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Second stage 夢の訪れ(2)


 静かな沈黙が流れる格納庫で。


「えっと、はじめまして」


 取り敢えず挨拶をする。初対面の気まずさを和ませるならこれ一択だろうから。


「…………」


 返事がない。警戒されているのだろう。


「あー、どこから来たの?」


「…………」


 私の質問が理解できていないことはないと思うのだが、どこか困り顔で首を傾げる少女。畜生、可愛いな。


「あー、」


 まずい。

 これ以上の話すネタが無くなってしまった。普段どうやって会話をしていたか必死に思い出そうとするが、そもそもこんな状況が稀なためどれも参考になる気配がない。

 

 まさか、こうなるとは。


 その後も何度か、思いつくたびに話しかけては見たが、これと言った手応えがなかった。何を聞いても委縮してしまう。もはや「うん」やら「っひ」と言った返事をくれるまでに成長しただけ及第だろう。ねぇ。


ーー整備士のじいさんさん、まだ戻ってきませんか?


 そう思いつつ、私は少女を見つめる。

 いつの間にか椅子から降りて自分が入っていたカプセル装置に身を隠している。話すことがなくなって、ただ少女をじっと眺めていると人間族とは確かに少し違っているのに気が付いた。


 人間のモノと思えない長く透き通りそうな白銀色の髪。簡素な服から見える首筋に、鳥の羽のような小さな羽毛が生えている。もっとよく見ると、髪からはみ出す尖った耳に、その裏にも小さな羽毛が生えているのが分かった。

 身体的特徴から見ると人間と差ほど変わらないらしい。むしろ、こんな可愛らしい少女たちが旧帝国に迫害されていた理由が分からない。


 頭をフル回転させていると、ふと一つ思い出した。


「そうだ、これがあった」


 私はジャージのポケットから小さなパックを取り出す。


 携行栄養食だ。

 整備士の青年にもらったゼリー飲料を飲み切ったが、物足りなさを感じたので部屋に隠しておいたものを持ってきていたのだ。これは中がゼリー状になっているため、おそらくカプセル装置から出てすぐの少女でも食べられるだろう。


「これをあげる」


「……」


 少女にそれを差し出す。

 案の定、少女は黙って隠れたまま受け取る気配がない。


 もしかすると、これが食べ物だと分からないのかもしれない。と言うのも携行栄養食はインター・コアで主に普及しているもので、銀色のパックに包まれ外には何も記載されていなければ、封を切るまで匂いもしない。


 私はパックの封を開ける。

 ほんのり甘いフルーツのような香りが漂ってくる。


「……!」


 そのほんのり甘い香りは少女のお気に召したらしい。白銀の美しい髪からはみ出す尖った耳がピクリと反応を示した。

 そして、カプセル装置からそっと身を乗り出してパックを見つめている。


「どうぞ」


 そのタイミングを逃すまいと再度、少女にパックを差し出すとビクッとビビりながらも受け取ってくれた。

 そして、小動物のように匂いを念入りに嗅いでから、ゼリー飲料を飲み始める。


 チューっとゼリーを口にした少女。

 その顔がだんだんと笑顔になっていく。


「美味しい?」


 笑顔で頬張る少女は嬉しそうに頷いた。さっきまで私にビビっていたはずなのに、と思いながらも食べ終わるまでの間少女の顔を眺めていた。


 少女は食べ終わると、空のパックを私に返してくれた。

 カプセル装置の後ろから出てきて、私に手渡ししてくれたところから見て、恐怖心が薄れたことを実感する。あぁ、その仕草までもが最高にかわいい。


 よし、このチャンスは逃すまいと、なるべく親しみやすい声で再び名前を聞いてみる。


「ねぇ、君の名前は?」


「……シルフィーナ」


 少し困った様子だったが、小さな声で少女が答えてくれた。

 ようやく声を聞くことが出来た。見た目通りの可愛らしい声だ。


「シルフィーナ、ね。私はルーシ、よろしく」


 そう言いながら少女の頭を撫でる。すると照れたような表情を見せてくれた。てっきり拒絶されるかもと思っていたが、これは甘いゼリー状の携行食を渡した甲斐があった。


 くすぐったそうな少女の表情を眺めていると、ちょうど白髭の整備士が帰ってきた。


「ふむ、意思疎通はできたか?」


「一応、かな」


 私が頭を撫でても問題ないくらいなので、出来たといってもいいだろう。

 今はそれだけでも大きな進歩だろうと思う。


「この子はどうするんですか?」


「艦長の元に連れて行くことになった。どうするかはそこで決めるそうだ」


 どうなるか分からないが、艦長の元に行くのならあんまり気にする必要もなさそうだ。ウチの艦長は、人道的な行いを優先する人だからだ。

 あと、可愛いものには甘いし。


「では、わしはこの子を連れて行くよ」


「そうですか……」


 白髭の整備士に連れられて、少女が部屋を出て行く。


 自己紹介くらいしかまともに話していないが、別れるのはなんだか寂しい気がする。しかしこればかりはどうすることもできないので仕方がない。


 気が抜けると腹の虫から悲鳴が聞こえてきた。

 思い出したように時間を確認すると、想像以上に長いこと救難隊の格納庫にいたことに気が付いた。


 そろそろ物資の搬入が終わって肉料理が食べれるようになったに違いない。


 私は食欲という名の欲望に従い、食堂に向かうことにした。



 ☆★☆★☆★



 食堂に着くとおばさんが待っていた。


「おばさーん! 肉料理は?」


 私はおばさんの顔を見るや、そう叫ぶ。


「ついさっき補給品が入ったばかりね。だからまだに決まってるだろ」


 大声を出したからか、おばさんが怒鳴りながら出てきた。

 どうやら少し早かったらしい。


「そっか、ならここで待ってるから早く肉料理を!」


「少しは手伝うとかはないのかね」


「楽しみだなぁ〜」


 私がはぐらかすようにそう言うと、おばさんがあからさまにため息をついた。


「少し待ってな、もうすぐできるから」


 そう言うと、おばさんはキッチンの方へと入っていった。

 待っている間、食堂の窓から外を眺める。

 どこまでも広がる星の海。そんな窓の外を定期的に哨戒任務中の戦闘機が飛んでいく。激しい戦闘を終えたにもかかわらず、あれほど飛んでいられるほかのパイロットたちは尊敬する。


「あーあ、これからどうしようかな」


 そんな様子を眺めていると、思わずそう声がでていた。

 私の中には少なからず銀河中を自由に飛び回りたいと言う欲望が残っている。それは小さい頃から感じていたものと同じだ。

 初めて軌道衛星から戦闘機の軌道飛行を見た時から。


「はぁーー」


「どうしたのさ、そんなにため息をついて」


 頭を抱えているとおばさんが肉料理を持って来た。私の前に肉料理の盛られた皿が2つ置かれる。えっ? 2つも?


「これ誰は?」


 私の座っている方のちょうど反対側に置かれた皿。


「彼からの要望だよ」


 それだけ言うとおばさんはキッチンへ戻って行く。

 どう言う事だろうか。そもそも「彼」とは誰のことだろうか。いろいろと疑問はあるが、それ以上に目の前の食欲には逆らえない。

 私は気にせずに食事を始める。


「いただきます!」


 食べ応えがあるように大きめにカットされた肉。それを1切れ、フォークで刺して口へ運ぶ。ひと噛みすると中から熱々の肉汁が一気に滲み出てくる。


「うんまーい!」


 久しぶりに食べる肉だからか。

 はたまた料理をする人が上手なのか。

 その理由は分からないが、一つだけ言えるとしたら今という瞬間がとてつもなく最高に旨いという事だ。

 頬がとろけそうなほど美味しい肉汁に、さらに美味しさを引き立てる香辛料。これぞ、美食の真骨頂と言える。


「はぅあー、最高ぉー!」


 久々に味わうことのできる幸福感が舌とお腹を満たしていく。

 私は夢中で2切れ目、3切れ目と食べ進める。そして気づけば皿の上の肉料理が半分までに減っていた。

 私はそこでやっと、肉料理と共に出されたお茶を飲む。

 口の中がスッキリした。


 一息つくと、目の前に出されている肉の皿に目を向ける。まだ、暖かいようで湯気が立っているのが微かに見える。1切れくらいもらってもバレないよね。そうだよね。


 いや、ダメだ。なんだかあれを食べたらいけない気がする。

 女の予感というものだ。知らんけど。


「……よし、また食べるか」


 気を取り直し、自分の皿から肉を1切れつまみ口に運ぼうとしたその時。


「食べっぷりがいいな。ご一緒してもいいかい?」


 突然聞き慣れた声が背後からした。

 その声を聞いた途端、目の前の肉料理をつまみ食いしなくて心底よかったと私は安堵した。



感想などもお待ちしています!

それでは次回もお楽しみに

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