小さな密談
第29話!!
五月中にとか言いながら結局六月になってしまいました。
次は頑張ります。
ウォルスの町を出た四人が向かっているのは、南西にある町マーレイである。
ルミカたちが最初に出会ったのは、その真反対側であったのでこちら側を出歩くのは始めてであった。
「こっち側って魔の山とは反対なのよね~」
「魔の山って・・・・・、グァルスフェンダー山の事ですか?」
「いや、長いからさ・・・・魔の山でいいじゃない」
「グァルスフェンダーも形無しだな・・・・・」
ルミカ曰く魔の山――――正確にはグァルスフェンダー山は、魔族と人間の国の国境である。
それ故、人間に恐れられており、不用意に近づくものはいない。
いるとするならば、それは自分の力量を知らぬ大馬鹿か、真の実力者しかないだろう。
グァルスフェンダー山には、他の場所にはいない強力な魔物が多く、入ったものは出てこないと言われている。
また、魔族の国に最も近いことから、忌避されているのだ。
「いいじゃないの、別にさ~・・・・誰か困る訳でもないしぃ~、皆分かってるんだし」
「それはそうだけどな~、あのグァルスフェンダーだしな・・・・・ちゃんと呼ばないと呪われるって言われてるし・・・・・・」
「え、そんな噂があるんだ?よしよし、それじゃぁ私がそんな呪なんて無いっていう証明になってあげようじゃないの♪」
「馬鹿か・・・・・」
呪われた云々に関しては実際に奴隷の紐を見ているのであるのは知っているし、いざとなれば魔術で解けることも確認済みなので、そんなことを言ってみると、クレメンスに呆れられてしまった。
「んん~?馬鹿とか聞こえてきたんだけど・・・・気のせいかしら?」
「馬鹿だから馬鹿と言ったまでだ・・・・・、そもそもお前には危機感が無いのか?」
「・・・・ちょっとエノーラ、クレメンスって年齢詐称してないわよね?なんかどこかのオジサン並みに口うるさいんだけど」
ややうんざりとした口調で文句を洩らすと、一泊置いてからエノーラが噴出した。
カインは触らぬ神にたたり無しと言わんばかりに、そっとルミカとクレメンスから距離をとって、エノーラの隣にそっと近づいた。
「ほぅ・・・・・お前は俺のことをそういう風に見ていたのか」
「え・・・・・・?や・・・やだなぁ、それはアレよ、えっと・・・・物の例えというか、なんというか・・・・・・・・」
ここにいたってようやく自分がとんでもない失言をしたことに気がついたルミカは、とにかく話題を逸らそうと頭をフル回転させた。
・・・・・・・・・こういうときに限って何も浮かばないのは、よくあることであるのだが・・・・。
「そうかそうか、エノーラ、俺はルミカと少し話しがあるからちょっと離れててくれ、なに、止まる必要は無いぞ、歩きながらでいいからな」
「いやいや!まだ先は長いんだから、皆で仲良く往こうじゃないの!ねぇ、カイン!!」
「いや、話って重要だと思うぞ!俺たちのことは気にしないで、ゆっくり話してくれ!」
妙に爽やかな笑顔を浮かべたカインは、エノーラの腕を掴むと急ぎ足で前方へ歩いていった。
完全に助けを逃したルミカは、絶対零度の死線を浴びて、凍りついた。
「あ・・・・・あはははははは、は、は・・・・・・・・・・・・ごめんなさい」
笑ってごまかそうと思ったのだが、その笑みには一切の温もりが無いことを確認すると、土下座をせんばかりの勢いで頭を下げたのであった。
「ふっ・・・・!まぁ、いいだろう、ただし次は無いぞ」
「え?いいの?」
「なんだ、怒られたかったのか?」
「いやいや!滅相もございません!!」
かなり機嫌が悪いのだろうと思っていたのだが、微笑を浮かべたクレメンスは拍子抜けするほどあっさりとルミカを許してくれたのだった。
「・・・・・・で、建前はこれくらいにして・・・・・一体なんの話かしら?」
「なんだ、気づいていたのか?」
この話が終わったことを確認したルミカは、一呼吸おいてからクレメンスに問いかけた。
エノーラとカインの二人をわざわざ遠ざけたのは、恐らく何かあるのだろうと思っていたのだ。
その勘は外れていなかったようで、クレメンスは面白そうな瞳をしていた。
「わざわざあの二人から引き離したからねぇ・・・・何かあると思ったのよ」
「ふっ、お前はそういうところは鋭いな」
「・・・・・・それって褒めてくれてんの?」
「そのつもりだが?」
やはり、さっきの軽い一言を気にしているようで、微妙に心に突き刺さるような声色であった。
表情が出にくい分、視線や声にその感情が篭っているのに気がついたのはいつだったか・・・・。
「二人から離れたってことは・・・・・・奴隷に関して?それともハーフ?」
「・・・・・・・なぜだ?」
「二人に共通している話がそれ以外に無いと思ったから、・・・・・・・カインを見たときのエノーラの反応は異常だった。魔族と人間のハーフだからって理由じゃなくて、奴隷商人と・・・・カインの髪の色に異常反応をしていたと思うわ」
「無駄に良い観察眼を持っているな」
「ってことは、当たり?」
「あぁ」
クレメンスは一昨日、エノーラの事を物扱いするなと、釘を指していたことから察するに、エノーラは奴隷、しかも黒髪というキーワードと何らかの関係があるのだろう。
「詳しいこと聞いても言いわけ?」
「詳しいことはエノーラが話すまで待っててくれ、ただ・・・・あいつは元奴隷だ」
クレメンスの言葉に驚くことはなかった、それは、なんとなくであるがルミカも気づいていたことだったからだ。
「驚かないんだな」
「まぁ、ね・・・・なんとなくエノーラの反応見てたら分かったわ、奴隷商人と会った時の反応もそうだけど・・・・。エノーラも無意識だったんだろうけどカインと会ってから首元に手を伸ばすことが多くなってたから・・・・・・」
「・・・・よく見ているな、最近はその癖も減ってきたんだがな」
別にエノーラをじっくり観察していたわけではないのだが、その行動がなぜか目を引いたのだった。
まるで、そこに何かがあるかのように時折り首を探る動きが目に付いただけのことであった。
カインと会ってからその回数が増えたような気がする。
「・・・・・・・カイン連れてきたのってまずかったかな?」
「いや、この際仕方ないからな、それに・・・・・・・」
その先の言葉が呟かれることは無かったのだが、クレメンスの暗い瞳を見ればその先の言葉を聴く気にはなれなかった。
エノーラ、クレメンス、奴隷、黒髪、ハーフ・・・・・・・様子を見るにどうやら他にも何か理由はありそうであるが、今これ以上聴くのは野暮というものであろう。
「んで、普通どおりに振舞っていいの?」
「あ、ああ・・・・それは構わない、むしろそうしてくれ、あいつもまだ時間がかかるだろうし・・・・・・」
深く考え込んでいたのだろう、若干どもっていはいたものの、クレメンスはしっかりと頷いてくれた。
「クレメンス」
「なんだ?」
「ありがとう」
「・・・・・・・何がだ?」
今急にお礼を言われたことが理解できなかったのだろう、その顔は疑問に満ちた顔をしていた。
それが少しおかしくてルミカは笑いながら疑問に答えた。
「ん~?ちゃんと説明してくれたことに対してよ」
「それが?」
「ふふっ、だってクレメンス私のこと信用してないんじゃなかったの?」
「・・・・・・それは、そうだったが・・・・・今は、少しは、信用しているつもりだ」
言われてから初めて思い出したようなクレメンスは、若干言いにくそうに言い訳をした。
出会ってから僅か4日、思っていたよりも楽しい日々を送っていたせいなのだろうか、彼らの間には確実に信頼とか信用、友情的な何かが芽生えていたのは確かであった。
元々人との付き合いはそれなりであったルミカだが、ここまですぐに仲良くなることができたのは久しぶりのことであった。
「だから、ありがとうって言ったのよ」
身元不明の怪しい女で、信用すらできなかった人間に、ここまで自分達の事情を話してくれたことに、感謝の意をこめて言ったのだった。
「そう、か・・・・・」
「さっ!いつまでも話し込んでたらさすがに二人に怪しまれかねないわよ?え~っと・・・・怒られてたって言う設定だから・・・・私がエノーラに泣きつけばいいのよね!!」
「おい、どうしてそう俺を悪者にする」
「違うも~ん、設定としてそれが一番自然だってだけよ~、そんじゃ!・・・・・エノーラぁぁぁっ!!」
爽やかな笑顔を浮かべたかと思えば、すぐに情けない顔を浮かべると全速力で二人のところへと走っていってしまった。
その後姿を呆れながら見つめつつ、クレメンスは額に手を当てて大きくため息を吐いた。
「・・・・・・・・こんな予定じゃなかったんだがな・・・・・・・・」
クレメンスは最初に会った時に本当にルミカのことを信用していなかった。
記憶喪失といいながら魔術や神術を操り、その身なりも小奇麗でとてもではないが旅をしている人間にも見えなかったのだ。
なにかの目的で近づいてきているのだろうと思っていた。
ボロが出よう物ならばエノーラに気づかれないようにさっさと追い払うつもりであったし、万が一必要であれば消すつもりであった。
それは、自分達の身の安全を考えれば妥当なものであっただろう。
ところが、である・・・・・今現在彼らは和気藹々と言った風情で一緒に旅をしている。
さらに言うのであれば、エノーラのことまでさらっと話してしまったのだ。
クレメンスからしてみればかなり致命的なことであった。
個人の情報というのはどこでばれるかもしれない、ましてはエノーラの話は非常にデリケートな話で、本来ならば話す必要はなかったはずであった。
それを話してしまった。
・・・・・・・・しかも、そのことに気がついたのがルミに言われてからというのだから、ありえないの一言に尽きるだろう。
そう言えば、昨日もカインに何か変な事を言っていなかっただろうかと思い出し、さらに自分の行動の矛盾にため息をつくことになった。
「俺はあいつの親か?」
自分でそう洩らしてしまうほどに普段の行動とはかけ離れた行動であることは間違いなかった。
だが、それを悪いとはどうしても思えなかった。
むしろ、面白いとさえ思うほどだった。
これを自分の仲間達が見たら確実に驚愕されるだろうな・・・・・なんてことを考えて苦笑しながら、クレメンスは三人のところへと歩みを進めたのだった。
話の構成が最近可笑しくなってきたような・・・。
行き当たりばったりで書いてるからなぁ~、書きたいことはイロイロあるんですけど、上手く纏まりません。
・・・・そろそろ戦闘に行ってみるか。とか考える今日この頃。