初めての人間
第9話、ちょっと遅くなって済みません!
書き上げました・・・・明日も一話更新予定です。
精霊たちと別れたルミカは遠くに見えている町を目指して歩き始めた。
森から出てすぐのところに街道らしき道があり、それの通りに歩いている。
当然のことながら補整などされていないようで、むき出しの地面であったが、馬車らしきものが通った跡と人か歩いたような痕跡があるので、道であることは間違いない。
「誰もいないわよね・・・」
辺りを見渡してみて、何もいないことを確認すると魔術を発動させた。
それは、先ほど風と土の精霊が使った魔術で、術名エスカレーターでどうだろうか?
センスが無いなんていわせない、だって実際にあったんだから!あれは機械だったけど・・・。
魔術のおかげでスイスイ景色が移動するのを眺めていた。
森から抜けたことで辺りには草原とまばらな木や花なんかが見えるようになっていた。
非常にのどかである。
例えその草原に角が一本生えているウサギがいようが、頭が二つある鳥が飛び回っていようが、とてもネズミとは言えないサイズの・・・中型犬サイズのネズミがいようが・・・・・・。
「・・・・・・この世界の魔物と普通の動物の境界線ってどこなんだろう・・・・・あれって、どこまでが動物の分類?」
聞きたいような聞きたくないような気がするが、これも後で勉強しなくてはご飯も食べれそうに無かった。
そんな動物?達を観察しながら街道を行くと・・・・
近くのほうから金属が擦れ合う様な音が聞こえた。
小さい頃真剣を扱う道場で聞いたことがあるが、これは間違いなく刀が何かに当たる音だった。
術を解いて、音のする方向を確認してみるが、わからない。
と―――――、音のしていた方向で炎が上がった。魔術だ。
ルミカはその方向へと走り出した。
何が起こっているのかという好奇心と、魔術が展開されているということはそこに人がいるということで、初めての村人ならぬ、初めての人間との遭遇を期待して。
走り出してすぐに目的のものは見つかった。
そこにいたのは二人の男女と大きな牙を持つ巨大な狼がいた。・・・今度こそ狼だった。
蛇の時と同じくサイズは大きく、四つんばいの状態で3メートルはある。
男のほうは西洋風の剣を持ち、狼と対峙していた。怪我をしているのか左手はだらりと垂れ下がったまま動かない。
女のほうはローブを身に纏い、杖らしきものを油断無く構えている。さっき魔術の炎を作り出したのは彼女のようだ。
男は怪我はしているものの、そこから滲み出ている気迫は全く薄れることは無い。
狼のほうもそれを感じているのか警戒して唸っている。
よく見れば狼ほうもかなりの痛手をくらっているようでボタボタと血が体から流れていた。
あまりの出血量にこちらにも血独特の鉄のような臭いが漂ってきた。
普通の女ならば気絶してもいいような光景であったが、ルミカは昔からの喧嘩などの経験上血をみることがあって、それなりに平気だった。
まぁ、ルミカの神経がちょっと図太いことも理由の一つでもある・・・・・。
そもそも、現代日本において血を見ることが少ないのは女よりも男のほうが少ない。
その理由は、女の子に聞いたらセクハラで訴えられること間違い無しではあるが・・・・・・。
しかし、このままでは埒が明かないだろう。ここで出会ったのも何かの縁だ、ちょっと手伝うとしますか。
「大丈夫!?」
多少わざとらしく入ってもこの状況だ、気がつきはしないだろう。
「あなたは!?」
「まずい!逃げろ!!」
急に割り込んだ空間に一瞬隙ができた。
それに乗じて狼がこちらへと突進してきたが、すでに魔術は完成している。
「残念だけど、これで終わりよ」
小さく呟いた言葉はその場にいた誰にも聞こえることは無かったが、狼の爪がルミカたちの所まで届くことは無かった。
狼は急に動きを止めた。
いや、正確に言えば動きを止めざるを得なかった。
狼の体には地面から突き出した蔦が巻きつき、その動きを完全に止めてしまっていたからだ。
「これは・・・・、あなたがやったんですか?」
まるで信じられないようなものを見るようにこちらを見つめてきた女魔術師は、驚いたようであった。
ひょっとして、この魔術もなかなか難しかったりするんだろうか?
それとも樹の魔術をこんな風に使うことは無かったのだろうか?
今更になってちょっと後悔し始めたルミカであった。
「大丈夫かエノーラ!?」
「はい、大丈夫ですクレメンス様・・・この方に助けていただきました」
捕らえられた狼の横を通り抜けた男は、ほっと安堵の息を漏らしルミカに向き直った。
男はいわゆる傭兵とか戦士とか言われるような服装をしており、さっきの戦闘振りからかなりの手誰であることは間違いなさそうだ。
金色の髪に緑の瞳、そして疲労の色に染まってはいるがかなりのイケメンだった。
一方の女のほうもかなり美しい顔をしていた。
ハニーブラウンの髪にサファイアブルーの瞳優しげな雰囲気をまとう美人だ。
(この世界って、ひょっとして顔の良い生き物しかいないんだろうか)
「彼女を助けてもらって助かった、・・・・君は?」
「あ、ごめんなさい。私はスメラギ ルミカです。ちなみにルミカが名前ですので」
「ルミカか、どうしてこんな所にいる?親はいないのか?」
親・・・・・?少なくともここ最近聞き覚えの無かったことを聞かれた。
小学生まではそんなことを怪しげなおっさんに聞かれたりしたが、中学に上がると誰もそんなことを聞くような人間はいなかった。
中学になった時にグンと身長が伸び、顔も大人っぽくなったからだ。
高校になってからはさらに顕著で、実際の年齢を言うとかなり驚かれるようになったのだが・・・・今更親はどうしたなんて聞かれるとは・・・!
どう言い訳をしようかと困った表情を作りながら考える。
精霊たちには事情は話したが、この人たちが信用できる人間であるか判らなかったからだ。
「クレメンス様!今はとにかくあの魔物をどうにかするのが先です」
「あぁ、そうだったな」
エノーラさんに促されてクレメンスさんは剣を握りなおして狼へと剣先を向けた。
「その魔物・・・・殺すんですか・・・・・・?」
若干声は震えていなかっただろうか、自分の顔色はどうなっているだろうか?そんな事を頭の片隅で考えながらルミカはクレメンスに質問をした。
最初からルミカには魔物を殺す気が無かった。
そんなことをする必要が無かったからだ。
魔術を使えば自分が怪我をすることも、魔物たちを傷つけることも無く戦闘を行えることにルミカ気がついていた。
さっきの氷漬けにしたクルガンだって、ある程度私たちが遠ざかったら氷が解けるように魔術を作っていたし、今回だってここを離れたら蔦から解放できるようにしていた。
だから、殺すためではない。まだ、自分にはこの世界で生き物を殺す度胸は無かった。
「エノーラ、ルミカを連れてちょっと離れててくれ」
「・・・・・分かりました、お気をつけてくださいクレメンス様」
それが、彼らの答えであった。
ルミカはそれに何かを言えるわけでもなく、口を噤むとエノーラが優しくルミカを連れて近くの林の中へ入っていった。
林に入ってしばらくして、狼の苦痛そうな雄たけびが聞こえてきて、ルミカはぎゅっと自分の手を握り締めた。
「・・・・・・あの魔狼ギーズはこの近くにある村を襲い、多くの村人を殺めた凶暴な生き物なんです。それも、小さな子供や若い女ばかり狙っていて、これ以上の被害を防ぐために討伐することになったんです・・・・」
「えぇ、分かってるわ。ちゃんとした理由が有るのも、分かってる」
それでも、理解しようという脳と、分かりたくないという心が互いに責めあっていた。
あの時、狼を捕縛するのではなく、遠くに飛ばすようにすれば良かったのかも知れない。
しかし、それがどういう結果をもたらすのかもよく理解していた。
「本当に大丈夫ですか?辛いなら・・・・・」
「ごめんなさい!私、何かが死ぬのって、見たことが無くって・・・多分」
エノーラは始めてあったばかりの怪しげな女をこんなにも心配してくれている。
どの道、いつかは殺す日が来る。それが、今起こっただけに過ぎない。
これ以上ぐだぐだ考えたところで、あの狼が生き返るわけでもないし、エノーラさんたちに心配をかけるだけだ。
これはもう、死んだときも体験した【諦め】しかないだろう。
「あのね、エノーラさん」
「エノーラで構いません、何でしょうかルミカ?」
「じゃぁエノーラ、さっきクレメンスさんが尋ねてたと思うんだけど。私がここにいる理由ね、・・・・・・覚えてないの」
「・・・・・・・は?」
散々色々なことを考えて、出てきたのはこんな言い訳であった。
突拍子も無いなんて思わないで欲しい。
他に何かうまい言い訳があるんなら今すぐにでも教えて欲しい。
後はうまく人の良さそうなエノーラが引っかかってくれれば・・・・。
「実は私、名前とか魔術に関することとか、言葉とかは覚えてるんだけど、それ以外さっぱり覚えてなくて・・・・気がついたらこの辺りに転がってたの。持ってた荷物にも自分を特定できるものがなくってね、お金はあるからとりあえず街まで行って自分が分かるものがないか探そうと思って・・・・・・・」
「そんな・・・・・・」
さすがのお人好しな人間でもルミカの言動は怪しげに映るのだろうか、困惑した表情のエノーラに若干焦るが、間髪いれずに言葉を続けた。
「本当よね~・・・・・でも、さっき魔物を殺すって分かった時、私すごく怖かったの・・・・それってまだ魔物を殺したことが無いってことで、じゃあ、どうして私は魔術が使えるのかとか、どうして魔術以外の常識的なことを全て忘れてしまったのだとか、・・・本当に変なの私」
沈痛な面持ちで痛々しげに微笑んだルミカは、その目を潤ませ、慌てた様に顔を覆った。
・・・・・・無論これは演技である。
(ちょっとこの設定と演技、無理があったかなぁ・・・・?)
なんて、ルミカが冷や汗を掻き始めたところで、エノーラは急にルミカの両手を握り締め、目を潤ませながら微笑んだ。
その微笑ときたら、さっきのルミカとは格段に違う。
(こ、これは・・・まさしく聖女の微笑み!!)
あまりの神々しい微笑みにルミカがダメージを受けていることなんか全く気がつかないエノーラは、神々しい微笑のままでルミカに言った。
「そんな大事なことをよく私などに話してくれました・・・・、大丈夫ですよルミカ。・・・・よければ私たちと一緒に旅をしてあなたの手がかりを探しませんか?」
(よっしゃ!この人底抜けにいい人だ!!)
なんて事をルミカが考えているとは露知らず、エノーラは優しげに提案してくれた。
「で・・・でも、私、素性も分からないし」
「そんなこと気にしなくても大丈夫です!クレメンス様のことを心配してるのなら平気ですよ、私が説得します!」
ルミカは思わず土下座したくなった。
最初から騙すつもりだったが、ここまで心底心配されると本気でダメージを受ける。
微笑むエノーラを見る度にルミカの良心がズクズクと痛む気がするが、仕方ないことだと割り切るより他にない。
精霊たちのように異世界召喚について知っている存在ならば、本当のことを話しても良いだろうが、この世界での勇者の立ち位置が分からない限り話すことは得策ではない。
「あ、ありがとうございます・・・・・」
とりあえずお礼は言っておくことにした。
ひょっとしたらヒクヒクと口元が引きつっていたかもしれないが、エノーラに気づかれることはやはり無かった・・・・・。
主人公の酷い言い訳申し訳ありませんでした!!
ううむ・・・・・作者も書いてて意味解らんし~wwwとか言ってましたが、これ以上の言い訳が思い浮かびませんでした・・・・。
改めて文才が欲しいと思う今日この頃・・・・・orz