第3話 村の賢者と伝説のオーラ
封印された少女と出会った俺・便太郎。
彼女は「黒き呪いの狼」を退けるために生贄になろうとしていたらしい。
しかし、実際に現れた狼は——俺の屁で逃げた。
まさかの救世主認定 を受けた俺は、少女に連れられ、
村の賢者のもとへ向かうことに なった……。
「すごいです! この方が神の遣いです!」
少女が俺の手を引き、興奮した様子で村の奥へと向かっていく。
ボロボロの民家が立ち並ぶ中、唯一立派な建物——それが村の賢者の住む家らしい。
「……あのさ、俺ほんとに神の遣いとかじゃないから」
「何を言っているんですか! あんなに恐ろしい黒き呪いの狼を一瞬で退けるなんて!」
いや、屁だよ!? ただの屁 だぞ!?
俺の必死の否定を聞かず、少女は勢いよく扉を開いた。
「賢者様!! 神の遣い様をお連れしました!」
室内は薄暗く、奥には白髪の老人が座っていた。
長い髭をたくわえ、杖を握るその姿は、まさにファンタジーの賢者といった雰囲気だった。
しかし——
「……エリシア!?」
賢者は目を見開き、椅子から立ち上がる。
「まさか……まだ生きておったのか!?」
「はい! この方のおかげで……!」
少女——エリシア が俺を指さす。
(そういえば、まだ名前も知らなかったな)
「えっと、お前、名前は?」
「私ですか? エリシア・フローレス です!」
エリシアは嬉しそうに微笑んだ。
「あなたの名前は?」
「あ、俺は便太郎……えっと、苗字は……まあいいか。」
「便太郎さんですね! 覚えました!」
少女に笑顔で名前を呼ばれるのは、ちょっと新鮮だった。
賢者——ルドルフ は、俺の名を聞いて一瞬渋い顔をしたが、すぐに真剣な表情に戻った。
「ほう……この者が……?」
ルドルフはじっと俺を見つめると、目を細め、しばらく沈黙した。
「なるほど……これは……」
「えっ、なに?」
俺は思わず身を引く。
するとルドルフは、深く頷きながら言った。
「間違いない……この者は“伝説のオーラ”をまとっている。」
「へ?」
ルドルフの言葉に、エリシアが目を輝かせる。
「やはり! 神の遣いなんですね!」
「いやいやいや!! ちょっと待てって!!」
俺は慌てて両手を振る。
「オーラってなに!? 俺、何もしてないぞ!?」
「おぬし……まさか気づいておらぬのか?」
ルドルフは眉をひそめる。
「気づいておらぬ……?」
ルドルフはゆっくりと椅子に腰を下ろし、じっと俺を見つめた。
「黒き呪いの狼を、一瞬で退けたという話……。
それほどの存在感を放つ者は、伝説のオーラを持つ者のみ……。
すなわち——神々の祝福を受けし存在……」
「違う違う違う!! 俺、ただ屁こいただけ!!!」
思わず叫んでしまった。
「……屁?」
「そう!! 俺が怖くて緊張してたら、自然に屁が出て、それで狼が逃げただけ!!」
ルドルフは目を細めたまま、しばらく沈黙していた。
そして——
「ふむ……」
「信じろよ!!!」
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「便太郎よ……」
ルドルフは渋い顔をしながら、ゆっくりと口を開いた。
「おぬし、その屁……ただの屁ではないかもしれぬ。」
「……は?」
「まさかとは思うが、その屁、尋常ならざるオーラを纏ってはおらぬか?」
「屁にオーラってなに!?」
俺が叫ぶと、ルドルフは目を閉じて腕を組む。
「古の伝承にある……“神獣の息” というものを知っているか?」
「知らんがな!!」
ルドルフは俺の無視を気にせず、語り始めた。
「古の時代……神々の遣いは、強大な敵をその“息吹”で退けたとされる……。
その息吹は、圧倒的な力を持つ者が発する神聖な気……まさに、おぬしが発した屁と酷似しておる。」
「屁を神聖視するな!!!!」
俺はガタッと椅子を蹴って立ち上がる。
しかし、ルドルフは神妙な顔のままだった。
「……いや、笑い話ではないのだ、便太郎よ。
黒き呪いの狼が逃げたという事実……それこそが、おぬしの屁がただの屁ではない証拠なのだ。」
「屁屁屁屁うるせえよ!!!!!」
俺の絶叫も虚しく、ルドルフはさらに深く頷いた。
「おぬしの屁……それは“神の息吹”なのかもしれぬ。」
エリシアは感動したように手を合わせて俺を見る。
「やはり……!」
「やはりじゃねえ!!!!」
俺は頭を抱えた。
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そんなやりとりの中、村の外から突然、悲鳴 が響いた。
「きゃああああああ!!!」
俺たちはハッと顔を上げた。
「ま、まさか……!!」
エリシアが青ざめる。
「黒き呪いの狼が……また!!?」
俺たちは急いで外へ駆け出した。
村の入口——そこには、先ほどの狼よりもさらに巨大な、
漆黒の狼が群れ を成して迫ってきていた。
「こ、今度は群れで来やがった!?」
「便太郎様!! どうか、再び神の力を!!」
「屁を頼るな!!!!!」