヶ月近くシュナードさんに会えてないぃ」

「また木村さんと喧嘩したんじゃない?」

「溺愛してたからねぇ。まあ仲直りを待つしかないって」

「三田、そんな事言って自分は今週もあっちの世界で美形とウハウハ生活でしょ。ずるい」

「あんなの美形じゃないって。ただのうざい男。親は会わせろってうるさいし」

「またまたあ」

「聞いて!?由奈トリップしちゃったみたい…。死んでないかな」

「心配してもしょうがないよ。絶対生き残ってるって」

「うわあああんっゆなっ」


黒板には生徒の電子名簿があって、異世界にいるかを着用が義務の機械で◯☓で表示されている。もちろん私は全部○なので、異世界へ行ってエスケープしたくともできない。…ちっ。

最近ではトリッパーのための特別措置も設けられ、「トリップしても授業についていける!」などと書かれた進なんとかゼミのビラがポストによく入る始末。新たな事業展開のため、今日も業者はたくましい。自分にゃ関係ないけど。

「あーヒマ…。本屋にでも行ってなんか読むか」

「お、いいね。あたしも行こっかな」

「私もー」

他人のトリップ事情を堪能すると、自分と仲のいい「トリップしてない仲間」、略して「となか」(微妙に略せてない)と共にがたがたと席を立って連れ立って教室をでる。

暑さもだいぶ薄れ、やっと過ごしやすくなった季節、チラホラと舞う落ち葉を叩き落としながら寄り道をしに行く。



これが毎日だったんだけど。なあ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ただいまー」

狭い玄関のドアを乱暴にバタッと開けると、居間へアイスを調達しに行こうとそのままのろのろと歩く。アイスは夏休みから一日一本と決めて太らないようにしようと涙ぐましい努力をしている。兄に昨日「太ってトリップできなくなるぞ」と言われたので、兄の部屋にあった筋トレグッズを捨てに行こうと画策している。けっ。いくら筋トレしたって絶対トリップできないもんねあんな奴。

「あれ、帰ってないのかね」

冷蔵庫からお気に入りの棒アイスをちゃんと一本取り出すと、ちまちまと食べながら家が静かなことに気がついた。大体部屋で『異世界恋愛物語』なんていうギャルゲーをしては「こんな異世界に行きてぇ!」と悶える変態もとい血のつながりの上では兄という不本意すぎる人物の声が聞こえないというのは大変珍しいことだ。

首をかしげながら、いつか踏み抜かれるんじゃないかと心配になる階段をぎしぎしと登る。おかしいなあ。ギャルゲのしすぎで倒れたんじゃなかろうか。


「…あ。ちょうどいいじゃん。筋トレグッズ今なら拝借し放題。やっほー」

罪悪感もなくためらいなくドアを開けると――

「おじゃましました」

バタンと閉めた。

「ま、待て!いや、誤解だ、なんか突然現れていきなりこいつが」

狭い一部屋に男女が二人、しかも押し倒されているという場面が兄だった時、ゲーム廃人から逃れたのを喜ぶべきなのだろう。多分。…あれ?兄の上にいたの、なんかがっしりとしたカッコいい感じの男の人だった気がするんだけど。おかしいなー。見間違いかな。うん、そうだよねー。まさか―――

「マジで!?トリップしたさに男に体を売ろうとしてるの!?」

「ちがああああう!!!」

おそるおそるもう一回狭い部屋を覗き込むと、残念な光景だった。

「残念じゃねえよ!襲われそうな俺みて残念とか思うなよ!」

「あのーどちら様ですか?」

「ご主人様をお迎えに上がりました」

にこり爽やかスマイルで微笑まれ、ついどーもと会釈を返した。

褐色の肌と筋肉がよく似合う、スポーツマンとしては最適なイケメンだ。

ついでに、兄に軽蔑の視線を送る。

「そっちの趣味もあったんだー。へぇー。男侍らせたかったの?」

「違う、違うんだ!つーか普通に会釈すんじゃねえよ!」

「いいのよ、私、兄のことは諦めてるから、どうぞ二人で励んでくださいな」

「ありがとうございます」

「会話すんな―――――――!つーかいいかげん気づいてよ!俺トリップさせられようとしてんの!まだゲームの途中なのにぃ!迎えが男なんてやだー!」

「……どうぞ、私が母と父に伝えておきますので。ちゃんと生き延びてね。帰りたかったら自分で方法探してね」

にこにことわらって手を振ってあげたのに、この期に及んでゲームとかほざいてる兄が必死な形相で足首を掴んできた。必死過ぎてこわい。きもい。

いいじゃん憧れのトリップじゃん。襲われようとしてるけど。

部屋の外に出ようとするも、なかなか放さねぇこいつ!

「変態!妹に手を出すなんてっ」

「出さないというか俺が出される側になろうとしてるんだけど!」

「知らないよ!」

二人でぎゃあぎゃあ騒いでいたから、気づけなかったのだ。

イケメンゲイさんが、のんびりと時計をみて呟いたことに。

「そろそろ時間ですね。行きますか」

途端、床があったはずの所が突然暗くなり。


下へと落下した。


「「ぎゃー!」」

「大丈夫ですよ、すぐ着きます」

「兄のせいで私までいくはめに!」

「トリップできるんだからいいだろ!」

「私だって読みたい本がまだまだあったのにーっ」


まさかの兄に巻き込まれてトリップ。

くそぅ、帰ったら絶対こいつのゲーム捨ててやる!



遅くなりました~。すいません。

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