配達人と門番さん
春の日射しが強くなった。
もうすぐ姫の考案した「ぷーるびらき」なるものもおこなわれると、城勤めの期待も高まっている。
ああ、平和だ。
門番はおおきくあくびをした。荘厳な城の前とはいえ、活気と根性のある商人たちが露店を出しているため、
大勢の人でにぎわっている。
姫が来てから天気が荒れることもないし平和になったし、騎士には悪いがこの方が自分には合っている。
平和ばんざい、無駄に筋肉のついた身体がビール腹にるのも時間の問題だろう。
ま、俺はそんなおっさんにはならないけど。だって腹は…。
…やっぱり、久しぶりに訓練所でもいくか。これは…やばい!
いつのまにかやわらかなものがズボンの上にのってる。ぷにぷにしてる!
己の腹事情に衝撃を受けた門番はがっくりと座りこんだ。
「あの、すいません」
細い声が聞こえた。のろのろと足元をみると、見慣れない靴と細く白い脚。
「聞こえてますか?」
「あ、悪い。城になんの用だ?」
よっこいせ、と立ちあがった門番は。
ありえないもんみちまった‼
という顔をした。黒く柔らかな素材でできた上の服に、同じく黒い素材でできた細身の下の服。
深く被られた帽子から零れるのは、…姫の証であった黒髪。
「ひ、姫⁉何をなさってーー」
「お姫様への配達に来ました。姫の母上からの贈りものでございます。
姫には水速、と伝えていただけばわかるとおもいますが」
姫ではない。
少女らしい唇が、柔らかに言葉を紡ぐ。
姫よりも黒を深めたような瞳がまっすぐ自分を見上げる。
それを、今はただ信じられない気持ちで見つめるしかなかった。