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ニューロンのマンサー

 パイナップルジュースほど口の中で酸味が弾け飛ぶ体験もなかなかない。そうかこんな味だったなって、もうとっくに僕の舌にも頭にも、その味の刻み込まれた跡が残っているから、途端にグラスに浮かべた氷が飲み込まれて、パイナップルジュースはその体積を時間とともに増やしていってしまう。どんなジュースであろうと、ジュースとは一口で満足してしまうものだ。甘すぎるんだ。だから言ったんだ。向こうは向こうでブラックコーヒーを頼んで苦労しているみたいだ。お互いに「大丈夫、一口しか飲んでないから」を交換し合い、それぞれの手元からグラスとカップを送り合った。つまりこれは一体どういう話なのかというと浮かれた話である。だからいつも通りのコーヒーの味が舌に帯びたとき、やっと店の内観から相手の顔までに色を見分けられるようになったわけだ。やっとのことで相手の目を見据えて、相変わらず人の目をみると背景が崩壊していく感じがある。急にテトリスの成分に細かく分かれて1ドットずつ落下していくんだ。そして僕は相手の目をみている。自ずと相手の右目から左目までの一帯部分が上層レイヤーとなって、横からみたときに相手は半アーチ状のミルフィーユになってもなお、にこやかな話をするのに励んでいる。そんな相手と机を挟んで向かい合った僕は熱いコーヒーをすすり上げる。それでまた色から構成まで一旦もとに戻って、相手と目が合うと再度崩壊を始める。店を出てからも別れ際に見当がつきだすまでは、今日はずっと楽しい一日だった。

 ニューロマンサー、重力が衰えるとき。SF小説は読んでもよく分からないけれどかっこいい雰囲気、味は感じ取れる。別によく分からないことをかっこいいで片付けているわけじゃない。ましてはよく分からないことをかっこいいと思っているわけでもなくて、とにかくこの二冊はかっこいいんだ。前にCitizen Sleeperをやっているときにおすすめされた二冊だ。もしもこの二冊を知っている人ならCitizen Sleeperがおすすめだ。こっちは素朴な生活感がいい味を出している。かっこいいかかわいいかでいうと、かわいいのかもしれない。

 帰るとカレンダーのイルカがお出迎えだった。コイツの肌がモデルになった青色絵具が販売されているらしい。今月の雑学の欄に書いてあった。来月のページをめくってみると今度はラッコが泳いでいる写真だ。来月の雑学の欄をみると、ラッコの1割は選んだ石の重さに耐えきれず沈んでしまうらしい。カレンダーだから死ぬとまでは書いていなかったが、この絶妙な配慮をすることと、この雑学をチョイスしたいとう気持ちの天秤がどうして釣り合ってしまったのだろう。すると僕はカレンダー会社の名前をひとつも知らないことに気づいた。大人しく手を洗った。

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