第4話 黒き狼の群れと秘められた力
少女・エリシアに連れられ、村の賢者ルドルフと対面した俺・便太郎。
黒き呪いの狼を退けたことから、「神の遣い」 などと大げさに持ち上げられてしまった。
しかし、ルドルフの分析によると、俺の屁はただの屁ではなく、伝説の神獣の息吹に匹敵するらしい。
そんな話をしている最中——
村の外から悲鳴が響き渡った!
黒き呪いの狼が再び現れたのだ。
しかも、今度は——群れ で!!
「まずいぞ……!」
ルドルフが杖を握りしめる。
俺たちは急いで村の入口へ向かった。
すると、そこには——
漆黒の狼が、五匹以上も蠢いている光景 が広がっていた。
「ひ、ひいいっ!!」
村人たちは恐怖に怯え、必死に逃げ惑っている。
黒き狼は低く唸りながら、一歩ずつ前へと進んでくる。
「くっ……今度は群れで来るなんて……!」
エリシアが蒼白な顔で震えていた。
「ちょ、ちょっと待て!! なんでこんなに増えてんだよ!?」
「恐らく……先ほどの狼が群れの者に報告したのだろう」
ルドルフが険しい表情で言う。
「黒き呪いの狼は、ただの魔獣ではない。
彼らは強い絆で結ばれた群れを形成し、仲間の仇を討つ習性があるのだ」
「そんなの聞いてねぇぞ!?」
「つまり……便太郎様が先ほどの狼を退けたことで、
今度はボスが直々に出張ってきたということじゃな!!」
「いや、だから俺は屁をこいただけだっての!!!」
そんなことを言っている間にも、狼たちは徐々に距離を詰めてくる。
俺はゴクリと唾を飲んだ。
(やべえ……これはガチで死ぬやつじゃね?)
前回は屁が偶然出たから助かったが……
こんな状況で都合よく屁をこくなんて、そんな芸当できるわけ——
「ブボッ!!」
出た。
俺の腹が無意識に反応し、軽めの屁を放った。
「えっ!?」
エリシアがびくっとする。
しかし——
狼たちはまったく動じなかった。
「え、効かないの!? なんで!?」
「ふむ……恐らく、先ほどの狼が群れの者に“学習”させたのだろう」
ルドルフが険しい顔をする。
「黒き呪いの狼は知能が高い……一度恐怖を植え付けられても、
群れの主がそれを“無意味”と判断すれば、次からはもう通用しない」
「屁に耐性つけられた!? そんなのありかよ!!!」
「便太郎様! どうするんですか!?」
エリシアが涙目で俺の袖を掴む。
「どうするもこうするも……俺、戦う手段ねぇんだけど!?」
「今こそ、真の“神の力”をお見せする時!!」
「いや、だから屁だっつってんだろ!!!」
俺は絶望的な気持ちになりながらも、後ずさるしかなかった。
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黒き呪いの狼は、こちらをじっと睨んでいる。
今にも飛びかかってきそうな雰囲気だ。
「ま、まずい……どうにかしないと……!」
俺は必死に頭を回転させるが、戦う手段は何もない。
「ルドルフ! なんとかできねぇのかよ!」
「むぅ……私が魔法を使えば、ある程度は時間を稼げるが……
敵の数が多すぎる……このままでは押し切られる!!」
「それじゃどうすりゃいいんだよ!!」
その時——
ズキンッ!
突然、腹の奥底から異常な圧力 が湧き上がった。
「ぐっ……な、なんだ……!?」
「便太郎様!? どうしたんですか!?」
エリシアが心配そうに俺の顔を覗き込む。
「……わからねぇ……でも、なんか……腹の中で何かが動いてる……!!」
俺の腹がゴロゴロと鳴り始める。
(ま、まさか……)
これは……もしや……!!
「で、出そう……!!」
俺は青ざめながら、ゆっくりとしゃがみ込んだ。
「ま、待ってください! ここで!? い、今!?」
エリシアが顔を赤らめながら慌てる。
「いや、止められねぇ!! 出るもんは出る!!」
俺は全身に力を込めた。
(来る……!!)
(俺の中に溜まり続けていた何かが……!!)
「ふんぬっっ!!!」
ポロッ
地面に、小さなうさぎの糞のような粒 が転がった。
「……え?」
「……」
沈黙。
しかし——
ポワァァァァァ……!!
その瞬間、小さな糞が白く輝き、弾けるようにオーラを発した。
「な、なに!?」
俺の体がふわっと軽くなる。
オーラが俺の体を包み込み、心地よい力が流れ込んできた。
「こ、これは……?」
「便太郎様……!」
エリシアが驚きの声を上げる。
「まさか……これが、神の力……!?」
「だから違えええええええ!!!!!」
俺は叫びながらも、確かに感じる。
力が……湧いてくる。
──ただし、ほんのちょっとだけ。
「ちょっとだけ足が軽い!!!」
「……え?」
「ちょっとだけ……ちょっとだけ身体がキレが良くなった気がする!!!」
「ちょっと……だけ!?」
「まだ足りねぇ!!! もっと出ねぇと……!!」
だが、俺の腹はもう限界だった。
「クソッ……この状態で戦うしかねぇのか……!!」
オーラを纏ったとはいえ、ほんのわずかのパワーアップ。
それでも、今の俺にはこれが精一杯だ。
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